中国の新エネ車産業、先進国の内燃エンジン車が水素エネルギー車を打ち負かす?

高野悠介    2024年3月23日(土) 8時0分

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中国の新エネルギー車産業は不安に駆られている。先進国の電気自動車離れ、国内市場の下降など負の報道が続き、先進国の動向にこれまで以上に神経をとがらせざるを得ない。写真は中国。

中国の新エネルギー車(電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)産業は不安に駆られている。先進国の電気自動車(EV)離れ、国内市場の下降など負の報道が続き、先進国の動向にこれまで以上に神経をとがらせざるを得ない。

新エネルギー車が初の前年割れ

中国の2024年2月の新エネルギー車の販売台数は38万8000台で、前年同月比11.6%減と月間ベースで初めて前年実績を下回った。ただし1月が101.8%増と倍増しており、1~2月トータルでは37.5%増となっている。3月のデータに注目だが、伸び率の減速は間違いなさそうだ。24年の新エネルギー車産業は調整段階入りとみられていたが、現実になりつつある。バッテリーメーカー各社は一足先に前年実績を下回り、生産調整入りしている。そんな中、ネットメディア大手テンセントニュースが「先進国はEVを放棄、中国の新エネルギー車は日本の水素エネルギー車に負けることを望むのか」と題する記事を掲載した。

欧州ではEVから後退の動き

欧州委員会はちょうど1年前の23年3月に35年以降も条件付きで内燃エンジン車を販売することを認めた。条件はe-fuelと呼ばれる合成燃料を使用することだ。

フォルクスワーゲンは23年9~10月、バッテリー工場の建設計画延期とEV減産を発表した。

BMWは同年11月、「EV一択ではなく、全方位で成長させていく。水素関連ではトヨタとの関係を深めたい」と表明した。

メルセデス・ベンツは24年2月末、30年までに新車販売のすべてをEVにする計画を撤回した。市場に製品を押しつけて人為的に目標を達成するのは理にかなっていないとして、2030年代も内燃エンジン車の研究開発と販売を継続する。

欧州のメーカーは昨年からe-fuel導入を進め、内燃エンジン車事業の継続を鮮明にした。また、アップルは10年にわたったEVの研究開発を中止した。今や中国の自動車メーカーと協力してEV事業を本気で行う先進国企業はテスラだけだ。

いずれも需要の変化に対応した結果だが、中国人はこうした動きに対中陰謀論のにおいを嗅ぎつけているという。

中国に追随しない理由とは

なぜ欧米や日韓の自動車メーカーは中国のEVを追いかけようとしないのか。記事はその理由を挙げている。新エネルギー車の普及にはさまざまな問題が残っている。消費者にとって最大の懸念はバッテリーの充電と寿命、発火事故などだ。これらが露呈すれば、品質管理の失敗として非難される。その結果、伝統的な自動車メーカーは内燃エンジン車のブランド価値まで棄損するリスクを負うことになる。

さらに、どの国のEVプロジェクトであろうと、今や中国のEV産業チェーンと切り離せない。その上、各国にとって充電ステーションなどの基盤インフラ整備は当初考えていたよりはるかに大きな負担となった。自動車メーカー主体で充電基盤を整備しなければならない。そのためインフラまで含めた産業チェーンの生産性が中国ほど高くない。

従って、先進国の取る合理的アプローチは、内燃エンジン車に先祖返りし、統一戦線を組み、貿易障壁を高くすることになる。

日本の水素と同じジレンマ

一方、日本は早くから水素エネルギー技術を開発してきた。産業チェーンを形成し、技術特許の囲い込みを行っている。トヨタ、ホンダ日産パナソニック東芝などの日本企業は水素エネルギーと燃料電池技術の世界的リーダーだ。トヨタだけでも燃料電池関連特許は6000件に及び、世界の半分を占める。水素エネルギー関連全体では、日本の自動車企業が世界の70%を占める。この一強状況に対し、中国、米国、欧州は追随しなかった。

その理由は水素エネルギー技術の未熟や水素燃料の製造、貯蔵、輸送コストの高さにある。水素ステーションの建設費はガソリンスタンドの4倍、運営費は7倍かかる。そして日本は資源に乏しく、国内市場は小さい。産業の推進力を他力に依存するしかないが、ほとんどの自動車生産国からは支援を得られていない。

燃料車との持久戦

中国の新エネルギー車産業も日本の水素産業と同じ道をたどるのだろうか。いやそうではない、というのがこの記事の核心だ。その理由は以下の二つ。

1.中国の市場は巨大で、産業チェーンがすでに整い、国内プレーヤーだけで業界全体を駆動できる。国内市場に依存していても、自力で産業チェーンを好循環させられる。海外市場はまだ小規模で、先進国市場に展開できなくても、中東や第三世界諸国への市場開拓が可能だ。

2.中国のEV産業はバッテリーの進化やダイカスト成形導入などにより、原料コスト、車両コストが低下している。さらに電子制御システムやスマート化などにより、成熟度を高めている。

結局、中国のEV産業を日本の水素エネルギー産業のジレンマに陥れようとする試みは失敗に終わるだろう。それより内燃エンジン車との長い持久戦に入ったとみるべきだという。

水素エネルギーの推進と石油エネルギーへの回帰はいずれも失敗する可能性が高いとし、中国はその空隙を突いてEVを磨き上げるべきだと指摘する。バッテリー技術の欠点や汚染問題を解決し、品質と安全性の高いより上の次元の製品を作り上げれば、先進国の試みは恐れるに足りない。

しかし、こうした分析が出てくること自体が恐れと不安の証明だ。長い持久戦の幕が上がりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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