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出演しているマーティン・シーンとルーニー・マーラという2人の米国人スターは、主役ではない。主役は、オーディションで選ばれた3人の少年である。子供たちの生き生きとした演技が素晴らしい。写真はリオデジャネイロ。
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紛れもない傑作である。監督が「リトル・ダンサー」(2000年)などのスティーブン・ダルドリー、脚本が「戦火の馬」(11年)などのリチャード・カーティスという英国映画界最強の組み合わせだから、かなりの水準であることは予想できた。しかし、これは予想を上回る出来栄えである。
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出演しているマーティン・シーンとルーニー・マーラという2人の米国人スターは、主役ではない。主役は、オーディションで選ばれた3人の少年である。子供たちの生き生きとした演技が素晴らしい。
そして、映画に描かれた、ブラジルの現状が観客の目を奪う。タイトルの「トラッシュ」とは、ごみのことであり、子供たちはリオデジャネイロ郊外のごみ捨て場から、価値のありそうな物を漁る仕事をしている。ブラジルはBRICSと呼ばれる新興国の1つであり、既にサッカーのワールドカップが開かれ、来年にはリオで五輪も開催される予定だ。経済成長はやや減速しているものの、南米の地域大国としての地位を固めつつある。映画が100%現実を映しているのではないにせよ、その国で、こんなに貧しい子供たちがたくさんいることにまず、驚かされる。
とはいえこの作品は、貧しい少年たちがそれにめげず、けな気に生きていく、といったお涙頂だい式の、いわゆる辛気くさい映画ではない。それどころか、スピーディーでサスペンスに満ちた痛快娯楽作である。
事件は、少年の1人がゴミの山から財布を拾ったことから始まる。財布にはいくばくかの金とともに、少女の写真があり、その裏に一見意味不明の数字が書いてある。そして、なぜか警察がたった1つの財布を探すのに躍起となり、少年を拷問するほどなのだ。実は、その数字は、ある実業家の重大な罪を証明する証拠につながっていた。
◆ごみ山の中から宝物を見つけた気分!
表向きの繁栄と貧富の差。その陰では、一部の実業家と警察が裏社会と組んで、というより、その複合体自体が一種の裏社会を形成して闇の権力と化している。少年たちはその魔手に追い詰められ、命の危険にさらされながらも、証拠を守り抜こうとする。シーン扮する神父とマーラ演じる英語教師も少年たちを助ける。
サブタイトルが「この街が輝く日まで」とあるように、少年たちの命がけの行動は最後は奇跡を呼び、思いがけない結果をもたらす。
アンディ・ムリガンの原作の舞台が架空の国になっているのを、映画は現実のリオとして描いた。ダルドリー監督は実景やセットなどを駆使して、近代的な大都市あるいは貧者の街など複雑な表情を見せるリオを映像化した。英国映画でありながら、英語ではなく現地の言葉であるポルトガル語を使用しているのも、リアリティーを増している。警察と少年たちの攻防をワンショット内の迫力ある映像で丁寧に描き、しかもスピーディーなモンタージュでサスペンスを盛り上げて、観客にも分かりやすく謎解きも進めた。カーティスの脚本も実に手際よく、複雑なストーリーをまとめている。
見終わると、ごみ山の中から宝物を見つけたような気分になった。
(1月9日から公開中)
川北隆雄(かわきた・たかお)
1948年大阪市に生まれる。東京大学法学部卒業後、中日新聞社入社。同東京本社(東京新聞)経済部記者、同デスク、編集委員、論説委員などを歴任。現在ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。著書に『失敗の経済政策史』『財界の正体』『通産省』『大蔵省』(以上講談社現代新書)、『日本国はいくら借金できるのか』(文春新書)、『経済論戦』『日本銀行』(以上岩波新書)、『図解でカンタン!日本経済100のキーワード』(講談社+α文庫)、『「財務省」で何が変わるか』(講談社+α新書)、『国売りたまふことなかれ』(新潮社)、『官僚たちの縄張り』(新潮選書)など。
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