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自民党総裁選の候補者が24日、東京都内で日本記者クラブ主催の討論会に臨んだ。
自民党総裁選(10月4日投開票)に立候補した小林鷹之元経済安保相(50)、茂木敏充前幹事長(69)、林芳正官房長官(64)、高市早苗前経済安全保障担当相(64)、小泉進次郎農林水産相(44)は24日、東京都内で日本記者クラブ主催の討論会に臨んだ。外交・安全保障の分野についてはトランプ政権への向き合い方や中国と韓国への対応を巡り論戦が交わされた。
質問相手を選べる形式の討論では、小泉氏が小林氏に対し、「防衛費対GDP比2%では到底足りないという考えの中で、どの程度まで引き上げて行くのか」とただしたのに対し、小林氏は「私は他国に言われてこの防衛費を上げるというのは筋違いだ、2%では到底足りないと思っているが、その先のことは、これから速やかにその分析をする中で積み上げていくべきだ」と答えた。その上で「石破政権で自衛官の処遇を改善したことは正しい。無人機やAIロボットなどによる戦いに入るので、研究開発費が必要だ。日本の先端技術をしっかりと培い、米国にとってどうしても必要な日本になっていくアプローチが大切だ」と訴えた。
茂木氏は「首脳同士の信頼関係を築くことが極めて重要だ。米国にとって中国は最大の挑戦であり、中国に対峙していくために日本が一番重要なパートナーだということを強調し、一緒にやっていこうという姿勢を示すことが重要だ」と語った。
親中派と言われる林氏は「同盟国の米国とは好き嫌いは別としてつきあっていくことは避けられない。トランプ大統領の後も同じ考えの政権が出る可能性は大いにある前提で、日米関係をマネージ(管理)して日中関係も(適切に)構築しないといけない」と言明。「私は米国に費やした時間の方が人生において、留学も含めて圧倒的に長い。日米関係を踏まえて日中(関係)を構築していかなければならない」と強調した。林氏は超党派の日中友好議員連盟会長を務めたことがあるなど日中関係に造詣が深く、「知中派」を自認している。
高市氏は「日米同盟と共に日米韓、日米フィリピンの安全保障協力を深化させていかなければならない。中国とロシア、北朝鮮の接近は危機的な状況で、日韓関係も深化させていく。中国とは懸念事項はあるが、率直に対話を重ねていく姿勢で臨んでいく」と中国に対しても関係改善に取り組む方針を明らかにした。
高市氏は自らが首相に就任した場合の靖国神社参拝の可能性について、「適時適切に判断する」と言及し、明言を避けた。同氏は「靖国神社は戦没者慰霊の中心的施設」とした上で、「いかに戦没者を慰霊するか、平和を祈るか、適切に判断しないといけない」と述べた。その上で、高市氏は去年の総裁選では首相就任後の靖国参拝の意向を明言していたことに触れ、「前回の総裁選でも言う必要がなかったと思うが、適時適切に判断しないといけない。外交問題にされてはいけない」と語った。
小泉氏は「日米関係はトランプ大統領の下でも日本外交の基軸であることは変わらず、さらに高みに引き上げていけるよう早い時期に会談を実現したい。関税交渉の履行は日米のウィンウィンの関係を構築する上でも非常に重要だ」と述べた。
少数与党の現状を打開するため、野党との連携のあり方も問われた。
石破茂政権は昨秋の衆院選で少数与党に転落後、政策課題ごとに野党と協議する「部分連合」を選択した。各候補とも「安定政権を目指す」姿勢は一致するが、どの候補も具体的な交渉相手などは明らかにせず、新総裁に就任した後の政権枠組みの姿は見通せない。
林氏は明言を避ける理由について「総裁になった後のカードを狭める」「党を名指ししても、相手からは『総裁になってから来い』ということだ」と語った。
連立枠組みの拡大を明確化しているのは茂木敏充前幹事長、高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農相の3氏。
立候補時の記者会見で日本維新の会と国民民主党を具体的に挙げた茂木氏は「政策の優先順位を決めて政策の一致をみて、連立の話になる」と指摘。「選挙区調整から入れば連立拡大はできない」とも語った。
小泉氏は「信頼関係を構築した先に(連立は)ある」と語ったが、維新との親密さを質問されたのに対し「(水面下の交渉は)全くない」と否定した。
高市氏は「自公を基軸にプラスアルファを作ると心に秘めている」と吐露したものの、具体策は「相手の党に対しても失礼だ」と明言を避けた。
小林氏は「安定した政治環境を作るのは与党の責任だが、数合わせでやってはいけない」と強調。憲法や安全保障、皇室制度などを「国家運営の軸」と例示し、「太い軸はある程度共有した上で向き合い、信頼関係が生まれて結果として連立がある」と述べた。
全般的に各候補とも気迫に乏しく討論会は盛り上がりに欠けた印象。党員や国会議員票を意識してか、ユニークな主張を封印し「守り」に徹する姿勢が目立った。国連や世界貿易機関(WTO)改革など世界規模の課題についての建設的なグランドデザインは提示されなかった。物価高対策やガソリンの暫定税率廃止、減税などの対策などに伴う財源を巡る討論は回避された。
2022年9月に英国のトラス首相(当時)が発表した、財源の裏付けが不明確な大規模な減税政策によって、英国の株安、債券安(金利高)、ポンド安の「トリプル安」が発生。この政策は市場の信頼を失墜させ、イングランド銀行(英中銀)による国債買い支えやトラス首相自身の辞任につながった。未曾有の財政赤字と債務残高(年間GDPの2倍以上)に直面している日本にとっても同様のリスクがあり、財源問題は切実な課題だ。
日本記者クラブ主催の自民党総裁選や党首討論会は毎回取材しているが、今回はワクワク感がなかった。候補者の主張は大同小異。極端な考えは抑制され、激論はほとんどなく予定調和的な討論に終始したのは残念だった。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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