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<東アジア新時代(6)>「慰安婦問題」合意後も、燻る日韓関係=高まる韓国の対中依存―安倍政権の価値観外交通用せず

配信日時:2016年1月5日(火) 6時20分
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岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相が従軍慰安婦問題をめぐり2015年12月28日に、ソウル市内で会談。共同記者会見で「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、問題の妥結を表明した。「日本国の首相として、改めて心からおわびと反省の気持ちを表明する」とする安倍首相の見解や、元従軍慰安婦を支援する10億円程度の新基金設立、慰安婦を象徴する少女像の撤去問題などについても合意した。ところが、この合意から1週間以上経過したが、日本、韓国双方で異論も出て、なお燻(くすぶ)った状態が続いている。

日韓両国の慰安婦問題解決に向けた合意は(1)安倍氏が首相として謝罪と反省を表明する、(2)元慰安婦支援のため、韓国政府が設立する財団に日本政府が10億円の資金を拠出する、(3)両国は国連を含む国際社会で互いへの批判、非難を控える、(4)韓国は民間組織が在ソウル日本大使館前に設置した慰安婦問題を象徴する少女像を撤去する―の4点。(1)は、安倍首相は朴大統領との電話会談で、慰安婦問題について「心からのおわびと反省」を表明。既に実現している。(2)も、日本側に実質的な困難はないと思われる。問題は(3)(4)であり、日本の今後の慰安婦問題をめぐる発言が韓国国民の怒りを引き起こさないかどうかにかかっている。特に韓国国内では、交渉結果について世論の反発が高まっているため、要注意だ。

◆世界は『米中2大国』時代になる!?

東アジア情勢に詳しい木村幹神戸大学大学院教授は日韓関係、中韓関係について、「中国経済の拡大に伴い、韓国の中国依存度が高まっている。安倍政権の価値観外交は行き詰まっており、韓国が日本より中国との関係を重視するという構造的な問題は変えられない」と主張している。

同教授によると、韓国の朴槿恵政権は米中両国との連携を軸とした国際関係を構想している。この結果、日韓関係の重要性が低下しており、韓国は軍事的にも経済的にも日本より中国に接近している。日本側の歴史認識問題をめぐる不必要な発言が韓国政府・国民の強い反発を招き、「中国と連携して日本に圧力をかける」状況が続いている。韓国と中国は朴大統領と習近平国家主席の新体制が同じ時期に発足、多様な戦略対話チャネルが深化・拡充。朝鮮半島問題など政治・安保分野における協力関係が拡大している。中韓両国民の連帯と信頼を増進するため、人文紐帯の強化、文化交流、地域レベル交流、両国間貿易の年間3000億ドル目標の早期達成などを通じた戦略的な協力パートナー関係を推進している。

韓国経済における中国との結びつきが一段と強まっている。韓国貿易に占める国別シェアは中国が日本、米国を12年ほど前に追い抜き、今では3倍近い規模に拡大、なお増え続けている。中国の台頭など構造的な問題はもはや変えられない。同じ自由主義陣営の国を重視するという安倍政権「価値観外交」も通用しない。このままではかつてのような日韓関係は戻ってこない。

◆日本に併合された明治期以後は「非正常」

また、韓国出身で東アジアの国際関係に詳しい朴正鎮・津田塾大学准教授は、「世界は『米中2大国』時代になるというのが韓国の共通認識であり、米中とバランスをとる『連米・連中』が基本戦略である」と指摘。その上で、「韓国は、日韓両国が東アジア共同体や東アジア地域構想など多国間協力の枠組みを共に共有することが理想的と見ており、中国をけん制するために、力で囲い込むという発想は皆無」との認識を示している。

同教授によると、中国がグローバリゼーションの恩恵を享受、かつてのような大国に復帰し、この地域が「元に戻った正常なアジア」となった、というのが、韓国国民の基本認識。日本に併合された明治期以後のアジアは「非正常」であったと見ている。韓国国民の多くが、中国は軍事力を通じて自らの理念を拡張することはないと認識し、「中国に対する脅威論」は少ない。中国の台頭を歓迎し、関与していく方針は、基本的に米国とも一致していると見ている。

韓国の戦略は、米韓同盟を基軸にしながら、最大の貿易投資相手国である中国との関係をさらに強化すること。多国間安全保障レジームの構築と東アジア地域構想の中に中国を関与させることが重要と考え、日韓両国が東アジア共同体や東アジア地域構想など多国間協力の枠組みを共有することが理想と見ているという。

韓国人の多くは、日本が中国を包囲する「平和と繁栄の孤」戦略を公にして中国を刺激してはならないと考えている。また対北朝鮮政策における、「関与」と「宥和」「民族共助」と「朝鮮半島の核」を巡る日韓間の認識ギャップは大きい。また日韓間の歴史問題には、将来日本が東アジア地域でどのような役割を果たすか、全体像が見えないことからくる不信感も背景にある。

木村、朴両教授の論考に共通するのは、中国経済の拡大に伴い、韓国の中国依存度が急速に高まり、韓国が日本より中国との関係を重視する傾向が一段と強まっていることだ。日本側の歴史認識問題をめぐる姿勢が韓国政府・国民の強い反発を招いていることも背景にある

日本には、かつての先進国と途上国の間柄だった日韓関係の古い固定観念から脱却できずに「韓国にとって日本は重要なはずだ」との誤った思い込みがなお根強い。日本が上で韓国を下に見る「垂直的な時代」につくられた「日韓秩序」に対する反発も韓国内にはくすぶっている。韓国の対中接近の背景には、最大の貿易相手国かつ世界一の消費市場である中国についた方が得とのリアリズムがある。(八牧浩行)

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。現在、日中経済文化促進会会長。Record China相談役・主筆。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。
※掲載している内容はコラムニスト個人の見解であり、弊社の立場や意見を代表するものではありません。

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