パン屋で出会ったおかしな日本語―中国人学生

日本僑報社    2023年2月19日(日) 9時0分

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大学二年生の時、学校の近くを散歩していて、あるパン屋の「日本小麦粉使用」の文句に誘われて店に入った。そして…。

最近、仮面ライダーの中国語翻訳をめぐる議論がネット上で話題である。中国公式の翻訳は機械翻訳を使った痕跡があるし、仮面ライダーの変身シーンにおける翻訳も直訳ばかりで、真面目さが足りないと言われている。実際、ビリビリというウェブサイトでは、変身のシーンにおける翻訳に問題があるかどうかという討論が行われ、変な翻訳は若者の間のネタにもなっている。

日中、又は中日翻訳における誤訳は数え切れないほどあり、私も見かけたことがある。大学二年生の時、学校の近くを散歩していて、あるパン屋の「日本小麦粉使用」の文句に誘われて店に入った。そしてすぐに、トーストの包装紙に書かれた日本語が目についた。「毎日が必要です。元気いっぱい」。ですます体はともかく、「毎日が必要」とは、「このトーストは一日の活動に必要だ」という意味を表したいのだろうか。そうでなければ、まるで「一日生きる元気を失った人」へのメッセージであるかのように見える。日本語の「毎日」と中国語の「毎日」との用法上の違いを見落として、意味不明になってしまったと推測される。

その後、寮に帰った私はルームメイトと誤訳について議論した。

「どうしてそんなに簡単なところで間違ってしまうんだろう」

「うーん、やっぱり翻訳者がバカだからかな。ちょっと考えてみれば分かるのにね」

当時はそれで、あらゆる誤訳の問題を解決したつもりになって、私たちは「そうね、日本語能力を高めるしかないね」と頷きながら、バカな翻訳者にはならないと決心した。

しかし、大学三年生になって翻訳の授業を受けた私は、それが決して簡単な作業ではないと理解するようになった。どれほど真剣に辞書を引いても、正しい訳語にたどり着かない時があったからだ。母語の発想を捨てなければならなかった。言い換えれば、日本の文化を踏まえて翻訳しなければいけなかったのである。例えば中国語の「老人」の訳語である。日本語にどう訳せばいいか見当もつかない。中国語では六十歳以上の方を全部「老人」と呼ぶが、中日の高齢化状況の違いで、日本では「年配者」「お年寄り」「老人」などに分けられる。「老人」の年齢範囲がかなり異なっているからだ。

私は何度も間違いを繰り返すうちに、誤訳の根本的な問題は単に翻訳者の能力と単純化できないと気がついた。心の部分、つまり翻訳者が中国語あるいは日本語をどれほど尊重できているかに関わっているのだと。

言葉が文化である以上、使う人々の社会生活に根ざしているのは明らかだ。翻訳者がその社会について理解しているかどうかは、訳語によって一目瞭然である。だから、優れた作品には優れた翻訳者が必要になってくる。科学技術の進歩につれて、機械翻訳の技術も発展してはきた。しかし、それはあくまでも登録された辞書機能に基づいて訳すのみで、文化を尊重する意識は介在していない。本当の意味で訳を完成できるのは生身の人間であるはずだ。

近年、中日両国の関係性が深まるにつれて、文化交流も盛んになってきた。多くの若者は日本文化に心を奪われ、外見のかわいらしさや、内に秘められた職人気質という日本式のものを求める意識が強まった。その結果、「日本式」であることを利用する企業も増えてきた。しかし、いくらレッテルを貼ったとしても、日本語に対する敬意がなければ本末転倒であろう。パン屋で出会った誤訳にそれはよく表れている。

ひとことで言えば、相手の言葉の唯一性に対する尊重が誤訳問題を解決する鍵である。誤訳が起きるのは、まだその言葉と言葉自体に結びつく文化とを十分に尊重していないからではないか。翻訳者、また日本語を学ぶ私たちは日本語能力を高めるだけではなく、日本文化に対する理解も深めないといけない。互いの文化に対する敬意と尊重こそが、誤訳をなくすこと、ひいては中日両国の本当の意味での交流と理解につながることを信じてやまない。

■執筆者:陳韓(中国人民大学)「街中にあふれる誤訳を減らそう――私の解決策」

※本文は、第18回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集『日中「次の50年」――中国の若者たちが日本語で綴った提言』(段躍中編、日本僑報社、2022年)より転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。


※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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