憶測呼ぶ金総書記の見舞い電=朝鮮総連議長、時事通信社の互例会に異例の出席―日朝関係に変化?

山崎真二    2024年1月24日(水) 18時30分

拡大

年明け早々、北朝鮮の金正恩党総書記が能登半島地震のお見舞いメセージを日本に送ったことから、「対日姿勢軟化の兆しか」などさまざまな憶測が流れている。写真は平壌。

年明け早々、北朝鮮金正恩党総書記が能登半島地震のお見舞いメセージを日本に送ったことから、「対日姿勢軟化の兆しか」などさまざまな憶測が流れている。

見舞いメッセージの意味は

各メディアが報じたように北朝鮮の国営通信社「朝鮮中央通信」は6日、金正恩総書記が岸田文雄首相宛てに能登半島地震への見舞い電報を送り、哀悼の意を表明したと伝えた。同総書記はこの中で「日本で不幸にも新年初めから地震により多くの人命被害と物的な損失を被ったという知らせに接し、あなたと遺族、被害者に深い同情と見舞いの意を表する」と述べている。

このメッセージは5日付で朝鮮労働党機関紙「労働新聞」にも掲載された。朝鮮半島情勢に詳しい専門家の話では1995年の阪神・淡路大震災の際に、当時の姜成山首相から村山富市首相宛てに見舞いのメッセージが送られたが、それ以来だという。

北朝鮮問題の専門家が一様に注目するのは、今回のメッセージで金総書記が「日本国総理大臣岸田文雄閣下」と敬称をつけている点。「北朝鮮の対日姿勢が軟化する兆しではないか」「日本との対話を探ろうとする意図があるのでは」などといった見方が取りざたされている。これで思い起こされるのは、北朝鮮のトランプ前米大統領に対する態度の変化だ。かつて北朝鮮はトランプ前大統領を「老いぼれの狂人」などと罵倒していたが、2018年の初の米朝首脳会談の直前からは「親愛なる大統領閣下」と敬称で呼び始めたという事実がある。日本の首相に異例の敬称を付けた北朝鮮のソフト姿勢が重要視されるゆえんである。

興味深い朝鮮総連議長の行動

金総書記の見舞い電報が出された同じ5日、日本でもう一つ興味深い出来事があった。在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)のトップの許宗萬議長がこの日東京の帝国ホテルで開催された時事通信社グループの「新年互礼会」に出席したのである。この互礼会では岸田首相が新年のあいさつをしたが、多数の招待客に交じって許議長も耳を傾けたという。

同議長は90歳近い高齢でもあり、最近では体力の衰えに加え視力の低下などで、外部の公式の席にはほとんど出ないと伝えられる。時事通信社の関係者によれば、同議長はボディガードに手を引かれ、岸田首相のあいさつが始まる前に会場入りし、あいさつを聴いた後に時事通信社幹部らにあいさつし、会場を後にした。総連副議長や広報担当の副局長の出席も確認されている。同社主催の互礼会は毎年開かれているが、過去数年、許議長は欠席していたという。北朝鮮問題関係者らの間では「許議長の行動は本国の対日ソフト姿勢と関係があるのではないか」とささやかれている。

北朝鮮の融和姿勢にどう対応―岸田政権

北朝鮮が対日姿勢を軟化させた場合、日本はどのように対応するのか。林官房長官は金総書記の見舞い電報に謝意を表するとしながらも、メッセージに返答する考えはあるかと聞かれたのに対し、「各国首脳などからのメッセージへの返信は現時点で行っていない。日朝間のやり取りについては、今回のメッセージに対する対応を含め、事柄の性質上、控えたい」と述べるにとどまった。

思い起こせば、昨年5月に岸田首相が金総書記との首脳会談の早期実現を目指し、首相直轄のハイレベルで協議を行いたい旨表明、これに対し北朝鮮側は外務次官談話を発表し、「両国が会えない理由はない」と前向きとも受け取れる反応を見せた。支持率低下に苦しむ岸田政権が日朝関係の打開にこれまで以上に意欲を示していると見る向きは少なくない。

拉致問題担当大臣を兼務する林官房長官は昨年就任早々、新潟市を訪れ、横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された現場を視察、今年1月11日にはめぐみさんの母親の早紀江さんらと総理大臣官邸で面会し、すべての拉致被害者の早期帰国に向けて全力で取り組む考えを強調した。果たして今回の金総書記の見舞いメッセージなどソフト姿勢が日朝関係打開への一歩になるのだろうか。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携