【週末美術館】居場所を失った中国

絵画とは、有用な芸術である。自己表現、感性の研鑽、思考の刺激、精神の浄化など、その効能は多岐にわたると考えている。しかし、我々は先代の芸術家たちほど、文化を担う使命感には燃えていないかもしれない。現代において、文化はトレンド、あるいはファッションになり下がってしまった。しかしわたしは自分なりに、文化に対する思いをキャンバスに綴る。大衆文化、伝統文化……朦朧としながら。路頭に迷いながら。このでたらめこそ、自分の居場所だと感じながら。

【その他の写真】

こう語るのは、いまだ学業にいそしむ油彩画家・孔令偉（コン・リンウェイ）。中国の伝統劇である京劇の登場人物が現代の風景に忽然と現れるシュールな作品群には、コミカルでありながらどこかうすら寒い感じを覚える。そして、短期間のうちに中国という国がどれだけの変貌を遂げたのかを訴えてくる。塗りかけになったままの壁やちぎれて朽ちた貼り紙、荒れ果てたゴミ処理場、くたびれた表情の通行人……あまりにリアルに描かれた現代の都市空間にたたずむ、芝居がかった風情の京劇役者たちの様子は、滑稽というほかない。彼らは所在なく困り果てている。まるで居場所を失った中国のアイデンティティーが現われているようだ。（文/山上仁奈）

●孔令偉（コン・リンウェイ）

中国の油彩画家。1982年生まれ、天津市出身。1998年から3年間、天津市工芸美術学校で学ぶ。2005年天津美術学院油彩画学部卒業。2006年に同学院の大学院に進み、現在も在学中。代表作に「游」「長街行」「どこか無関係（原題：似乎与之無関）」など。

写真提供：匯泰国際文化発展有限公司（中国・天津）

※週末美術館では、中華圏のアーティストを中心に日本や世界各地の写真作品、美術作品、書道作品など様々なジャンルの作品をご紹介していきます。