「中国経済崩壊論」は暴論だった!=10年後には名実ともに米国抜き、世界一に―米欧アジアを“吸引”、勢い止まらず

八牧浩行    2017年9月19日(火) 5時0分

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「中国崩壊の序章」「中国経済、破たんへ」…。日本の書籍、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などは、中国経済の先行きについて「破たん」「崩壊」といった一方的な見通しを強調し、否定的な面だけをクローズアップしたりする傾向が鮮明である。写真は中国人観光客(東京・銀座)。

「中国崩壊の序章」「中国経済、破たんへ」…。日本の書籍や週刊誌、月刊誌、夕刊紙などの多くは、中国経済の先行きについて「破たん」「崩壊」といった一方的な見通しを強調し、否定的な面だけをクローズアップする傾向が鮮明である。

ところが中国のGDPは2014年に、実態に近い購買力平価(PPP)で米国を追い抜き、世界一位になった。15年以降も2位米国との差を拡げている。

 

世界銀行と中国国家発展改革委員会の共同研究報告書『中国2030―近代的で調和のある生き生きした高所得社会の構築』(2012年)は、「最も重要な地球的メガトレンドは中国の台頭であり、今後の20年間、中国以外の他のいかなる国も世界経済に大きな影響力を与える準備はできていない。世界最大の経済力を誇る国として米国を追い抜くだろう」と記した。

◆IMF本部、ワシントンから北京に移転も

 

国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は7月下旬に、IMF本部をワシントンから、中国が名目GDPでも米国を追い抜く10年後に、北京に移す可能性に言及、波紋を投げかけた。「中国の成長が今後も続くのなら、それはIMF加盟各国の議決権にも反映されることになる。われわれが10年後にこうした会話をする際には、ワシントンでなく北京がIMF本部になっているかもしれない。IMFの規則では、本部は経済規模が最大のメンバー国に設置する仕組みになっている」と明言した。

濱本良一国際教養大教授は「中国は名目GDPでも2029年に米国抜き、名実ともに世界一の経済大国になる」との論考を月刊誌『東亜』9月号(霞山会)に寄稿。16年の中国の名目GDP総額である11兆2182億ドルをもとにして、17年以降の年間平均成長率が「6.5%」、「6.0%」、「5.5%」、「5.0%」の4つの場合を想定して、2030年前後まで中国の毎年の名目GDPを試算。中国政府の発表で16 年の成長率は6 .7 %であり、将来、徐々に低下して行くと予想した。

 

一方米国については、16年まで過去10年間のGDP成長率の平均値「1.3%」を基準に試算。「『中国2030』が想定した中国成長率の最も低い場合の年率5.5%としても、2029年に中国の名目GDPが米国のそれを上回る」と試算している。

中国は世界最大の消費市場に発展、自動車販売台数は年間2800万台と米国の1600万台、日本の500万台を大きく凌駕している。パソコン、スマホをはじめ大半の品目で世界最大の貿易国でもある。

今、多数の中国人観光客が来日し、各地を旅行。化粧品、日用品などの日本製品を買い求めている。日本のメーカーや流通・観光・運輸業者は売り上げを伸ばし、日本政府も数少ない成長分野の一つとして期待。隣国のパワーによって日本経済が救われている現実を直視すると、「嫌中」本が、いかに一方的で浅薄か分かる。

ある月刊誌編集者は「読者の多くは中国の急成長ぶりに脅威を抱き、中国のマイナス情報を求めているので、勢いアラ探し的な記事が多くなる」と釈明した。ある週刊誌の編集幹部も「中国の悪い話を大げさに書くと、確実に部数がはける」と打ち明ける。出版・新聞不況の中で「嫌中」論は「貴重な金鉱脈」として期待されているらしい。

新聞情報でも実態は正確には伝えられていない。「日中対立を超える『発信力』―中国報道最前線 総局長・特派員たちの声」(段躍中・編、日本僑報社刊)によると、「反日デモや大気汚染など注目されるテーマでは衝撃的な場面や深刻な内容について詳しく報じている。だが、ストレートなニュースにならない等身大の中国、そして中国人の姿を伝える機会は非常に限られている」(大手新聞社元特派員)という。

全国紙記者は「中国崩壊論」がこの20年近く日本のメディアに浮上し続けている現実を紹介した上で、こう著述する。「こうした中国崩壊論はどうしてたびたび浮上してくるのか。恐らく『中国が崩壊したら嬉しい』という日本国民のニーズがあるからではないか。そんな記事や本を読みたいという欲求が日本人の潜在意識の中にあるのかもしれない」。

◆「シャドーバンキング(影の銀行)崩壊」も杞憂に

こうした日本の読者・視聴者の「ニーズ」を受けて、最前線の経済記者は、東京のデスクの「中国経済好調の記事は短く、不調の記事は長く書け」との要求に悩まされると明かす。その結果として、紙面を飾る中国関連記事のほとんどは「中国経済不調」のトーンになりがちという。確かにGDP6%台の伸びを「中国6%台に減速、外需低迷響く」「力強さ欠く」といった見出しが躍る。ちなみに日本は1%台に低迷しているにもかかわらず、である。数年前には「シャドーバンキング(影の銀行)崩壊」を理由とした「危機説」喧伝され、日本の新聞、雑誌に大見出しが繰り返し躍ったが、結局杞憂に終わった。

作家の石川好氏は「日本は中国に対し、1931年以来宣戦布告もせず、事変扱いにして中国国内で戦闘行為を行ってきた。中国を他者として認めてこなかったわけで、一段見下していた」と指摘。「日本でこの傾向は今でも続いており、中国が大きくなったことを認めたくない心情が働いている。日本で『中国崩壊本』や『嫌中本』ばかりが溢れるのは、現実を全く直視していない証拠である」と断じている。

中国大使も務めた丹羽宇一郎日中友好協会会長(元伊藤忠商事会長)はレコードチャイナとのインタビュー(2017年2月16日)の中で、「中国は建国100年の2049年に「中華民族万歳」を描いてやっている。中国経済は山谷があるが、あれだけの大きな市場で経済成長をあれだけの率で達成するのは相当なもの。今までにどの国も経験したことがないことをやっており、潰れることはない」と指摘。日本国内に溢れる「中国経済崩壊論」について「中国が潰れたら日本が一番影響を受ける。日本は強くなればいいが、日本人が今のように、心が狭いままでは経済も伸びない」と警告している。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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