中国の自動運転企業にIPOブーム、トヨタ出資のポニー・エーアイやモメンタも米国上場か

高野悠介    2024年5月24日(金) 8時0分

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中国メディアは中国の自動運転業界がIPOの波を迎えたと指摘した。写真はモメンタの自動運転車。

中国メディアは中国の自動運転業界がIPO(新規株式公開)の波を迎えたと指摘した。トヨタが出資するポニー・エーアイ(小馬智行)やモメンタ(Momenta、北京初速度科技)も上場すると報じられている。苦戦する自動運転業界にとって新たな転機となるのだろうか。

自動運転の第1ラウンドは終了

自動運転技術はEV化の先にある本命技術として、自動車メーカーのみならず、IT企業やベンチャー企業も続々と参入している。中国メディアは、各社が研究開発に苦戦する過程で多くのオオカミ少年を生んだとし、テスライーロン・マスクCEO(最高経営責任者)やバイドゥ(百度)のロビン・リー(李彦宏)CEOもそうで、スケジュール通りに進行したことは一度もないと指摘した。

イスラエルの自動運転企業モービルアイは2022年10月に米ナスダックに上場したが、企業価値は5年前と変わらなかった。フォードとフォルクスワーゲンが出資していた自動運転技術企業Argo AI(アルゴ・エーアイ)は同月に事業を閉鎖。グーグル系のウェイモ(Waymo)とゼネラルモーターズのクルーズ(Cruise)も金食い虫と評され、米国市場に上場した自動運転関連企業十数社の株価は22年から23年にかけて平均80%も暴落した。23年には世界最大の電気自動車(EV)企業の中国のBYD比亜迪)の王伝福(ワン・チュワンフー)会長が「自動運転はナンセンス」と言い放ち、一層ネガティブな印象が広がった。こうした状況から、22年までに自動運転の第1ラウンドは終了したとみられている。

最近のAI(人工知能)ブームの後押しを受け、投資案件が再び増加し始めた。自動運転分野の融資額は21年の1591億9000億元から22年には205億元に激減し、23年も改善しなかったが、24年第1四半期(1~3月)に40件に上る大規模な投融資案件があり、調達額は92億元に上った。

ここに来て、多くの企業がIPOに名乗りを上げている。自動運転用LiDAR(光センサー技術)大手ロボセンス(速騰聚創)が1月に香港市場に上場し、その後も縦目科技(Zongmu Technology)、ホライゾン・ロボティクス(地平線機器人)、ブラックセサミ・テクノロジーズ(黒芝麻智能科技)、オンタイム(如祺出行)などが上場目論見書を発表または更新した。そんな中、本命とされるのはトヨタが出資するモメンタとポニー・エーアイだ。

モメンタには豪華メンバーが出資

5月上旬、モメンタが米国でのIPO手続きを極秘裏に始めたと報じられた。中国国際金融(CICC)、ゴールドマン・サックス、UBSなどと連携し、早ければ今年中に上場し、最大10億ドルを調達するという。

モメンタは16年に設立された。データ駆動型技術、運転支援技術、完全自動運転技術を組み合わせ、さまざまなレベルの自動運転ソリューションを提供し、中国国内のほか、ドイツや日本など海外でも事業を展開している。出資者には上海汽車、ゼネラルモーターズ、ベンツ、トヨタ、ボッシュなど豪華メンバーが名を連ねる。18年に自動運転関連で最も早くユニコーン企業に成長し、マサチューセッツ工科大学の「世界で最もスマートな企業50社」にも選ばれた。

4月末にはNVIDIA DRIVE Orin SoC(システム・オン・チップ)をベースとした新しい自動運転ソリューションを発表した。高速高架道路、市街地、パーキングそれぞれのパイロットアシストなどの高度な自動運転サポートを行う。高精度地図に依存せず、あらゆる場面に対応可能で、「全国に自動運転できる道がある」状況を作った。

ポニー・エーアイとトヨタが新会社

中国当局は4月末にポニー・エーアイの米上場を承認した。ポニー・エーアイはバイドゥの自動運転部門の幹部が独立し、モメンタと同じ16年に設立された。自動運転モビリティーサービス、自動運転トラック、乗用車のスマート化を3大事業とする。シリコンバレー、広州、北京、上海に研究開発センターを開設し、米中の多くの都市で自動運転ライセンスを取得した。2月に自動運転走行距離が3000万キロを突破したと発表した。各地でロボタクシーサービスを展開し、自動運転の商業化にとりあえず成功した企業だ。広州、北京、上海、米国のフリーモント、アーバインの5都市でロボタクシーを運営している。しかし、完全自動運転や大規模商業化にはまだ距離があると認めている。資金は9次にわたる融資ラウンドで調達し、直近の企業価値は85億ドルとされる。

ポニー・エーアイとトヨタ中国、広汽トヨタは4月末に合弁会社「騅豊智能科技」を設立した。ポニー・エーアイの完全自動運転技術能力とトヨタの完全無人運転プラットフォーム、誤発進抑制制御機能、新エネルギー車の研究開発と製造経験を統合するという。そして、特定の条件の下で人が運転に関わらない「レベル4」のロボタクシーの大量生産とサービス展開地域の拡大を目指す。

これらの報道から、トヨタはモメンタからポニー・エーアイに重心を移したように見える。

上場は最後の手段?

一部の自動運転企業は投資会社との間にいつまでにIPOしなければならないというギャンブル契約があり、その期限に直面している可能性があるという。つまり、上場しなければ資金調達どころではなくなるのだ。追い込まれての上場とはあまり聞かない。

ポニー・エーアイは21年以来、米国上場を目指してきた。今回、中国証券監督管理委員会はその申請を一応承認したが、米中の技術囲い込み合戦の動向次第では突然香港市場へ行けなどという横やりも十分考えられる。そのため、中国チームと米国チームを分離するなどの予防策は講じているが、今回の米上場承認は不確定要素が多く、最終的にどうなるか分からない。投資家らは、上場は会社の延命には役立つが、ビジネスモデルの改善には長い時間がかかると冷静に見ている。今回のIPOブームはビジネスの転機にはなりそうにない雰囲気だ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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