英雄譚から省察へ――「葬送のフリーレン」が現代アニメに響く理由

柴思原    
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「葬送のフリーレン」は、近年の日本アニメの中でも突出した評価と人気を獲得した作品である。

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葬送のフリーレン」は、近年の日本アニメの中でも突出した評価と人気を獲得した作品である。2023年10月の放送開始後、原作漫画の売り上げは急伸し、わずか2カ月で700万部を増刷。23年12月時点で累計発行部数は1700万部に到達した。オープニングテーマ「勇者」(YOASOBI)は、オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで1位を獲得するなど、音楽面でも注目を集めた。

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作品の評価は国内外で高まり、MyAnimeListで9.3点、Rotten Tomatoesでは100%を記録。長年の人気作を凌ぐ勢いを見せ、25年のCrunchyrollアニメアワードでも高く評価された。作品賞こそ「俺だけレベルアップな件」に譲ったが、最優秀ドラマ作品賞、最優秀監督賞(斎藤圭一郎)、最優秀助演キャラクター賞(フェルン)、最優秀背景美術賞の4部門を受賞している。

物語は、魔王討伐という大団円の「その後」から始まる。伝説の勇者一行の一員であったエルフの魔法使いフリーレンは、半世紀ぶりに人間の仲間たちと再会する。しかし、長命の彼女にとって人間の寿命はあまりにも短く、次々と老いて逝く仲間たちを前に感情の距離を埋められないまま過ごしてしまう。勇者ヒンメルの葬儀で初めてその悔いに直面したフリーレンは、神官ハイターの弟子フェルンを育てることを決意し、さらに戦士アイゼンの弟子シュタルクと旅を共にする。魔法を探求し、人々を助け、ささやかな時間を大切にしながら歩む旅路は、時間や記憶の意味、そして日常の小さな美しさを描き出していく。

本作の大きな特徴は、従来のファンタジー作品とは逆の構図にある。多くの物語が「悪を打ち倒す」過程を描くのに対し、「葬送のフリーレン」は勝利の後から幕を開ける。物語の焦点は英雄的行為ではなく、勝利の余韻と感情的な「その後」に移り、「旅を終えた勇者たちはどう生きるのか」という普遍的な問いを突き付ける。これは従来の冒険譚には少ない、後悔や喪失、感情の隔たりといったテーマを正面から扱う試みだ。

物語のテンポも独特だ。戦闘から戦闘へ駆け抜けるのではなく、森を歩く場面や魔法の指導、ささやかな誕生日の祝福など、静かで内省的な時間に重点が置かれる。緩やかなリズムは緊張感を欠くどころか、むしろ親密さと余韻を生み出し、視聴者にフリーレンと共に「はかなさ」を実感させる。こうして一見平凡な場面が、心に残る情緒的な瞬間へと変わっていく。

葬送のフリーレン

映像美と技術面も見逃せない。大迫力の魔法表現から、言葉にされない感情を示す繊細なしぐさに至るまで、1カットごとの作り込みは緻密だ。魔法は単なる演出ではなく、文化や生活に根付いたものとして描かれ、世界観に奥行きを与える。音響も静けさや抑制された音楽を巧みに活用し、フリーレン自身の物静かで憂いを帯びた性格を際立たせる。せりふの少なさも相まって、視聴者に「間」を味わわせる設計となっている。

総じて、「葬送のフリーレン」が特別なのは、こうした要素が有機的に結び付き、ファンタジーでありながら人生の省察を描き出している点にある。近年、日本のアニメ市場ではアクションや会話主体の作品だけでなく、静かな情緒や内省を重視する作品も強い支持を得ている。視聴者は単純な英雄譚ではなく、現実の複雑さを映すような物語を求め始めているのだ。

その意味で本作の「省察」というテーマは、哲学概念の「間柄(あいだがら)」とも響き合う。省察は内向きの営みであると同時に、人と人との関わりを捉え直す行為でもある。フリーレンが過去を振り返る姿は、孤独な記憶の中だけでなく、新たな仲間との関わりを通して生き直していく過程でもあるのだ。

待望の第2期は2026年1月に放送予定だ。フリーレンの旅はさらに深まり、新たな登場人物や魔法の世界の広がりが描かれるだろう。

■筆者プロフィール:柴思原

柴思原(柴田海)は、早稲田大学で経済学士号および政治学修士号を取得し、現在は同大学政治学研究科博士後期課程に在籍している。研究分野は政治社会学、比較政治学、世論調査。社会科学の研究を進める一方で、文学創作の分野では科学普及、文芸評論、詩歌を手がけ、これまでにエッセイ集や詩集を多数刊行している。

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