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在中国日本国大使館はこのほど、日本の街角にごみ箱が見当たらなくなった経緯を説明する中国語の文章を発表した。「ごみ箱のない街」は一朝一夕に出現したのではなく、長年にわたる積み重ねの結果と説明した。
日本を訪れた外国人観光客からは、「日本では街にごみが落ちていない」との声が聞こえる。外国人客がさらに「それなのに、ごみ箱はほとんどない」と驚くことも珍しくない。在中国日本国大使館はこのほど、中国のSNSのアカウントを通じて、日本の街角にごみ箱が見当たらなくなった経緯を説明する中国語の文章を発表した。「ごみ箱のない街」は一朝一夕に出現したのではなく、長年にわたる積み重ねの上に成立した「目に見えない秩序と暗黙の了解」だと説明した。以下は、同文章の主要部分を再構成したものだ。
日本では明治時代に入ると人口が急増し、道端に投げ捨てられるごみが原因で伝染病が大流行した。そのため、1900年には「汚物掃除法」が制定され、各地で「塵芥箱(じんかいばこ)」の設置が始まった。このごみ箱は木製で、ふたがついていた。
日本ではそれ以降、ごみ箱が公共の空間のさまざまな場所に設置されるようになった。しかし1990年代になると、世界各地で鉄道を狙ったテロ事件が相次いだ。2005年には国土交通省鉄道局と各鉄道会社が「鉄道テロ対策連絡会議」を設立した。定められたテロ対策には、ごみ箱の集中管理と撤去も含まれていた。
鉄道施設のごみ箱を撤去した当初は、誰もが不便になると思っていた。だが意外な効果が出現した。当時の報道によれば、JR市川駅でごみ箱を撤去したところ、駅は以前よりかえって清潔になった。それ以前にはごみ箱があることで、通勤客が自宅のごみを持ってきて捨てることがあった。夜になると周辺の商店が、駅建物の外側に設置したごみ箱に店のごみを放り込んだ。そのために、ごみ箱は一晩のうちにいっぱいになり、朝になるとカラスが漁りにやって来て、ごみ箱の周囲にごみが散らばり、通行人から苦情が寄せられることもあった。
2000年代からは、鉄道施設だけでなく、日本各地で街頭のごみ箱も撤去されるようになった。JR市川駅と同様に、ごみ箱が「悪用」され、カラスなど野生動物を呼び寄せるなどで「ごみ箱があるとかえって汚れる」との認識が広まったからだった。住民には、ごみは自宅で処理することが求められた。
この管理戦略は、日本での公共の空間の管理についての「深層設計哲学」を示している。利便性を取り除くことで責任感を呼び覚ます方法だ。ごみを持ち帰る習慣は自然に生まれたものではなく、都市計画、学校教育、社会規範の中で徐々に培われた結果だ。
もちろん、日本の街頭にごみ箱が全くないわけではなく、隠しつつも合理的に設置されている。例えばコンビニの入口には通常、分別回収が指定されたごみ箱が設置されている。街頭の自動販売機の脇にも、空き容器の回収箱がおかれていることが多い。
重要なことは、このような方法の背後に社会的な暗黙の了解が存在することだ。頻繁な注意喚起がなくても、皆が自発的に従うのだ。
まず、日本人の心にの中には公共の空間に対する責任感が根付いている。日本では幼い頃から「他人に迷惑をかけない」ことを教育され、子どもは弁当を食べ終えたら自分で片付け、花見や遠足ではごみを持ち帰るか指定場所に捨てることを学ぶ。大人になると、この意識は公共の空間への尊重と責任感に転化する。つまり「ここは個人の私有地ではなく、皆で維持する空間であり、自分のごみを他人に処理させてはならない」という意識だ。
次に、ごみ分別の知識の普及がある。日本では、ごみを正しく捨てることが基本的な生活の技能になっている。各自治体が配布するごみ分別マニュアルは非常に詳細で、可燃ごみ、不燃ごみ、資源ごみ、有害物質、プラスチック包装などに分類され、それぞれ投棄時間や指定袋が定められている。新しく転入してきた住民も現地の規則を学ぶ必要がある。ごみ分別は日常生活上の習慣になり、外出時に出たごみも持ち帰って細かく処理することも、さしたる負担とは感じなくなる。
最後に、日本特有の集団主義文化と規則順守の重視がある。監視や監督がなくても、ほとんどの人はごみを散乱させない規範を守る。規則を守らないことは個人の問題にとどまらず、集団から逸脱していると見なされる。この潜在的な社会的圧力が、公共規範に対する自律的な抑制を強化している。
だからこそ、日本では街頭にごみ箱が見当たらなくても、混乱は生じず、かえって都市の秩序の象徴になっている。それは管理戦略であると同時に文化の出現でもある。すなわち、利便性を減らすことで、すべての人の責任感を呼び覚まし、清潔で静かで節度ある公共空間の雰囲気を作り出している。この「無言の美学」は、日本の都市景観において無視できない重要な要素になった。
外国からの旅行者は、このような「高度な自治」に直面すると、不便と思うかもしれない。しかしその背後にある論理を理解すれば、対応策を見出すことができる。日本を旅行する際には小型のごみ袋を携帯し、発生したごみを一時的に保存して、ホテルやコンビニに戻ったときに分別して投棄するとよい。なお、コンビニの入口に設置された分別ごみ箱には、買った商品に由来する包装部分などを捨てることができるが、その店で購入した物に関係しないならば、そのコンビニが設置したごみ箱を勝手に使わない方がよい。
日本の街頭にごみ箱が見当たらないことは、管理が欠如しているのではなく、文明の表れだ。この秩序立った国では、清潔さは道具に依存せず、すべての人の心の中にある公共空間への自覚と節度から生まれる。この目に見えない暗黙の了解こそ、日本の最も独特な景観の一つだ。(翻訳・編集/如月隼人)
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