<コラム>中国の対台湾姿勢にやや変化、「敵の中に味方を作る」伝統手法を適用か

如月隼人    2017年6月9日(金) 15時10分

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6月になり、中国は台湾との連帯をアピールする情報を立て続けに出した。中国が過去に繰り返し使ってきた「敵の中に味方を作る」手法を本格化させていく可能性がある。写真は台湾総統府。

中国側の姿勢の変化をまず感じることができたのは台湾問題を担当する政府部門である国務院台湾事務弁公室(国台弁)が今月3日、台湾北部で1日夜から2日にかけて発生した大雨被害について、被災者を見舞い犠牲者を哀悼する声明を発表したことだ。国台弁は同日、フィリピンで2日に発生したホテル襲撃事件で台湾人4人が死亡した件についても哀悼の意を示し「必要なすべての協力をしたい」と発表した。国台弁は中国政府として、台湾社会に対する「連帯感の表明」を立て続けに発表したことになる。

さらに、世界海洋デーの8日には、福建省厦門(アモイ)市海洋漁業局と沖合いにあり中華民国(台湾)が統治する金門県(金門島)の水産試験所が合同で、フウセイや真鯛などの稚魚366万匹を放流した。同ニュースはまず中国国営の新華社が報じ、引用する形で台湾国営の中央社など台湾側メディアが報じた。

台湾で民進党支持者など「台湾の独自性」を強調する層は、環境問題を重視する層と重なっている。大陸側と合同であっても、稚魚放流など海洋環境を向上するための動きには、理解を示す可能性が高いと言える。

ここで思い出されるのが、中国が対立する相手との膠着状態を打破するために繰り返し使ってきた「敵の中に味方を作る」手法だ。本コラム欄でも紹介したことがあるが、過去には国共内戦時に、国民党内部の反蒋介石グループをも取り込んで、統一戦線を組織した。

また1960年代からは、日本国内で中国との国交正常化を求める声が盛り上がるようさまざまな働きかけをした。自民党政権は戦後一貫して「中華民国支持」だった。1964年から72年7月まで続いた佐藤栄作政権は終盤になってから中国との国交正常化に意欲を示すようになったが、中国は相手にしなかった。日本では世論を受けて、次期首相を目指す政治家すべてが自らが政権を担当したら中国との国交回復を実現すると言わざるをえなくなった。

この時に中国は「さらに細かい芸」も披露している。日中国交正常化以前にも、財界の主流とは言えないが、中国との取り引きを行っている一群の企業があった。中国側は「友好商社」、「友好企業」などと呼び、優遇していた。

ところが、日本で国交正常化の気運が高まると、日本の「友好企業」の間では「国交が樹立され、大企業が中国ビジネスに乗り出すと、自分らは疎外されてしまうのでは」との不安が生じた。中国の周恩来首相は同問題に対して「古い友人は大切にします。同時に新しい友人も歓迎します」と述べたという。

単純で抽象的な発言だったが、声望の高い周首相の発言は「友好企業」の懸念を払拭するに十分で、友好企業は改めて中国との関係強化に努めるようになったという。

さて、中国の対台湾政策だが、これまでは蔡英文政権に対する批判と非難に力を入れていた。台湾社会でも政権批判が高まったが、中国大陸に対しても「悪感情の高止まり」という現象が発生していたように見える。中国大陸は今後、蔡英文政権を強く批判しつづけると同時に、親中国派や一般民衆に対しては、中国に対する親近感を可能な限り高める施策を強める可能性がある。

馬英九政権時、中国の対台湾政策は「鳴かぬなら鳴くまで待とう」というおもむきがあった。台湾を優遇して、統一の気運が高まるのを見守ろうとした。しかし失敗した。蔡英文政権発足からは「鳴かぬなら殺してしまえ」と方針を転換するかに見えた。すると、台湾における「親中派」までが批判を始めた。

今後中国は、台湾に対して「鳴かせてみよう」とこれまで以上に「知恵」を使い始める可能性がある。そのことが台湾にとって「よい」ことなのかどうか、「まし」なのかどうかは予断を許さない状況だ。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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