「無人船」は実現するか? 技術革新による自動化は可能―自然の脅威、予測不能の変化の克服がカギ

山本勝    2022年2月1日(火) 9時20分

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過去半世紀を経て、船の世界はアナログからデジタルへ様変わりし、安全性、効率性、信頼性の向上は乗組員を半減させた。この先、さらなる技術革新によって船の無人化は実現するのか?

過去半世紀を経て、船の世界はアナログからデジタルへ様変わりし、安全性、効率性、信頼性の向上は乗組員を半減させた。この先、さらなる技術革新によって船の無人化は実現するのか? 海という自然にひそむ予測不能のリスクを認識し、人類を育んできた海という自然に対する謙虚さを失わず、技術革新に取り組むことを願う。

星や太陽の観測で船の位置を知り、モールス信号で情報を交換、暑ければ涼を求めて大空の星を眺めながらデッキで眠る。

これは筆者が新入りの航海士として船に乗り組んだころの外航商船のすがたである。それから半世紀余の現代の船は、スマホと同じように世界のどこの海にいようがいつでも誤差なく位置がわかり、衛星経由でインターネットがつながり、乗組員は冷暖房完備の個室で毎日シャワーを浴びる。

技術革新の船舶への導入は、陸上より少し遅れたが、船の3つの機能の部分で急速にすすんできた。

◆衛星経由のICT技術を駆使した航海計器、通信システム

ひとつは衛星経由のICT技術をつかった航海計器、通信システムの革新である。陸上と同じくすべての機器・システムがアナログからデジタルへ。船の操縦席であるブリッジ(船橋)はさながら空の管制センターのごとく、処せましと青白い光を放つ電子機器がならび、乗組員がこれらの機器をしずかに監視しながら粛々と船を進める。

昔はブリッジでの航海士の仕事といえば肉眼による船の周囲の監視とともに陸上が見えればコンパスを覗き、海しかなければ六分儀による天測で、テーブル上の海図に自船の位置を書き込みながら忙しくたち働くというのが相場だった。様変わりである。

もうひとつは、船の心臓部ともいえる機関室への技術革新の導入だ。巨大な重量のある船体を進めるエンジンも付随する種々の機器もふくめて巨大なプラント。船体の動揺やアスファルトに近い低質油を燃料として使うなど厳しい条件での運転は、機関室で働く乗組員に肉体的にも精神的にも過酷な負担をかけてきた歴史がある。汗まみれ、油まみれがかつての機関部の乗組員のすがたである。

◆全体制御がシステム化、船員居住環境が向上

航海系と並行してコンピュータによる制御技術の導入で、エンジンそのものの信頼性の向上や効率化とともにプラント全体制御のシステム化がはかられ、いまや機関部乗組員の主たる仕事はエアコンの効いたコントロームルームでの監視作業となった。まさに巨大プラントの保守管理に当たるテクニカルエンジニアである。

さらにひとつは、居住環境、船員にとっての社会環境の革新だ。より豊かな生活への願望は船にもおよび、船の大型化とともに乗組員の居住区画には個室のスペースが確保され、仕様の規格化によりビジネスホテル並みの設備が整えられていった。 さらには、乗船中は社会からの隔離を余儀なくされる船員にとって、家族や友人とのコミュニケーションが衛星経由のインターネット通信で容易になったことは船員の社会環境にとって革新的な出来事だ。(問題は通信料金が高額のことであるが)

こうした技術革新が船にもたらしたものは、運航の安全性、効率性、信頼性の飛躍的向上と乗組員の労働環境、生活環境の改善であるが、一方で一船に乗り組む船員の数は半世紀前の40~50名から半減し、30万トンの原油タンカー、2万個積みの巨大コンテナ船でも25名程度で運航が可能となった。

いま船舶の世界でも自動運航、自律運航の研究がすすめられているが、はたしてこのさき行きつくところ、船の無人化は実現可能だろうか?

◆欧州では「無人フェリーボート」を運航

すでに欧州海域の限られた条件下で無人化されたフェリーボートが運航されている事実もあり、今後は陸上からの監視や制御技術と相まってICTやIoT、AIのさらなる導入により、物理的な船の無人化の可能性は拡大していくだろう。

しかし、筆者が経験した海という自然の脅威、予測不能の変化、不可知さは人間の想像を超えたものがあり、はたして人間はそこに潜むリスクを克服できるのか? さらに海上を利用する船は大小さまざま、用途も性能もまちまちなまま、おなじ2次元の海上に混在するという複雑な条件下で、これを一律にコントロールする運航システムが実現できるのか?

限られた条件のもと、限られた船による、限られたた水域での無人化は予測可能としても、世界の海を無人船が走り回るシュールな未来はなかなか簡単には画けない。

いまだに船員の訓練には、アナログの象徴のような帆船が使われている。人類はいにしえより海とともにあり、海という自然から学ぶことが人間の成長につながるとの考えは消し難くいまもある。

人知を超える海という自然の存在、そして海という自然に学び、育まれてきた人間。

海に対する謙虚さを失わず、技術革新に取り組んでいって欲しいと願う。

■筆者プロフィール:山本勝

1944年静岡市生まれ。東京商船大学航海科卒、日本郵船入社。同社船長を経て2002年(代表)専務取締役。退任後JAMSTEC(海洋研究開発機構)の海洋研究船「みらい」「ちきゅう」の運航に携わる。一般社団法人海洋会の会長を経て現在同相談役。現役時代南極を除く世界各地の海域、水路、港を巡り見聞を広める。

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