<直言!日本と世界の未来>「人生100年時代」に備えるために、年金は「長い老後」見据えた制度設計を―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2019年7月14日(日) 5時0分

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多くの国民が人生100年時代に不安を抱いているとすれば、金融庁の年金報告書を取り下げても不安が収まるはずはない。長い老後という現実を見据えた制度設計をオープンな形で議論する必要がある。

金融審議会の報告書が年金不足に警鐘を鳴らし大きな波紋を投げかけた。この報告書は麻生太郎財務相が2016年4月、金融庁の審議会に「経済の持続的な成長及び家計の安定的な資産形成を支える」方法を検討するよう諮問したことを受けて、有識者が3年がかりでまとめたもの。「平均的な夫婦が老後30年を生きるとすれば、年金収入だけでは2000万円不足する。今から資産形成などを考えておくべきだ」と結論づけた。

公的年金制度は現在支払っている年金を抑えることにより、将来世代の年金額を底上げする仕組み。少子高齢化が進むなかで給付は抑制せざるを得ない。現在の年金制度は2004年の制度改革を前提としたもの。そこでは少子高齢化が進む中でも年金制度を維持できるように、年金給付額を徐々に削減していくマクロ経済スライドの仕組みが導入された。この結果、年金制度の持続可能性が高まったことを「100年安心」と呼んだ。

しかし、給付額を削減することで制度の持続性を高める仕組みなので、個々の高齢者の誰もが「100歳まで安心」とはならない。今は年金だけでも何とか最低限の生活を確保できる高齢者が多いが、経済の低成長が続けば将来世代の老後は苦しくなっていく。

人々は長い老後に対する不安を覚えて防衛行動を始めている。一つは、高齢者の労働参加率上昇が続いていることだ。団塊世代が70歳を超えれば労働参加率の上昇にも歯止めがかかると思われていたが、そうした兆候はない。老後への不安が高齢者を仕事に駆り立てているとの指摘もある。もう一つは若年層の貯蓄率が顕著に上昇していること。若者には以前から「自分たちは年金には頼れない」との思いが強く、人生100年と言われれば、もっと貯蓄に励む必要があると思い始めたのだろう。

多くの国民が人生100年時代に不安を抱いているとすれば、報告書を取り下げても不安が収まるはずはない。長い老後という現実を見据えた制度設計をオープンな形で議論する必要がある。報告書に盛り込まれた「年金不足分」について、一定の所得がある人は確定拠出年金や少額投資非課税制度(NISA)で備えるのは有効である。低所得者は公的年金により頼れるようにするという選択肢もあるのではないか。実際、多くの預金者・投資家は、我が国の金融機関が、人々の資産運用を手助けするために十分な貢献してきたとは言えず金融機関の資産運用仲介能力に疑念を持たれている。

老後のお金の対策として最も有効なのは「寿命が延びた分、長く働く」こと。国も、高齢者に働いてほしい、そして税金や保険料を納めてほしい、と考えている。高齢者が働きやすく、働くと有利になるような環境や制度を整備すべきである。

自分が真にやりたい仕事があるかという問題や健康維持の問題も無視できない。ゆったりと長く働けるような仕事を探しておくことも老後の備えにとっては大切だ。現役時代のようにフルタイムでバリバリ働く必要はなく、年金収入を基本にしながら、やりたい仕事にチャレンジすべきだろう。

<直言篇93>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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