山崎真二 2024年1月2日(火) 8時0分
拡大
2024年は「アルゼンチンのトランプ」との異名をとるミレイ新大統領の動向が焦点の一つ。公約である急進的な経済政策や親中路線の転換を実施するのか、内外の注目が集まる。写真はアルゼンチン大統領官邸。
2024年の中南米では「アルゼンチンのトランプ」との異名をとる同国のミレイ新大統領の動向が焦点の一つ。公約である急進的な経済政策や親中路線の転換を実施するのか、内外の注目が集まる。
ミレイ大統領は12月10日に就任したばかり。早速、その言動に各国マスコミが強い関心を示すのは、内政・外交面の公約がショッキングで常識外れとも受け取れるからだ。「政府省庁の半減」「臓器売買の合法化」はまだしも、中央銀行を廃止し、通貨ペソをなくし、すべて米ドルにするとの主張は内外で物議を醸している。
「こんな過激政策が実施されたら、アルゼンチンは自国の金融政策を放棄し、米連邦準備制度理事会(FRB)の決定に従属することになる」(ブエノスアイレスの有力エコノミスト)と国内で反対論が広まる。
欧米でも「通貨ペソ廃止には国内で流通するペソを買い集め、ドルと交換する必要があるが、現在のアルゼンチンにはそんな経済力はないはず」(「ウォール・ストリート・ジャーナル」の経済記者)などと、海外の専門家らも非現実的と異を唱える。さらに国際的波紋を広げているのが、「対中関係断絶」を示唆したミレイ大統領の発言だ。ミレイ氏は選挙戦で「中国政府は暗殺者」「共産主義者とは取引しない」などと叫び、対中非難を繰り返した。
実際、ミレイ氏は大統領就任直前、ワシントンを訪問し親米外交方針を内外に示すとともに、従来のアルゼンチンの親中外交を転換する意向を表明した。フェルナンデス前アルゼンチン大統領は2022年2月に訪中し、習近平国家主席との首脳会談で「一帯一路」構想への参加を表明するなど親中政策を推進、両国関係が緊密化した。中ロなど新興5カ国の「BRICS」へのアルゼンチンの参加が発表されたのもまだ記憶に新しい。ミレイ新大統領が中国離れを進めるのかどうか、習近平政権が大いに気にしていることは想像に難くない。
だが、実は中国と決別しようとしても現実には容易に踏み切れない事情がある。第1にアルゼンチンと中国との強い経済的つながりを指摘できる。アルゼンチンにとって中国は重要な貿易パートナー。アルゼンチン国家統計局の資料によれば、中国は輸入面では最大の相手国、輸出面ではブラジル、欧州連合(EU)に次ぎ3番目である。フェルナンデス前大統領が「一帯一路」構想への参加を表明して以後、中国からの投資や融資に弾みがついた格好。アルゼンチン国内のさまざまな大規模プロジェクトに今や中国はなくてはならない存在であることは否定できない。
もう一つ、見逃せない点がある。それはアルゼンチンと中国の通貨スワップ協定だ。アルゼンチンはキルチネル左派政権下の2009年、中国とのスワップ協定を締結、今年6月には中国人民銀行とアルゼンチン中央銀行の間でアルゼンチンが使用可能な額を倍増する新たな協定を締結している。アルゼンチンの財政面や債務返済上、中国とのスワップ協定への依存度がこの数年格段に増しているといわれる。アルゼンチンは国際通貨基金(IMF)から総額440億ドルの金融支援を受けているが、中国の協力なしにはIMFへ返済もできなくなる恐れがあるとの見方が有力。年率150%のインフレ、財政赤字拡大、対外債務急増と外貨準備激減という経済危機の中、「今は対中関係を断つというタイミングではない」(ブエノスアイレス有力紙編集長)との意見はもっともなところだろう。
実際のところ、ミレイ大統領自身も中国の重要性について認識しているようで、政権発足後は厳しい対中批判は控え気味。在ブエノスアイレス外交筋が一部メディアに語ったところによると、ミレイ大統領は最近になって「一つの中国」原則を支持し、両国間の協力を進める考えを示したほか、習近平主席に対し通貨スワップを求める書簡を送り、電話会談を行う用意がある旨伝えたという。
ただ、ミレイ氏は「リバタリアン(自由至上主義者)」「無政府資本主義者」とも呼ばれるように変幻自在に振る舞う政治家だけに、本当に対中強硬姿勢を変えるつもりなのかは分からないとの見方も多い。果たしてアルゼンチン新政権の外交の行方は?
■筆者プロフィール:山崎真二
山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。
この記事のコメントを見る
Record Korea
2023/12/29
CRI online
Record China
2023/12/28
anomado
ピックアップ
we`re
RecordChina
お問い合わせ
Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら
業務提携
Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら
この記事のコメントを見る