日本への外国人流入、コロナ後に急増=人手不足が主因、地方含め“移民国”に

長田浩一    2024年2月23日(金) 22時50分

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日本への外国人流入がコロナ後に急増している。写真は名古屋の飲食店。

筆者は昨年9月、日本で急速に少子化が進む中、経済の縮小を止めるには移民に頼るほかないとの識者の見解を当欄で紹介した。その中で、コロナ前の2010年代後半、日本への新規外国人入国者数(観光などの短期滞在者は除く)は年平均43万人を数え、出国者を差し引いても毎年20万人近く定住外国人が増加しているという実情にも触れた。その傾向はコロナの影響が一段落した22年以降加速しており、日本は“移民国”の性格を一段と強めているようなのだ。また、多くのメディアが報じている「東京一極集中」と呼ばれる状況も、外国人を含めれば、違った姿が見えてくる。

28都道府県で転入超過に

総務省は1月末、住民基本台帳に基づく23年の人口移動報告を公表した。これに関する各メディアの報道は、「東京の転入超過6.8万人 『一極集中』加速」(朝日新聞)、「40道府県で転出超過」(NHK)、「大阪圏、名古屋圏も転出超過」(テレビ朝日)など、首都圏の一人勝ち、地方の衰退といったトーンで書かれたものが多かった。

しかし、これに「ちょっと待ったー!」と異議を唱えた人物がいる。元日本銀行理事の山本謙三氏だ。

山本氏は、自身が主宰するウェブサイトに「東京一極集中論はいまや的を外している」と題した論考を公表。その中で、人口移動の真の姿を把握するには国内移動だけを対象にしたデータでは不十分であり、国外との流出入を加味して分析する必要があると指摘した。山本氏が国外との人口移動を含むデータで試算したところ、22年以降、首都圏だけでなく大阪圏や名古屋圏でも転入者が転出者を上回っており、昨年はそれぞれ2万9700人、2万5200人の転入超過だった。両地域とも国内移動は転出超過だが、外国からの転入がそれを上回った。

この傾向は大都市圏に限ったものではない。昨年は47都道府県のうち、外国人の流入を主因に28の都道府県で転入超過になったという。その中には人口流出で悩んでいるというイメージの強い北海道、広島県、佐賀県なども含まれる。まさに「東京一極集中論は的を外して」いるのだ。

こうした実態を反映して、日本に定住する外国人は増加を続けている。法務省が発表している在留外国人統計によると、23年6月現在(23年末のデータは未発表)の在留外国人は322万3858人(内訳は中国人79万人、ベトナム人52万人、韓国人41万人など)で、アジア諸国からの流入を中心に前年末比14万8645人増加。下半期もこのペースが続いていたら、年間で約30万人と、22年(31万5000人)に続いて大幅に増加したことになる。ちなみに16~19年は年平均17万5000人増加し、コロナの影響を色濃く受けた20、21年は小幅の減少だったので、コロナ後に増加ペースが加速した格好だ。このテンポで流入が続けば、今世紀半ばには人口の1割が外国人になる計算だという。

労働力不足の緩和に貢献

では、日本に住む外国人が急増している理由は何なのか。山本氏は「外国人の急激な流入増加は、基本的に国内の人手不足の反映である。…(この2年間の)増加は新型コロナからの反動では説明がつかず、多くの企業が労働力不足への対応を急いだ結果だろう」と分析する。

日本では1970年代前半の第2次ベビーブーム以降、長期にわたり出生数の減少が続いているうえ、団塊世代(1947~49年生まれ)が今年末までにすべて後期高齢者になることなどから、労働力不足が今後さらに深刻化するのは必至。山本氏は「外国人の流入は、こうした労働力不足の緩和に貢献する」と期待を寄せる。

それにしても、この2年間は円安が急激に進んだ時期と一致する。せっかく日本に来て働いても、ドル建てないし自国通貨建ての手取りはその分減ってしまうわけで、出稼ぎ先としての魅力は薄れているはず。それにもかかわらず多くの外国人が日本に向かうのはなぜなのか。もちろん現在でもなお日本の賃金は多くのアジア諸国よりは高いが、それだけが理由なのか。あるエコノミストは「日本の治安がいいこと、広い意味での社会の規律が維持されていること(電車が時刻表通りに動く、食事が安くておいしい、各種サービスの質が高い、など)が評価されているのではないか」と見る。

同じことを別の言葉で言い換えているだけかもしれないが、私は“日本ブランド”が依然として健在であることが大きいのではないかと思う。アジアで最初に先進国の仲間入りを果たし、高い技術力を誇り、欧米諸国に伍して主要7カ国の一角を占めている日本に対し、一種のあこがれを抱いている人たちは、アジアを中心にまだまだ多いのではないか。それが、最近の円安にもかかわらず出稼ぎ先に日本を選ぶ人が多い一因なのではないだろうか。もっとも、それは一種の神話であり、顕在化しつつある相対的な技術力の低下が続けば、ブランドの価値も次第に下がってしまうのだが…。

“日本ブランド”の維持強化を

このように急速に移民国化している日本だが、課題は少なくない。そもそも、労働力不足を外国からの移民で補うというやり方について、広く社会的な合意が成立しているとは思えない。現在のように半ばなし崩し的に定住外国人が増えていくと、どこかの時点で強い軋轢が生じかねない。政治が前面に出て、外国人の流入増の是非について方向性を示す必要がある。

仮に外国人を積極的に受け入れる方向でまとまったとしても、やるべきことは山積している。日本語の習得支援や子女教育をはじめ受け入れ態勢をさらに整備しなければならないし、地域住民の意識改革も必要になるかもしれない。そして、ブランドを維持するためには、経済だけでなく文化、スポーツ、科学など幅広い分野で活力を高める努力が不可欠だ。特に広く大衆にアピールする芸能・文化とスポーツの魅力アップは効果的だ。

足元で日本以上に急速に少子化が進んでいる中国、韓国でも、今後労働力不足が顕在化する可能性がある。その場合、日中韓で外国人材の奪い合いが起きるかもしれない。そのような状況になっても、外国人労働者に日本を働き場として選んでもらえるよう、官民挙げて日本ブランドの維持強化に注力していくべきだろう。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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