安倍首相主導の『生涯活躍のまち』計画が具体化へ、「PPK」を実践?=「1億総活躍」と「地方創生」の“切り札”に―「姥捨て山」批判も

配信日時:2015年12月26日(土) 15時30分
安倍首相主導の『生涯活躍のまち』計画が具体化へ、「PPK」を実践?=「1億総活躍」と「地方創生」の“切り札”に―「姥捨て山」批判も
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元気に働ける移住高齢者でつくる地域共同体「生涯活躍のまち」構想が注目されている都市部の高齢者に地方の共同体へ移住してもらい、周辺住民との交流を通じて地域活性化を図る。安倍首相が掲げる「地方創生」「1億総活躍社会」の目玉となる。資料写真。
元気に働ける移住高齢者でつくる地域共同体「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」構想が注目されている。安倍政権の有識者会議がまとめた報告書は、この地域共同体を定着させるため、国に法制化や政策支援を講じるよう提言する一方、共同体の整備を目指す市町村にも、高齢者の住居確保などの計画策定を求めた。来年1月にも「生涯活躍のまち支援チーム」(仮称)を発足させ、構想の実現に取り組む自治体を全国から10〜20程度選定、重点的に支援する。政府調査では11月1日時点で、263自治体が検討する方針を示している。

「生涯活躍のまち」は、主に都市部の高齢者に地方の共同体へ移住してもらい、周辺住民との交流を通じて地域活性化を図る構想。安倍晋三首相が掲げる「地方創生」「1億総活躍社会」の目玉となるもので、将来予想される首都圏の介護施設不足を補う狙いがある。

健康で、厚生年金などで暮らせる50歳以上が主な対象で、政府は地域再生法の改正など必要な法整備を検討する。また来年度から、共同体事業に取り組む自治体に対し、新型交付金による本格的な財政支援を開始する。
 
受け入れ先となる新たなコミュニティー作りの手法としては、地域を限定して集中的に整備する「エリア型」や、地域資源を総合的に活用する「タウン型」などを選択し、地方自治体が民間事業者らと取り組むことを想定している。政府に対しては、近年増えている空き家など中古住宅の流通促進や、移住先の自治体が介護保険などで財政負担が増えないような仕組みの検討を求めた。

健康な時から住み、介護になっても移転することなく継続的ケアの安心が保証される。居住者の健康寿命延伸のために、健康ビッグデータ解析、予防医療、食事、生涯学習、軽就労が緻密にプログラム化されているだけでなく、地元に大きな雇用を生み出す。高校や大学を卒業した若者が地元から流出することも少なくなる。産業と雇用と消費が生れるので税収が増える…。いいことずくめのように見えるが、課題も浮かび上がる。

◆「三方一両得」か?

CCRCは「Continuing Care Retirement Community」の略。健康時から介護時まで継続的ケアを提供する共同体であり、本家の米国では約2千拠点、居住者約70万人、約3兆円という市場規模がある。ひとつの敷地での継続的ケアの視点と併せて、予防医療、健康支援、社会参加などがプログラム化されている。要介護状態になるのを避け、健康寿命を延ばす、いわゆる「PPK(ピンピンコロリ)」の取組みが、介護保険に依存した日本の特別養護施設、シニア住宅などと全く異なる逆転の発想だ。さらに介護・ヘルパー以外の健康ビッグデータ分析、ソーシャルワーカー、プログラム開発、ホスピタリティなどの新たな職業が生まれ、地域に雇用と税収をもたらす。

米国では介護や医療サービスの必要性や、認知症の度合いに応じた入居型の高齢者施設がある。CCRCはこうした異なる施設のサービスをひとつの敷地で運営し、「必要なサポートの度合いが進んでも、引っ越すことなく生涯暮らすことができる」点が売り物だ。全施設のうち約8割はNPOによる運営で、3分の2は300戸未満。大学で授業を受けられる施設もあるという。特定の趣味の愛好家を狙った施設も登場するなど、施設の細分化も進み始めている。

CCRCは、居住者の健康、地域の雇用・税収創出、新産業創出という民・公・産の三方一両得のシステムと言える。全国20市町が4千人の高齢者の受け入れ検討

最終報告書によると、50代以上の健康なうちに移住してボランティアなどの社会活動に取り組んだり働いたりして地域に溶け込み、新たなコミュニティーを形成。入居者はアクティブシニア(活動的な高齢者)とする。医療や介護が必要になってからもケアを受けて暮らし続ける点が特徴だ。

有識者でつくる日本創成会議(座長=増田寛也元総務相)が14年に、将来、首都圏で多くの「介護難民」が生まれる可能性を指摘し、「地方移住」を提案。大きな話題となったのは記憶に新しい。地方への移住が加速すれば東京一極集中の是正につながる。今後、高齢者が激増する東京圏で、医療・介護の受け皿が不足していることへの対策にもなりうる。政府の世論調査では東京に住む50〜60代の多くが地方移住を希望していることから、選択肢の一つとして整備することとした。

健康な定年前後の人の地方移住を促すこの構想に関し、栃木県那須町や山梨県都留市など全国20市町が合計4千人程度の高齢者の受け入れを検討しており、「移住計画」は現実味を帯びている。

ただ、高齢者の地方移住には「姥(うば)捨て山」批判もあることから、最終報告書はあくまでも高齢者の希望による点を強調するとともに、受け入れ自治体の介護保険料負担が重くならないよう、介護保険の財政調整制度の強化を促す内容となっている。
 
◆自治体・事業者の積極的対応がカギ

ただ、CCRCを普及させるには、いくつものハードルが残っている。
最大の課題は人材の確保だ。個々のCCRCの制度設計は、高齢者の移住受け入れに積極的な地方自治体が中心的な役割を担わざるを得ない。新しい事業であるだけにイメージがつかみづらく、ノウハウを持った人材も不足している。実際の運営を行う事業者についても、政府は国の基準を満たした企業や医療・社会福祉法人、民間非営利団体(NPO)などを想定しているが、実際にどれだけ名乗りを上げるか不明な点もある。政府は他の医療・介護制度との整合性や、制度を定着させるために必要な法整備を進める考えだが、最終的には国民に具体的なイメージ像を提示できるかがカギとなりそうだ。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役、編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。現在、日中経済文化促進会会長。Record China相談役・主筆。著著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」など。 ジャーナリストとして、取材・執筆・講演等も行っている。
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