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<直言!日本と世界の未来>米国「輝いた時代」の想い出、困難や分断克服を―立石オムロン元会長

配信日時:2020年11月8日(日) 6時20分
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米大統領選の開票で民主党のバイデン前副大統領がトランプ大統領を逆転。当選に必要な選挙人の過半数獲得は確実という。早く両陣営が納得し「ノーサイド」としてほしいが、対立と不信は長期化しそうだ。

注目の米大統領選が投開票された。開票で民主党のバイデン前副大統領がトランプ大統領を逆転、当選に必要な選挙人の過半数獲得は確実という。ところがトランプ氏は「絶対に諦めない」と強調。郵便投票の有効性を念頭に「あらゆる法的観点」から追及するとし、裁判で徹底的に争う考えを示している。早く両陣営が納得し「ノーサイド」としてほしいが、対立と不信は長期化しそうだ。

筆者はかつて立石電機(現オムロン)の海外担当として米国に度々出張、長期滞在したほか、日米の政財界人が参加した会議にも出席した。数々の大統領選を見聞したが、今回ほどの無秩序と分断に覆われた大統領選はなかったと思う。忍耐が求められるが、民主主義の真価が問われる局面だ。

警官による黒人死亡事件を機に差別抗議デモが広がり、投票直前にも同じような事件が起きた。走行中のバイデン氏の陣営の車が反対派に取り囲まれ、トランプ氏が住むホワイトハウスの周囲に防犯用のフェンスが張られた。投票日以降も両派による暴力的な対立が続き、暴動なども懸念されているという。これが民主国家の手本とされてきた米国の現実かとショックを禁じ得ない。

分断をあおり、混乱を増幅させた責任は主にトランプ氏にあると考える。米国での新型コロナウイルスの犠牲者は23万5000人を超え、世界で最多。連日10万人以上が新たに感染している。トランプ政権は感染拡大を軽視して十分な対策を講じず、黒人差別抗議デモに対抗する白人の過激な活動をやめさせようともしなかった。トランプ氏は 選挙日以降も郵便投票を受理する激戦州の知事に対し、「街中で暴力が起きる」と脅したが、暴力を助長するような言動はトップリーダーとしてあるまじき言動である。

にもかかわらず、トランプ氏はバイデン氏の後塵を拝したとはいえ、再び多くの支持を得た。その要因を真剣に考える必要がある。トランプ氏への支持が中西部の「ラストベルト」(錆びた工業地帯)で前回と同じく高かったことは、注目される。経済問題を最大の課題と考える人の多くが「米国第一」を掲げるトランプ氏に投票。生活に困る人々が支持したようだ。

「反グローバル化」も、米国に根付いた潮流とみるべきだろう。戦後の自由な国際秩序を主導し、それを守ってきたかつての米国に戻ることはあるまい。トランプ政権は国際社会の足並みも乱した。保護主義的な通商政策に加え、地球温暖化対策のパリ協定を破棄するなど多国間の枠組みに背を向けたが、地球規模の緒課題は、米国抜きでは解決できない。新型コロナのワクチン供給や核軍縮の交渉でも米国の責任は重い。

大統領就任の可能性が高いバイデン氏は、多国間主義を重視するようだ。国内外の分断を修復し、秩序を回復するのは容易ではない。党派の利益だけでなく、すべての国民と米国のために最善を尽くしてほしい。

今回大統領選でイリノイ州、ミシガン州が激戦州として脚光を浴びたが、筆者にとってミシガン湖に面したイリノイ州の大都市シカゴは懐かしい街。半世紀近く前を想起した。立石電機が米国へ本格的な進出をした1970年代から1980年代にかけて、シカゴ・シアーズタワーの53階にオフィスを構えていた。シアーズタワーは高さ500メートル、113階建ての当時世界一の高さを誇っていたビルで、部屋はちょうどその中間にあたる。夜遅くまで仕事をしていると静寂そのもの。こういう時にホールにあるトイレに座っていると、「キリキリキリ。キリキリキリ」とビルの軋む音がする。ミシガン湖からの強烈な風に煽られて一生懸命こらえているのであろう。その音がまるでビルの泣き声に聞こえ、不気味たった。

それでもビルの外に出れば産業人も文化人も一般市民も明るく協力的だった。あの頃の米国は世界一の超大国として光り輝いていた。

その後、財界人会議などで大変お世話になった方にハーバート・パッシン氏(1916年〜2003年没)がいる。GHQ(連合国軍)で、戦後の日本の農地改革を実行した人として知られ、当時米コロンビア大学教授だった。日本にも事務所を持ち、年の3分の1を日本に滞在している知日家で、大の親日家でもある。

当時の日米関係の先行きを心配し、日本について率直な思いを述べてくれたことがあった。

「日本は確かに経済大国になったが、日本人の意識、ものの考え方、行政機関の在り方は、自国の変化に追従していない。多くの日本人は、日本の役割について大国意識でなく小国意識でしか考えていない。外国から見て日本はいまだに島国根性で、防衛・防御的わがままで、自国の利益にのみ興味を示し、他国のニーズや立場に無頓着だ」と苦言を呈した。

さらに「お金に結びつくことのみに興味を示し、広い人間的な問題には関心を示さない。世界で起こる問題の解決に自ら立ち向かわず、お金を与えるだけで逃げようとする。日本は与えられたものは貪欲に享受し、自らは与えようとしない。これからは日本人の意識改革と行政機関の変革が必要であり、ただ単に広報、ロビー活動だけでなく、実体を変える努力をすることが大切である。また世界的なレベルでの事柄にも謙虚さをもって参画することが必要。通商摩擦の解決に当っても、自国の利益のみを主張するのでなく、世界に対しての善意と誠意を示すためにも、少なからず犠牲を覚悟すべきである」と言われて、大変恥ずかしい思いをした。

米国では「これぞ世界のリーダー・アメリカ!」と、多くの点で学ぶところが多かった。困難や分断を乗り越えてほしいと切に願う。

<直言篇139>



■筆者プロフィール:立石信雄
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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