「十四五」時代の日中ビジネス(4)グリーン発展

松野豊    2021年6月4日(金) 7時20分

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「十四五」において日本企業の中国ビジネスという観点から注目すべきもの、最後はグリーン発展、つまり生態環境重視型の経済成長である。資料写真。

「十四五」において日本企業の中国ビジネスという観点から注目すべきもの、最後はグリーン発展、つまり生態環境重視型の経済成長である。

中国の環境問題は、改革開放後の1990年代から深刻化していた。1989年に環境保護法が公布され、その後2015年に同法の大きな改正が行われた。この結果水質、大気の汚染については、近年かなりの改善を見せている。

しかし過去の先進工業国が苦しんできた「経済成長と環境保護の両立」というジレンマについては、中国も解決はできていない。というより中国は、国内に様々な問題を抱えているため、経済大国になった今でもまだ経済成長を追い求めている段階であり、環境保護を最優先にはできないという事情がある。

しかし一方で、経済大国化に伴って石油などのエネルギーの外部依存度が増加し、またエネルギー調達を巡る外交関係も複雑化していることもあって、中国は近年新エネルギーの開発に力を入れている。いわゆる非化石エネルギー源の開発では、中国は世界をリードする存在になっている。

習近平国家主席は、2020年9月の国連総会において、2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素の実質排出量ゼロ)を実現すると発表した。

この宣言に対する世界からの評価については様々なものがある。中国が国際公約において初めて排出総量に言及したことは評価できるだろう。しかし中国は既に世界最大のCO2排出国であるにも関わらず、2030年まで排出量の増加を宣言するのは、自らが発展途上国であるとの立場を変えておらず、従来からの主張とは変化がないという評価もある。

統計データから、CO2累積排出量を計算してみた。図1は米中日の排出量と累積排出量の推移を示したものである。CO2排出量において中国が米国を上回ったのは、各種統計からみると2005年頃である。その後も中国は高度経済成長を継続しており、中国が発展途上国としての立場でよく主張する「過去からの蓄積」という観点で考えたとしても、図1をみる限りこの30年間における累積排出量では、すでに中国は2016年頃に米国を上回っている。地球温暖化における中国の責任は年々重くなってきている。


さて「十四五」においてグリーン発展に関係するKPIは、「単位GDP当たりエネルギー消費量削減」、「単位GDP当たりのCO2排出量削減」の2つが代表的なもので、これらに大気汚染、河川水質、森林覆蓋率の各指標を加えて合計で5つである。

過去の五か年計画(十三五)では、耕地面積、水消費量、非化石エネルギー比率、汚染物排出量などのKPIがあったが、「十四五」ではこれらのKPIはなくなった。すでに達成したということでもないので、今後の5年は、省エネとCO2削減に注力するという意図が読み取れそうだ。

こうした中国のグリーン発展政策に関連して、日本企業のビジネスチャンスは何だろうか。ひとつの視点は、日本も中国もCO2削減という目標はかなりハードルが高いものであるという共通性である。

日本企業は、現在でも中国からは先端技術に関連する投資を求められている。しかし日本は中国と欧米諸国との種々の摩擦に関連して、中国への先端技術投資は慎重にならざるを得ない。しかしこと地球環境分野に限って言えば、お互いに目標が高いこともあって、技術協力をしていく障害があまりない。

日本企業からの技術投資で、有望なものは、都市環境分野であろう。中国は大都市などにこれまで巨大なインフラ投資をしてきたが、初期に投資された都市などでは、防災対策や老朽化などの問題が顕在化しつつある。

新規の投資ではなく、既存の都市機能の再生や高度化は、日本も1999年頃の都市再生事業を皮切りにノウハウが蓄積されている。また製造業等の生産設備の更新や省エネ改造なども、日本企業が得意とする領域であろう。

日本企業は、都市機能と生産設備の高度化を核としたいわゆるエコシティ建設を日中のコラボレーションにより進めていけるだろう。中国は、先端電池や水素社会構築などの適用フィールドとしても魅力的である。こうした分野であれば技術移転の“負の効果”も比較的少なく、世界貢献にもなるのでビジネスを進めやすい。

■筆者プロフィール:松野豊

大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。

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