異業種参入組から見る2024年のEV市場、恒大は退場、新規参入のシャオミはどうなる?

高野悠介    2024年1月24日(水) 7時30分

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恒大とシャオミという異業種参入組の現在から、今後のEV業界を探りたい。写真はシャオミの高級セダン「SU7」。

2023年末から2024年初にかけて、EV業界で対照的なニュースが交錯した。不動産大手の恒大集団傘下の恒大新能源汽車は経営破綻がほぼ確定した。その一方、スマホ大手のシャオミ(小米)は2023年末、今年発売する新型EVの詳細を発表した。恒大とシャオミという異業種参入組の現在から、今後のEV業界を探りたい。

恒大汽車は恒大集団再建の切り札

中国政府は2020年8月、不動産融資規制の三道紅線(三つのレッドライン)政策を発動した。それを期に起こった恒大集団の経営危機は周知のように世界を震撼させた。

恒大の「造車の旅」はその2年前、2018年に本格化した。中国の自動車販売・サービス最大手の広匯集団やスウェーデンのNEVS(旧サーブ)に出資し、その縁でNEVSの天津工場を引き継ぐ。2019年8月に恒馳1から6まで6モデルのプロトタイプを発表した。同年10月に恒大創業者の許家印氏が訪日し、デンソーやトヨタ紡織などの有力サプライヤーに部品供給を依頼した。11月には、広州に世界の有力企業206社を招き、「恒大新エネルギー車世界戦略パートナーサミット」を開催した。翌2020年8月に恒大新能源汽車が発足した。

恒大の本体の不動産事業はすさまじい逆風にさらされ、決算書も出せないありさまだった。しかし、許氏はEV製造を放棄しないどころか、EVこそグループ再建の切り札と宣言した。

2024年1月に命脈尽きる

恒大新能源汽車は2021年12月に「恒馳5」を生産ラインに投入した。全長4725㎜、全幅1925㎜、全高1676㎜の中型SUVで、価格は17万9000元(約367万円)と手頃に設定。電池は宇徳時代(CATL)のリン酸鉄リチウムイオン電池で、航続距離は602キロ。シャシー構造、動力電池、自動運転の各分野において、世界最先端という触れ込みでスタートした。2022年3月の発売を目指したが、延期アナウンスを繰り返し、最初の納車は同年9月になった。2022年10月に100台を納車し、2023年7月に累計1000台を突破したが、その後ニュースは途絶える。実は2022年12月の段階で、内部へ「停工留職通知」という文書を発していた。従業員の25%を1~3カ月休業させるという内容だった。さらに資金不足に見舞われ、2023年は金策に追われた。

頼みの綱はアラブ首長国連邦(UAE)のEVメーカーNWTNだった。取締役の過半数を得る条件で5億ドルを出資するはずだった。しかし恒大幹部への刑事捜査が大きな懸念を与え、出資見送りを発表する。するとその翌週、実際に最高幹部が逮捕された。

その人物、劉永灼副会長は42歳の若さで、許氏の右腕、後継者と目されていた。2022年の年収は4398万元(約9億円)。恒大集団、恒大地産集団、恒大新能源汽車の大株主でもある。劉氏の逮捕をもって、恒大新能源汽車の命脈は尽きたと受け取られている。結局3年間で989億元(約2兆274億円)の欠損と760億元(約1兆5580億円)の巨額負債が残った。切り札どころではなかった。

シャオミが高級セダン「SU7」を発表

これに対し、シャオミのEV進出は2021年3月。恒大から3年遅れとなった。同年9月に全額出資子会社「小米汽車有限公司」を設立し、11月に北京経済技術開発区に工場進出。年間30万台の大型工場建設を発表し、量産開始目標を2024年上半期とした。

そして2023年12月末に2024年上半期発売予定の新車「SU7」の詳細を発表した。「SU7」は全長4997mm、全高1440mm、ホイールベース3000mmの大型セダン。クーペと見紛う流麗なデザインはプジョーやBMWに関わった設計チームが担当した。1号車にセダンを選んだ理由はSUVより製造が難しいからだという。

電池は宇徳時代のエース、三元リチウムイオン「麒麟」バッテリーパックを採用した。これにシャオミ独自開発の800ボルト高電圧プラットフォームを組み合わせ、5分で200キロ、15分で510キロ分の急速充電を可能にした。航続距離は800キロだが、理論上1210キロも可能。冷却に独自技術を加えるなど、バッテリーには特に精力を傾けている。モーターも自社開発し、世界トップクラスという。

工場にはテスラばりのギガプレスを導入した。9100トンの大型ダイキャストを導入し、組み立てライン一式と制御機器60台も開発する。また、独自NOA(Navigate On Autopilot)をオープン、フルスタックの自動運転技術の準備もできた。これもテスラ追従だ。

価格は発表されていないが、創業者の雷軍氏によれば、安くはないという。ライバルの多い高級セダン1車種でどこまで戦えるか、気になるところだ。

シャオミは時流に乗れるか

恒大の「造車の旅」は5年間の苦闘の末、2024年1月に終了した。後発のシャオミは3年目を迎えたが、この先どうなるのだろうか。同じ異業種参入組とはいえ、出自の違いは明確だ。恒大は将来有望だからという単純な動機で進出したが、シャオミには自社のIoTネットワークのラストピースという目標があった。また、創業者の違いも顕著だ。許家印氏のイメージは「暴れん坊」。これに対し、雷軍氏は郷里の秀才イメージで、好感度が高く、ファンも多い。

シャオミは自前の技術を持つメーカーで、親会社の財務も健全だ。恒大より成功の確率は高そうに見える。最大の懸念は時流に乗れるかどうか。今からの発売で間に合うのか。2023年はバッテリーリサイクルのESG課題や寒波による充電ステーションのまひなど、EVのさまざまな問題が露呈した。2024年に中国市場は調整期に入るとみられる。恐らく技術を重視し、コスト高であろう「SU7」には厳しい船出となりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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