<米朝首脳会談>在韓米軍、縮小・撤退へ=米が半島関与から離脱?経済支援も日中韓に委ねる―東アジアで進む歴史的地殻変動

配信日時:2018年6月4日(月) 7時30分
在韓米軍、縮小・撤退へ=米、半島関与から離脱?経済も日中韓に任す
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史上初の米朝首脳会談の6月12日開催が決まった。中長期的には在韓米軍の縮小・撤退の可能性が浮上、東アジアの安全保障に甚大な影響を与える。トランプ大統領は対朝経済的支援を日中韓3カ国に委ねる方針も示しており、朝鮮半島問題からの関与離脱につながる。資料写真。
史上初の米朝首脳会談の6月12日開催が決まった。トランプ金正恩のディール(取引)成立で、中長期的には在韓米軍の縮小・撤退の可能性が浮上、東アジアの安全保障に甚大な影響を与えることになる。「米国ファースト」を貫くトランプ大統領は対朝経済的支援を日中韓3カ国に委ねる方針も示しており、コストがかかる朝鮮半島問題からの関与離脱につながる。これらの動きは米国中心の「戦後秩序」の終焉を意味し、世界で地政学的なリスクが高まることが懸念される。

米国は「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を要求してきたが、トランプ大統領は6月1日、米朝首脳会談で必要な措置の一括合意を求めない方針を表明した。さらに米朝首脳会談が非核化交渉の「始まりだ」と述べ、複数回の会談を経て合意を探る考えを示した。トランプ氏は北朝鮮に引き続きCVIDを求め、制裁を維持するとしながらも「『最大の圧力』という言葉はもう使いたくない。私たちはうまくやっているからだ」と言明。非核化プロセスの先行きには不透明感が漂う。

◆トランプ氏「朝鮮半島非核化は最も誇れる功績に」

こうした中で、米側の取引材料として浮上しているのが在韓米軍の縮小・撤退。米外交安全保障筋によると、トランプ大統領は首脳会談で、北朝鮮に対し非核化の明確な約束と引き換えに、朝鮮半島に駐留する米軍の大規模な削減を提示する方針だ。中長期的には撤退も視野に入っているという。

トランプ氏はかねて「韓国は自らの防衛のためのコストを負担する能力を持っており、駐留する米軍は大幅に減らすべきである」と述べている。トランプ氏は5月10日に、ワシントン近郊のアンドリュース基地で解放された3人の韓国系米国人を出迎えた際、「朝鮮半島の非核化は最も誇れる功績になるだろう」と爆弾宣言した。この時は人質解放というドラマ仕立てのニュースに隠れて大きな報道には至らなかったが、目標とする「非核化」は北朝鮮だけにとどまらず韓国も含めた朝鮮半島全体に及ぶことを認めた重要発言。トランプ氏の本音と見ることができる。

朝鮮中央テレビも、訪朝したポンペオ国務長官から受け取った「新たな対案」を金正恩委員長が評価したと報道。「新たな対案」の中には「半島の非核化」が盛り込まれているとされる。4月27日の南北首脳会談後の板門店宣言には「朝鮮半島の完全な非核化を実現する」との文言もある。同会談で平和協定への移行が検討されている朝鮮休戦協定には「すべての外国軍隊の朝鮮半島からの撤退」が盛り込まれている。在韓米軍の削減・撤退に加えて、トランプ政権は北朝鮮や中国がTHAAD(終末高高度防衛ミサイル・システム)の停止、撤去も検討されているという。韓国内には板門店近くの米軍陸軍基地を中心に米兵が2万人以上配備され、莫大な経費がかかっている。南北融和が進み平和協定が締結されれば縮小・撤退も可能になる。

◆日本列島が大陸への最前線に?

このような米国の軍事的なプレゼンスの後退案は、トランプ氏が大統領選挙キャンペーン中に打ち出した「世界に展開する米軍を削減して防衛負担を同盟国にシフトする」との公約に沿ったもの。トランプ氏の「米国ファースト」理念からすれば、同盟国を莫大な予算をかけて防衛するのは邪道と移るのだろう。これは「世界の警察官にはならない」としたオバマ前大統領の路線を引き継ぐものだ。財政・貿易大幅赤字にあえぐ米国としては当然の帰結である。

トランプ大統領は6月1日、「米国は北朝鮮に多額の資金支援はしない」と言明。日本、中国、韓国が経済支援を実施することになると明かした。北朝鮮への対応を、日中韓3カ国に委ね、米国は関与から経済面でも離脱する意向を示したものとして注目される。

在韓米軍が縮小・撤退すれば、日本列島が大陸に立ち向かう最前線になってしまう。在日米軍は北朝鮮に対して守るとの理由付けが不要になれば、韓国と同じく、米軍の削減も検討課題となり得る。その場合、日本の防衛体制や防衛予算の抜本的な見直しのほか、核武装に関する議論を巻き起こす可能性もあり、波及してしまう。実現すればアジア地域はもちろん、中東、欧州の安全保障に甚大な影響を及ぼすことになろう。

そもそも米朝首脳会談開催は、トップダウン決定とディールを好むトランプ氏ならではの歴史的な出来事。北朝鮮の核開発抑止で、クリントン氏からオバマ氏までの歴代大統領はことごとく失敗しており、これを解決すれば支持率の回復と今秋の中間選挙勝利にも好影響を与える。金正恩氏と直接会い、ディールすれば結果を残せると考えたようだ。北朝鮮に米本土を攻撃する核ミサイルの開発をやめさせたとアピールできる。

朝鮮半島問題の専門家の間では「金正恩氏は戦略家で、今後数十年はいまのポストにいることになるので、長期戦略を抱いている」との見方で共通する。北朝鮮は米国との準備交渉で、(1)韓国における米国の核戦力の撤退(2)米韓合同演習の中止(3)北朝鮮攻撃の放棄(4)平和協定の締結(5)米朝国交正常化―の5点を非核化の条件として提示した。

金正恩氏は核を最大限長く持ち続ける一方、トランプ氏が軍事オプションを行使できなくするカードを切るとの見方が大勢だ。北朝鮮は数十発の核弾頭を保有すると見られ、完全な非核化を約束しても、その一部を米国に差し出すだけで、残りは隠し持って事実上の核保有国であり続けるのではないかとの疑念は拭えない。米国は徹底的な査察実施と核弾頭の廃絶を要求している。日本にとって最大の懸念は米国が韓国と日本の安全保障を犠牲にして、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備凍結で北朝鮮と合意してしまうことだ。

◆平和協定締結が着地点

今後の展開としては、朝鮮戦争を終結させる平和協定の締結が着地点となる。終戦協定は米国(国連軍)、中国、北朝鮮によって締結されたため、この3カ国に当事国の韓国を加えた4カ国で協議される。非核化と制裁の段階的な緩和に向けた行程表の策定や北朝鮮に対する開発援助なども検討の対象となる。既に文大統領は経済的な支援、人的交流、北朝鮮での経済特区の再開を約束。 中国の習主席も2回に渡った中朝首脳会談で“支援”を伝えている。

米朝会談が成功すれば、朝鮮半島をめぐるリスクは大幅に低下する。しかし中長期には、東アジアにおいて、米国の軍事的なプレゼンスに依存する状況が大きく変化することは不可避。日本、韓国、北朝鮮、中国など東アジア全体の安全保障に甚大な影響を与えることを覚悟しなければならない。
 米国がつくり上げてきた「戦後秩序」の崩壊による中東の混乱などと併せ、世界で地政学的なリスクが高まっている。(八牧浩行


■筆者プロフィール:八牧浩行
1947年中国吉林省(旧満州)生まれ。 1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、取締役社長室長、常務取締役編集局長等を歴任。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。
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