<コラム・莫邦富の情報潮干狩り>逆流遡上の日本クルーズ「ピースボート」、華麗なる変身へ

莫邦富    2020年10月29日(木) 18時0分

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家で夕食を取る時、新型コロナウイルスが発生してからは食事をしながら7時のテレビニュースを聞く習慣を復活させた。写真はパシフィックワールド号(旧サン・プリンセス号)。

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ここでさりげなく触れた「旧サン・プリンセス号」というのは、実は日本の旅行業の王者と目されるJTBが運営する世界一周チャータークルーズに使っていたプレミアム客船なのだ。同クルーズの紹介には、「世界最大の国際的なプレミアムクルーズラインである、プリンセス・クルーズ。エレガントで心地よい雰囲気とともに上質なカスタマーサービスを提供し、50年以上にわたって愛されてきました。アメリカはもちろん、ヨーロッパ、オセアニア、アジアなど世界中から支持されています」と書かれている。

ピースボート側にとっては、これまで夢にも思っていなかった豪華客船をこれから世界一周の旅に運航させることになったのだ。このご時世の中でのこの作戦。証券取引市場の表現を借りれば、まさに「逆張り」そのものだ。

ピースボート側の経営幹部の話によれば、オーシャンドリーム号を退役させ、パシフィック・ワールド号にはピースボート1号船の大任を背負ってもらう。ゼニス号は東地中海の近距離クルーズに投入されるという。

■幹部が口にした、「心震える言葉」

2隻体制は変わらないが、その内容は目を見張るほど一変した。つまりピースボート側は豪華客船を思い切りよく入手しただけではなく、海外でのクルーズ旅行も果敢に手掛けるように決めたのだ。私のやや驚いた表情を見て、ピースボート側の経営幹部はやや照れくさくなり、「クルーズ業界がこのコロナ禍で消えるはずはありません。クルーズを愛する人々がいます。私たちもクルーズ事業以外にできることがあまりないから、来年4月以降に賭けます」とその作戦の冒険性を隠さずに説明した。

その経営判断は逆張りそのものだが、勝算が50%でも賭けてみる価値はあるだろうと私は思った。帰り際に、その経営幹部からふと漏れ聞こえてきた言葉に心が震えた。

「こんな豪華客船がこれほどのたたき売りに出されてくる。なかには買い手がつかずそのまま造船所に送られ、解体されていく豪華客船もある。こうしたのを見たら、活用せずにはいられなかった。無視することはできなかったのだ」。海、太陽、クルーズ旅行、そしてクルーズ船を愛してやまない人間の魂の叫びのように聞こえた。

原稿を書き上げ、念のため事実関係の再確認作業をしている時、ピースボートのクルーズ販売現場から最新の情報が届いた。直近の1週間で乗船をキャンセルして払い済みの旅行代金の払い戻しを選択したお客さんからの「払い戻し作業を中止して来年の乗船に変更してほしい」という申し込みが100件もあるということが分かった。しかもその傾向が9月からすでに続いている。パシフィック・ワールド号の起用効果がとても大きい。

関係担当者は「日本国内市場はほぼ安心できるようになったが、肝心の中国市場はまだ動き出していない。依然として賭けの状態にある」とやや不安そうな焦りを見せている。

パシフィック・ワールド号が世界一周のクルーズ旅行に正式に出るまでは、気を緩めることのできない日々がまだ続く。

■筆者プロフィール:莫邦富

1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。
知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化にいたる幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。また日中企業やその製品、技術の海外進出・販売・ブランディング戦略、インバウンド事業に関して積極的にアドバイスを行っており、日中両国の経済交流や人的交流に精力的に取り組んでいる。
ダイヤモンド・オンラインにて「莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見」、時事通信社の時事速報にて「莫邦富の『以心伝心』講座」、日本経済新聞中文網にて「莫邦富的日本管窺」などのコラムを連載中。
シチズン時計株式会社顧問、西安市政府国際顧問などを務める。

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