<東アジア新時代(7)>中国の南沙諸島埋め立て問題、米中とも本気で争わず―「経済」「環境」最優先の“あ・うん”

八牧浩行    2016年1月6日(水) 10時50分

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2日、中国が南シナ海・南沙諸島の人工島に建設した飛行場で試験飛行を行った。ベトナムが真っ先に抗議、続いて米国務省が「地域の緊張を高める行為だ」と批判したが、中国は「道理のない非難は受け入れない」と応じた。写真は南沙諸島。

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2016年1月2日、中国が南シナ海・南沙諸島の人工島に建設した飛行場で試験飛行を行った。領有権を争うベトナムが真っ先に抗議、続いて米国務省が「地域の緊張を高める行為だ」とし、領有権を主張する国に対し、さらなる埋め立てや飛行場建設、軍事化をやめるよう求めた。中国外交部の華春瑩報道官は、南沙諸島の永暑礁に完成した飛行場で試験飛行を行ったことを認めた上で、「活動は完全に中国の主権の範囲内の事情だ」と主張。「道理のない非難は受け入れない」と応じた。日本の岸田外相や中谷防衛相も批判に加わったが、米国世論は冷めており、決め手に欠くのが現状だ。

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習近平政権は南シナ海の岩礁の埋め立てを推進、滑走路を建設、軍事施設を設置している。周辺国や米国などからの抗議をもろともせず、これらの活動を停止していない。従来中国は南シナ海の島々が中国領であると主張しており、中国が強国になった現在、実力行使できるようになったという論理が中国国内ではまかり通っている。もちろん国際社会では到底容認できない独断的な考え方だが、埋め立て強行に対抗するパワーは周辺国になく、米国も実力行使阻止へ強引な政策はとらないと高をくくっているようだ。

米国は世界の成長センター、東アジアを重視するリバランス政策に転じ、中国重視の政策をとってきた。米国がようやく重い腰をあげ、イージス駆逐艦を南シナ海に派遣、「航行の自由」作戦を展開した。しかし米国は尖閣諸島の帰属と同様、領土紛争には介入せず、国連海洋法条約上の航行の自由原則の確認を行っているにすぎない。

◆米国、中東・IS対策を重視

日本では「南シナ海問題で米国は激怒した」といった報道が目立ったが、実態は異なるようだ。オバマ政権は、3カ月に2回以上のペースで南のシナ海・南沙諸島に米艦を送り込むとしながらも、10月に「ラッセン」を送ったまま動きはなく、IS(イスラム国)対策に専念するために年内の派遣を見送った。ISとの戦いに加えて、米国と対立するロシアが軍事的な活動を加速していることも、オバマ政権の判断に影響しているもようだ。

米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が、2015年12月に1500人の成人の米国人を対象とする「脅威認識」についての調査を行ったところ、米国にとっての主要な脅威として挙げられたのは、IS(83%)、イランの核開発問題(62%)、北朝鮮の核開発問題(59%)の順。第4位に地球温暖化と並んで、ようやく中国の台頭が入った(49%)。米世論は冷めており、「中国問題」は大統領候補の討論会でも大きな争点になっていない。

 12月の地球温暖化対策に関する「パリ協定」では、米中が協力し、参加各国をリードしたことが合意につながった。パリ協定は、1997年の京都議定書以来18年ぶりの世界的な温暖化対策の枠組みで、米中の連携が世界全体を動かした初の成果と言える。

 毎年米中交互に開かれる米中戦略・経済対話は、米中両国の主要閣僚や政府・経済界が経済や安全保障分野の懸案、国際的な課題について意見交換する大規模会議で、毎年米中交互に開催されている。昨年7月に米国で開催された対話では、閣僚や政府関係者、経済界のトップクラス1000人近くが出席。中国側は400人以上の代表団を送り込んだ。この米中戦略対話では、温室ガス削減問題、米中投資協定、人民元の国際化など約200項目で合意したほか、6つの大掛かりなプロジェクトを立ち上げ、民間部門が技術協力を推進することで一致した。

米国との間には、日本にはこのような定期的な戦略的大規模対話はない。オバマ大統領と習近平主席の会談は年に数回、長時間開催されており、米中は互いの立場を暗黙裡に理解し合う「阿吽(あ・うん)」の関係にあるとの見方も多い。筆者は昨年も、中国を取材旅行したが各地で米国企業が立地し、米ブランドのビルが林立、アメリカ人であふれていた。

米国にとって最大の課題は巨額の米政府債務と経常赤字の縮減であり、破綻を避けるためには、軍事費の削減と、世界最大の中国消費市場の取り込みが不可欠。中国は米国の最大の輸出相手国である。これに加えて、中国は米国債を1兆3200億ドル(約160兆円)も保有、外貨準備も3兆8000億ドル(約460兆円)と世界最大である。オバマ大統領は「米中協力はアジア重視戦略の核心だ」と明言している。

一方、中国も経済発展の途上にあり、大掛かりな軍事紛争になれば、世界制覇の可能性が吹き飛ぶことから、米国と本気でコトを構える気はない。

◆米中は安全保障でも連携

安全保障面でも米軍と人民解放軍の協力関係にある。昨秋も上海近海において米中合同軍事演習を行い、米ハワイ諸島沖で今年夏に行われる米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍が参加する予定だ。陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協力、空軍同士の交流もスタートしている。

中国も、米国と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「対立的共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。国内向けには対立姿勢を見せつつ、米国と経済相互発展と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。

米国と同様、日本にとっても中国は最大の貿易相手国。2万2000社が進出し、日本人21万人が中国に滞在している。日米中が力を合わせて世界の成長センター、東アジアのさらなる繁栄に向け努力することが肝要だ。軍事に頼らない平和的な手段で他国の尊敬を得た方が、外交も経済もスムーズに機能する、結果として国家の安全保障を高めることになることをひたすら辛抱強く訴えるべきであろう。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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