トヨタ「bZ3X」と日産「N7」がスタートダッシュに成功、中国に日系EVの新時代到来か

高野悠介    2025年5月23日(金) 7時30分

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中国でトヨタ「bZ3X」と日産「N7」が人気を集めている。写真は日産「N7」。

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これまで日本の電気自動車(EV)の話題が中国メディアをにぎわすことはあまりなかった。しかし、トヨタの「bZ3X」と日産の「N7」が人気を集めたことで、風向きが変りつつある。この両車は日系ブランドの新時代を開いたのだろうか。

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トヨタ「bZ3X」とは

トヨタの「bZ3X(中国名・鉑智3X)」は純EVの小型SUV。トヨタと広州汽車の合弁・広汽トヨタの主導で開発され、3月6日に販売を開始した。


発売1時間で1万台を受注し、システムが一時的にダウンしたという。納車は4月までに1万台を超え、受注残1万2000台を抱えている。中国メディアは「bZ3X」を年初最強のダークホースと称した。

全長/全幅/全高は4600/1875/1645mm、ホイールベース2765mm。電池は430Air+(航続距離430km)、520Pro+(同520km)、610Max(同610km)の3タイプを用意し、これらが7グレードを構成する。価格は基本的なシングルモーターの前輪駆動モデル430Air+が10万9800元(約220万円)、充実のスマートシステムを備えた中間モデル520Pro+が12万9800元(約260万円)、最上級の610Maxが15万9800元(約320万円)。

運転支援技術にはトヨタ出資の中国ベンチャー企業モメンタの先進5.0スマートドライビングシステムを採用した。クアルコムの主力8155チップとエヌビディアのDRIVE AGX Orin Xを搭載し、ミリ波レーダーやLiDARなど27個の光学センサーを装備した。

エクステリアには「純電美学」というコンセプトを掲げ、スタイリッシュでサイエンス、テクニカル感覚を表現した。ボディーラインはシンプルかつなめらかで、空気抵抗係数(Cd値)0.26を達成した。ちなみにプリウスが0.25なので、極めて良い数値だ。安全面でも新機軸を打ち出し、火災対策としてワンタッチで全電源を切断できるようにした。

日産「N7」とは

日産の「N7」は純EVの中型セダンで、日産と東風汽車の合弁・東風日産が開発し、トヨタの「bZ3X」から約50日遅れて4月27日に販売を開始した。初日に1万台を受注し、やはり大きな話題を提供した。


全長/全幅/全高は4930/1895/1487mm、ホイールベース2915mm。電池は510(航続距離510~545km)と625(同625~635km)の2種で5グレードを構成する。

510Airが11万9900元(約240万円)、510Proが12万9900元(約260万円)、510Maxが13万9900元(約280万円)、625Proが13万9900元(約280万円)、625Maxが14万9900元(約300万円)というラインアップで、価格はトヨタ「bZ3X」とほとんど変わらない。

こちらも運転支援技術に力を入れ、Maxグレードにはクアルコムの最強チップ8295Pとモメンタのシステムを採用した。他グレードには主力のクアルコム8155を搭載した。

エクステリアは初めて現地デザインチームが主導し、保守的な外資合弁のイメージを革新した。「シンプル、美しさ、内なるインテリジェンス」というコンセプトを掲げ、シームレスな0.618の黄金比ボディにより、優雅で純粋な視覚を表現した。その斬新なデザインでドイツのレッド・ドット・デザイン賞を受賞した。

インテリアも中国の新興メーカー群「造車新勢力」の水準を凌駕している。運転席には4種類の高級素材が使われ、絶妙な質感を実現した。また、光の滝のようなアンビエント照明が優しい雰囲気を醸し出している。

トヨタ、研究開発を現地化

トヨタは「One R&D」体制を整え、一汽トヨタ、広汽トヨタ、BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー、江蘇省常熟市内のR&D拠点が連携。中国首席工程師(チーフエンジニア)制度の導入により、研究開発を現地化した。

また、BYD(比亜迪)のリン酸鉄リチウム電池システム、ファーウェイ(華為技術)のハーモニー(鴻蒙)OS、モメンタや小馬智行の運転支援システムなど、中国のオープンシステムをいくつも取り込んだ。中国メディアは「遅々として進まなかった巨象の方向転換がついに実現した」と評した。

トヨタ中国の幹部は、「今回の変革は中国企業になることではなく、中国の知恵をトヨタのDNAの一部にすることだ」と述べた。派手なアピールをする中国ブランドよりも外資合弁ブランドの堅実さを望むユーザーにこれらの変革をアピールしていくという。

日産「N7」は驚異的な低価格、BYDを凌駕

セダンの市場はとりわけ競合が厳しい。中国メディアは日産N7のライバルとして以下の4モデルを挙げた。

BYD「漢EV」智駕版尊貴型 17万9800元(約360万円)

小鵬「P7+」長続航Max 18万6800元(約374万円)

長安「啓原A07」藍鯨純電版 11万9900~14万9900元(約240万~300万円)

深藍「L07」純電版530Ultra 16万3900元(約328万円)

この中からBYDの「漢EV」を取り上げよう。全長/全幅/全高は4995/1910/1495mm、ホイールベース2920mmで、日産「N7」とほぼ同じ。しかしスペース効率は日産「N7」が上回る。トランクの容量は「漢EV」が401リットルなのに対し、「N7」は504リットル。ヒーター、通風、マッサージ機能の付いた快適シートは「漢EV」では19万9800元(約400万円)以上の上位グレードに付くが、「N7」は12万9900元(約260万円)の中間グレードから装備されている。オーディオシステムは「N7」が14個のスピーカーを装備しているのに対し、「漢EV」は8~12個だ。「N7」は業界初の全域インテリジェント車酔い防止技術も導入している。

「漢EV」は純EVセダンとして、依然として最も安心安全な選択だ。それに対し、「N7」はコアなセールスポイントを数多く備えた上に、驚異的な低価格も実現した。

合弁ブランドを再生へ

トヨタと日産は品質にこだわり抜いたEVを驚きの低価格でデビューさせた。中国メディアの論調も肯定的だ。世界戦略車の量産に励んだ結果、合弁ブランドには技術の空洞化が生じていた。そこへ中国現地のサプライヤーがEV製品システムの最適化とブランド競争力の再構築を支援した。その成果が現れた。

トヨタと日産は10万~20万元(約200万~400万円)クラスの最も競争の厳しいボリュームゾーンに正面から殴り込みをかけた。中国メディアもコスパ最強と認めている。そして何より日系ブランドへの信頼は今も健在だ。ここから日系EVの新しい地平が開けそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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