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中国の発展は目覚ましく、多くの科学分野で米国を凌駕しつつある。ITやAI、量子コンピューターの発展は驚異的だ。写真はディープシーク。
中国の発展は目覚ましく、多くの科学分野で米国を凌駕しつつある。技術革新(IT)や人工知能(AI)、量子コンピューターの発展は驚異的だ。
特筆すべきは生成AIのディープシークだ。米国の半導体輸出規制の中で高性能を実現し、オープンソースにもかかわらずクローズドシステムと同等の性能を短期間で実現した。さらに大量の高性能GPU(画像処理装置)や大量消費電力を使用せずコストパフォーマンスが抜群だ。創業者の梁文鋒氏は「目指すのは汎用人工知能(AGI)」とし、「中国は便乗ではなくイノベーションに貢献する側に回らなければならない」と強調している。
ディープシークは安価かつ驚異的な速さでチャットGPTなど米国の生成AIなどを凌駕するオープン生成AIを作り上げたので「AIのスプートニク」と評価する声もある。1957年10月の旧ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功の報により、米国をはじめとする西側諸国の政府や社会が受けた衝撃に匹敵するという見方だ。ディープシークに続き、多くのベンチャー企業がAI商品を開発している。
中国は量子科学の分野でも最高の水準に到達している。
量子コンピューターはスパコンの数億倍の計算能力があり、いかなる問題もたちどころに解決する。量子通信=どんな攻撃にも絶対に破られない通信、量子マテリアル=従来の材料にはない新しい物質の創出、量子センシング=超高感度のセンサーなどに応用可能だ。
この分野でも中国と米国が競っているが、特許数で中国が米国を抜いてトップの座にある。
特に量子衛星通信は中国の独壇場で、「絶対に破られない暗号通信」が特徴だ。2016年に打ち上げられた量子通信衛星「墨子」は国内主要都市を結ぶ量子機密通信回線を構築し、ユーザーは人民解放軍、行政機関金融分野などで300万人超に達している。
中国は量子衛星通信衛星を25年に2、3基、27年には中軌道に1基を投入し、地上の通信網と接続して「量子暗号通信ネットワーク」を完成させる計画だ。
中国の研究開発費総額(OECD購買力平価換算)は年間70兆円を超え、米国を抜く勢い。科学技術予算は10年に米国を抜き22年には25兆円に達した。研究者数も約250万人と米国に大差をつけ、世界最大の高度人材供給国になっている。
科学ジャーナリストの倉澤治雄氏が日本記者クラブで講演したところによると、AI、量子科学、原子力開発など科学技術分野について、中国の勢いが多くの分野で米国を凌駕しつつある。科学技術予算、研究者数、大学院人材など豊富なデータや画像に基づき解明。米国の大学や研究機関の多くは中国人に大きく依存しており、「科学技術分野での米中デカップリングはありえない」と断じた。
中国は「ゼロから一(いち)をつくる技術」を目指し、米国などでの研究者も含めれば、今後中国人のノーベル賞受賞者が続出すると予想した。
倉澤氏が動画で示したのはAIを駆使した自律型ロボットの脅威。「人類の成果である新しい科学技術を人間がどう使うか。倫理・道徳、人間性が重要だ」と強調した。
AIの国際学会「NeurIPS(ニューリプス)」「ICML」「ICLR」に採択された論文約3万本の著者や所属研究機関などについての分析によると、24年の上位50機関からの採択論文の国別著者数は、首位の米国が1万4766人、2位の中国は8491人だった。この数年で中国が急速に研究力を高めており、4年間で8倍に増やした。
機関別にみると、グーグル、スタンフォード大学、マイクロソフト、メタなど米国勢6機関がトップ10に入った。米国勢以外でトップ10入りしたのは中国勢だけで、清華大学、北京大学が入るなど4機関がトップ10に食い込んだ。トップ20には12位のシンガポール国立大学、13位の韓国科学技術院(KAIST)などが入り、日本勢は50位圏外。理化学研究所が64位、東京大学が71位だった。
20年時点では「米国1強」状態で、1~7位を独占し、上位20位までに13機関が入っていた。中国は30年にAI分野で世界をけん引するという「次世代AI発展計画」を17年に策定して国家レベルで研究を後押しし、清華大や北京大などが採択論文の著者数を3~4倍に増やした。浙江大学はアリババ集団との提携やAI専門の研究所を新設し、20年に34人だった著者数が24年には906人に上った。
人材の移動も中国躍進の原動力となっており、米国で修業して世界レベルの研究能力を身につけた研究者が論文を量産している。1本の論文に関わる研究者の数が増え、扱うデータが膨大になっており、大規模な計算機や人材に投資しないと研究が進まない。
英有力科学雑誌ネイチャーが発表した24年の研究力上位20機関のうち、中国機関は1位の中国科学院をはじめ13機関が占めた。米国はハーバード大学など4機関にとどまった。
中国では共産党による迅速な意思決定と豊富な人材と資金、網羅的な科学技術組織が強みになっている。一方で、大学進学率の急拡大と質の低下への対応が今後の課題だ。
米国ではトランプ2次政権による大学や研究機関への補助金カットの動きが高まり、「研究力を削いでいる」(米シンクタンク)と指摘されている。関税政策をはじめ政策の一貫性欠如がマイナス材料となっている。
次代の世界覇権を巡って激しく対立する米中両国は、AIをはじめとする科学分野でも競い合っている。短期的には中国の勢いが際立っているが、米中関係は激動の世界情勢によって大きく揺れ動いており、長いスパンで見る必要があろう。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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