広州汽車の戦い、三菱とフィアット失い、ホンダとトヨタ前年割れもEVで巻き返す

高野悠介    2024年1月12日(金) 9時0分

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中国自動車工業協会は、2024年の国内自動車販売台数は3100万台で、うち新エネルギー車のシェアは43%と予測している。写真は広汽埃安の「AION Y Plus」。

中国の2023年1~11月の新エネルギー車販売台数は前年同期比36.7%増の830万4000台で、シェアは30.8%だった。中国汽車(自動車)工業協会は、2024年の国内自動車販売台数は3100万台で、うち新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)のシェアは43%と予測している。2024年も躍進が期待できる唯一の産業分野かもしれない。

新エネルギー車業界で勝ち組は希少

中国には2018年に487社もの新エネルギー車製造企業があった。それが2023年には50社前後に減少した。そして勝ち組と負け組がはっきりしてきた。勝ち組はBYDテスラ、EV製造のため新たに設立された「造車新勢力」3強の1つ、理想汽車などほんのわずかだ。その下のクラスは死線を彷徨している。不動産大手・恒大集団傘下の恒大汽車、自游家、雷丁などいずれもかつて話題を振りまいた企業群だ。

一方で、上昇気流に乗っている企業もある。吉利汽車、長安汽車、広州汽車、ファーウェイ(華為技術)の共同開発ブランド、アークフォックスアルファー(極狐阿爾法)、アバター(阿維塔)、セレス(賽力斯)だ。ファーウェイ系以外は従来型自動車メーカーで、EVで巻き返している印象だ。この中から日本と非常に縁の深い広州汽車について考察したい。

広州汽車は外資合弁の受け皿

広東省広州市は2022年末の常住人口が1873万人で、北京、上海深センと並び一線級都市と称される。自動車産業も盛んで、2022年には314万台を生産し、4年連続で中国1位を達成した。製造工場12社と部品工場1200社がある。

その中心が広州汽車だ。2022年の販売台数は前年比16%増の243万3800台と順調だった。国有自動車企業では上海汽車、第一汽車に次ぐ3位の座を長安汽車と争っている。

広州汽車は2005年6月に広州鋼鉄、広州市長隆酒店、中国機械工業集団など広州財界や大企業が発起人となって大型国有企業として改組し、新たにスタートした。その大きな目的は外資合弁の受け皿だ。

アコードとカムリが業績をけん引

そして1998年の広汽ホンダを皮切りに、2004年に広汽トヨタ、2007年に広汽日野、2010年に広汽フィアット、2012年に広汽三菱と続々と外資合弁企業が設立された。

広汽ホンダは1999年の6代目アコード、2003年の7代目アコードがヒットし、評価が定着した。2007年に広汽本田汽車研究開発を設立し、コンセプト設計、車体設計、試作、実車テストまで中国で完結できるようにした。これが中国自動車産業のステップアップにつながったと評価されている。生産車種はアコード、シティ、オデッセイ、フィット、CR-Vなど。

広汽トヨタは2006年5月に最初のカムリを出荷した。2008年にヤリスの出荷が始まり、カムリ、ヤリスの2車種体制となる。2009年5月にハイランダーの出荷スタート。同年10月にカムリが最速記録で50万台を達成した。2022年に新エネルギー車生産能力が20万台になったと発表した。

広汽ホンダと広汽トヨタは広汽集団の利益に大きく貢献した。アコードとカムリがその屋台骨といっていい。

フィアットと三菱は撤退

うまくいかなかった外資もある。

広汽フィアットの合弁調印式には当時の胡錦涛主席とイタリアのベルルスコーニ首相が出席した。大きな注目を集め、中国自動車業界に欧州の風を持ち込んだと評された。2012年にフィアット500、中国市場専用のビアッジオ、SUVのフリーモントなどを発売した。しかし、EVの興隆とともに売り上げは低迷し、その後話題を提供したのは2022年7月の合弁解消と10月の破産宣言だった。

広汽三菱は2012年に広州汽車の既存工場を引き継いでスタート。小型SUV「ASX勁[火玄]」とパジェロを投入し、SUV市場で躍進した。2018年6月にアウトランダーを投入し、アウトドア系では万全に思われたが、2023年6月に生産を停止。三菱自動車は10月末、三菱ブランドの現地生産を停止すると発表した。

日系の販売減をEV子会社で挽回

2023年1~11月の販売台数は、広汽ホンダが前年同期比17.9%減の56万1137台、広汽トヨタが同8.4%減の85万2600台だった。しかし、広汽集団全体では同0.81%増の224万5837台とかろうじて前年をクリアした。その原動力は同80%増の43万4056台を売り上げた広汽埃安だ。

広汽集団は2017年にEV子会社の広汽新能源汽車を設立。2019年に「AION S」を世界で発売した。2020年にブランド名の埃安(AION)を冠した広汽埃安新能源汽車に改名し、独立運営となった。現在はAION LX Plus、AION V Plus、AION S Plus、AION Yの4車種の体制で、売れ筋は若者向け小型SUVのAION Yで、11月の新エネルギー車販売台数の9位に入った。

2023年10月に広汽三菱の完成車工場を広汽埃安に移管すると発表。広汽集団は2020年ごろまでアコードとカムリで濡れ手で泡の商売をしていたが、自主ブランドEVの開発がどうやら間に合い、広汽ホンダと広汽トヨタの落ちこみをカバーした。

このところ中国国有企業の巻き返しが目立つ。外資から学んだノウハウや、工場設備、販売店網などの実物資産があり、ソフト、ハード両面でのポテンシャルを発揮しだした。造車新勢力はますます苦境へ追い込まれそうだ。広汽ホンダも2022年6月に純電動中型SUV「e:NP1」を発売したが、売り上げはパッとしない。広汽トヨタの「bZ4X」も同様だ。新モデルに期待するしかないが、国有企業が盛り返せるなら、日系企業も同様だろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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