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中国東部の夏の夜、一般市民によるサッカーの「革命」が静かに、しかし確実に進行している。
中国東部の夏の夜、一般市民によるサッカーの「革命」が静かに、しかし確実に進行している。バーベキューの油まみれになったユニホームを手に登場する出前の配達員、ザリガニ料理屋台の前で戦術を討論する大学生、魚の生臭さを漂わせながらPKを止める鮮魚店の店主——彼らこそ、この「革命」の主人公だ。彼らが出場するのは、中国江蘇省スーパーリーグ、中国では「蘇超」と呼ばれる都市対抗のアマチュアサッカーリーグだ。高額契約もスター選手もない。あるのは、故郷の栄誉のためにピッチを駆け回る庶民の英雄たちの姿だけだ。この暑い夏、江蘇省の13都市でこうした草の根サッカーの祭りが熱を帯びながら繰り広げられている。
このリーグはルールも革新的だ。身分証明書がスタジアムへの入場パスとなり、出場選手は江蘇省の身分証明書(32から始まる証明書番号)の所持、あるいは省内の社会保険の加入が必須条件で、スタジアムを舞台に都市の栄光のために戦い合うのだ。プロ選手の出場は禁止されており、516人の選手のうち35%は引退した元プロで構成されているものの、65%は完全なアマチュアだ。プログラマー、バーベキュー店の店主、教師らが同じピッチに立ち、ボールを追う。チームの選手たちは、同郷出身、あるいはその都市に長く暮らした者同士であり、地元への誇りが、選手とスタンドのサポーターをしっかりと結束させている。
こうしたサッカーと地元への愛は、思わぬ化学反応を起こしている。例えば、宿遷市と徐州市の一戦は、ネットユーザーから「現代版の楚漢戦争だ」と称されている。というのは、宿遷市は西楚の覇王、項羽の故郷であり、徐州市は漢の高祖、劉邦が挙兵した地として知られており、漢軍が楚軍を包囲したという伝説の舞台・徐州市九里山は、今では両市のサポーターが「今度はどちらがどちらを包囲するのか」と互いに挑発を飛ばし合う「ネタ」となっている。宿遷市の応援席は、「力抜山兮気蓋世(力は山を引き抜き、気力は天下を覆いつくす)」という項羽の気概を受け継いだサポーターたちの「寧可敗球,不可輸陣(試合に負けても威勢では負けない)」を体現した大応援へと発展した。方や徐州市側は、「大風起兮雲飛揚(大風が吹いて雲が飛ぶ)」という劉邦の壮大な謀略に倣い、チームが得意とする駆け引きとチームワークで対抗している。歴史ある中国では、こうした時空を超えた対話が行われ、歴史が教科書からスタジアムへと飛び出して「再現」されるようになったことは、一般市民一人ひとりも歴史書の書き手となり得ることを表している。
経済への波及効果も無視できない。サッカーと結びついているのは歴史だけでなく、飲食や観光といった地域経済との連動も起きている。塩城市の飲食店では、勝ったら茅台酒が割引になるキャンペーンを行い、1日だけで20万元(約400万円)を売り上げた。試合がある日は、江蘇省全体でビールの販売量が平時より23%アップする。揚州市は地元のサポーターに向けた同市の名所・同里古鎮への無料入場を実施し、連雲港市は対戦相手の蘇州市のサポーターのために海辺の観光地を無料開放した。ほかにも、省内各地でさまざまなイベントが催されている。タクシーの車内ラジオでは試合の実況中継が流れ、中国のSNS・小紅書(RED)では「試合観戦にぴったりのザリガニ料理」がトレンドになるなど、サッカーは地域全体の共通の話題となっているのだ。
江蘇省スーパーリーグは巨額の資本で運営されているわけではなく、言わば「庶民経済の奇跡」だ。伝統的なスポーツビジネスモデルを覆し、驚異的なコストパフォーマンスを実現した。1試合当たりのスタジアムのレンタル料は2万元(約40万円)、選手には固定給はなく、1試合ごとに300〜500元(約6000〜1万円)の手当が支給される程度だ。アマチュアの大会であるにも関わらず、企業が競ってスポンサーとして名乗りを上げ、300万元(約6000万円)の協賛金を支払っている。また、中国版TikTokの抖音では、1試合の視聴者が600万人に達し、関連動画の再生回数は累計8億2000万回を超えるなど、驚くほどのPV数ももたらしている。アマチュアの試合でありながら、スーパースターに負けないぐらいの注目度に達しているのだ。河南省、江西省などが同様のリーグの立ち上げを急ぐなど、蘇超を模倣する動きが全国に広がろうとしている。ほかにも、塩城市の自動車メーカーの悦達起亜は地元チームが優勝すれば、「車を購入すれば今シーズンの観戦チケットプレゼント」というキャンペーンを立ち上げ、誇りをもって地元の車に乗ってもらおうと展開しているなど、新たなビジネスプロモーションが続々と登場している。
7月5日、蘇超第6節、南京対蘇州の一戦が、南京オリンピックスポーツセンターで行われた。チケットは販売開始後わずか10秒で完売。延べ200万人以上がチケットを求めてアクセスしたという。そんなプラチナチケットを手にした6万396人が現地で観戦し、中国のアマチュアサッカー大会としては史上最高の動員数記録を更新した。会場の熱気は最高潮に達し、サポーターは応援歌を高らかに歌い、スタンドには観客によるウェーブが広がった。観客たちが目撃したのはゴールだけではなく、図書館司書が大学教員をかわしたり、バーベキュー店の店主と会社経営者がハイタッチで喜び合ったりと、13都市の市民が汗を流して新たな中国サッカーの姿を描いている。そこには高額な移籍金などはなく、あるのは一般市民らのサッカーへの愛と情熱だけだ。(提供/CRI)
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