<直言!日本と世界の未来>トランプ氏の「認識ギャップ」=30年前に立ち会った日米財界人会議を想起―立石信雄オムロン元会長

配信日時:2018年7月8日(日) 5時0分
トランプ氏の「認識ギャップ」=30年前を想起―立石オムロン元会長
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トランプ米大統領は議会中間選挙を控え、強硬的な経済外交で行動力をアピールしている。しかしグローバル化の中で、相互経済依存が進展しており、このまま報復合戦になれば米国も痛手を負う。米通商政策は脈絡を欠いており、世界経済のさらなる混乱を招く懸念も強い。
「米国第一」を掲げるトランプ大統領は、保護主義的な政策を次々に発動。欧州連合(EU)や日本、カナダへの鉄鋼とアルミニウムの関税引き上げに続いて、自動車輸入関税の大幅引き上げを打ち出している。最大の貿易赤字国、中国との貿易摩擦が激化しているが、トランプ氏は同盟国をも容赦しないようだ。

トランプ氏は議会中間選挙を控え、強硬的な経済外交でその行動力をアピールしているようだ。しかしグローバル化の中で、相互経済依存が進展しており、このまま報復合戦になれば米国も痛手を負う。米通商政策は脈絡を欠いており、世界経済のさらなる混乱を招く懸念も強い。

1980年代後半から90年代にかけて、日本の大幅貿易黒字を背景とした経済摩擦問題が厳しかった頃のことである。私は各国財界人による国際会議に度々出席したが、個人的にも親しくつきあっていて、常日ごろ日本と日本企業を礼賛していた外国人経営者が、経営者団体の一員として話すとひょう変してしまい、何とも嫌な思いをすることがあった。

輸入促進のため、政府も税での優遇制度を設け、ジェトロ(日本貿易振興機構)も対日輸入・投資促進の手助けをしていた。経済団体でも輸入促進ミツションを数多く送り出し、民間企業でも多くのパートナーと共同研究開発プロジェクトを推進した。

残念なことは、会合に出席している外国人経営者のほとんどがこれらの日本の努力を知らない。あるいは知ろうとしないで、対日貿易収支の赤字の大きさだけで感情的になっていることであった。

また、困ったことには、対米のみならず、先進諸国向けの日本の製造業の輸出が先進諸国の経済や、産業構造の中に組み込まれてしまっている事実を理解していないことであった。

日米間をとってみても米国企業の商標の下に米国で販売される消費者向け商品、米国の製造業者が自社製品の一部として使用する部品および機器、米国の製造業者が生産のために使用する製造設備と、在日米国企業からの輸出など米国産業にとって不可欠な製品の輸出が多い。米国の経営者はこういう事実の認識に乏しかったようだ。
 
過去の流れの中で、世界的な産業の分業体制がそれなりにできつつあり、現在は競争力格差があり、しかも為替に左右されるだけに、輸入拡大もそう短兵急には難しい。とすればいっそのこと、いったん現状を是認し、その上で新しい世界的な規模での産業構造の調整を進めることの方が大切に思われてならない。

当時、パーセプションギャップ(認識の違い)や事実誤認がもとで“日本たたき”が行われた。トランプ氏は当時「日本の大幅黒字」を非難し、「是正を求める」新聞意見広告を出したこともある。今「アメリカ第一」を掲げるトランプ大統領は対外貿易赤字の元凶として中国をやり玉に挙げるだけでなく、日本にも疑いの目を向けている。今もトランプ氏とその支持者たちはその“残影”にこだわっているのではなかろうか。

米国にとって最大の貿易赤字対象国・中国との間でも、アップル、IBM、GE、GM、フォード、ウォルマート、ナイキなどメーカーや流通会社が中国で生産したものを逆輸入している。構造的に組み込まれており、これら多国籍企業が一方的な規制に反対していると聞く。外国からの製品や原材料に高関税をかけ輸入規制すれば、食料、衣料品など生活物資が急騰し、国民生活に打撃を与えるのは論を待たない。

トランプ大統領は、多国間協調主義を嫌い、二国間交渉を志向するが、これは弱肉強食を助長し、世界全体の調和のとれた発展を阻害する。貿易立国日本はこれに強く反対し、環太平洋経済連携(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を結合して、米国を呼び込むことが必要だろう。さらに、EUとの経済連携協定を早期に実効あるものにすることだ。貿易立国日本は世界貿易機関(WTO)体制の維持と多国間連携の拡大に向け、積極的な役割を果たすべきである。
<直言篇55>

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。



■筆者プロフィール:立石信雄
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。SAM「The Taylor Key Award」受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。
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  • アメポ***** | (2018/07/08 17:09)

    売り手良し 買い手良し 世間良し 売り手も買い手も得をし、社会貢献も行えるような商売をしろ、という意味だそうだ。そこには商売人として損をしない事を基本にしつつ、「稼ぎ過ぎない」という事も重要になる。場合によっては「損して得取れ」という事もあるだろう。 社会貢献も時と場合によっては「売名行為」などと揶揄される事もあるが、「やらない善よりやる偽善」なんて言葉もある。 以上が近江商人の座右の銘である「三方良し」の理念だが、トランプには一生理解できないだろうね。 トランプは正に新自由主義の権化だ。自分(米国)さえ良ければ、他国がどうなっても構わないのだろう。 そういう自己中な考えが世界中に広まれば、或いはまた世界大戦にも繋がるかも知れない。ただでさえ、現在の世界の経済情勢は二次大戦直前によく似ている。 人間が引き起こす戦争は大義名分としての理由は別として、その殆どが経済由来の戦争だ。
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