ODAからOSAへ、日本の戦略転換は何を意味しているのか―中国専門家

Record China    2023年11月7日(火) 12時0分

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岸田首相は11月3日、フィリピン、マレーシア歴訪に出発した。日本政府はこの間政府安全保障能力強化支援の枠組みに基づき、フィリピンへ沿岸監視レーダーなどの防衛装備品を初めて提供する。

中国メディアの環球時報は11月4日、日本政府が政府安全保障能力強化支援(OSA)の導入後初となるフィリピンへの防衛装備品供与に関する論評を掲載した。

OSAの枠組みは、日本政府が2022年末に改定した国家安全保障戦略に盛り込まれた重要な要素の一つである。日本政府によると、OSAは「防衛装備移転3原則」の一部であり、「共通の価値観」を有する「パートナー国」の軍隊に対する軍備の無償供与やインフラ整備が含まれ、パートナー国の軍事力と安全保障能力の向上を支援する。日本政府は23年度予算でフィリピン、マレーシア、バングラデシュ、フィジーへの援助を行うほか、来年度はベトナム、インドネシア、モンゴル、ジブチなど対象国を増やし、予算もさらに拡大すると報道されている。

経済支援に重点を置いた従来の政府開発援助(ODA)から安全保障を重点とするOSAへの転換は、当然ながら諸外国から注目を集めている。環球時報はこの問題について、黒竜江省社会科学院北東アジア研究所研究員で北東アジア戦略研究院のシニアアナリストである笪志剛(ダー・ジーガン)氏の論評文を掲載した。

中国人アナリストが見るOSA3つの戦略目標

笪氏は日本政府によるODAからOSAへの転換は、日本の戦略的意図を顕著に示すものであり、その目的は大きく三つに分けられると述べている。

笪氏は第1点として、日本が「域内大国」として戦略的バランス能力を引き上げようとしていると分析する。「今回の岸田首相の東南アジア歴訪は中国を意識した対応であり、東シナ海、南シナ海さらには台湾海峡周辺の安全保障能力の支援強化も盛り込まれている。これは中国の軍事的・経済的影響力を牽制しようとする意図が顕著である」との見解を述べた。

笪氏また、「日本政府が日本の軍需産業を刺激して低迷する経済活動を活性化させたいとする意図がある」と指摘。「ロシアウクライナ紛争や最近のパレスチナイスラエル戦争の勃発に伴い、世界の軍需産業は破竹の勢いとなり、軍需品の輸出大国である韓国の軍需関連産業は、日本の産業界にとって垂涎(すいぜん)の的である」とし、「ODAからOSAへの転換によって日本は地政学的な目標達成を期待すると同時に、軍事産業の活性化を直接促進することで景気を回復させ、さらには武器装備の輸出や自衛隊の海外派兵も考えているのではないか」と分析する。

笪氏はさらに「日本は多国間主義に基づく地政学的な戦術介入も目論んでいるのではないか。日本の政界は地政学的あるいは安全保障の情勢変化に単独で対応するのは難しいと見て、東南アジア、南アジアそして太平洋諸島国家の海上における安全保障能力を支援することで、『パートナー国』との間に海上防衛ラインを形成し、東シナ海、南シナ海ひいては『インド太平洋地域』に対する介入を増強しようとしている」と懸念を示す。

笪氏はまた日本の対外援助がODAからOSAへ転換することにより、日本が従来までの「域内経済中心主義」から逸脱することが可能になったと分析。「日本政府は、かつて2国間・多国間の貿易メカニズムの構築に積極的だった。しかし地域包括的経済連携協定(RCEP)や環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)などが今となっては国家安全保障戦略の足かせとなっており、調整が必要と考えている」と述べている。

地政学的な安全保障中心主義の確立

笪氏はOSAの第2の戦略目標として、「地政学的な安全保障中心主義」を挙げた。「日本はかつての経済を優先する思考が薄れるにつれ、地政学的安全保障を中心に据えた意識が強化され、国防や安全保障に関連する経済や科学技術の思考が拡大し、OSAはまるで『安全保障に対する奉仕』の象徴のように見える」と主張。「OSAを初めてフィリピンに適用し、自衛隊とフィリピン軍の『部隊間協力円滑化協定(RAA)』締結に向けた交渉開始など、日本政府の行動は対外援助と安全保障のシームレスな連携が将来の日本の『地政学的な安全保障中心主義』の核心となることを示唆している」と指摘した。

第3点として、笪氏は「対外援助に基づき構築する多国間の封じ込めネットワークを日本政府は重視するのではないか」と推測。「2国間の意思疎通による解決メカニズムを重視し、多国間の対話メカニズムを補助とするこれまでの方法とは異なり、『地政学的な安全保障中心主義』が政策決定の上位に上がるにつれ、日本政府が北東アジア、東南アジア、さらには東シナ海、南シナ海など広範なインド太平洋問題に対処する場合、多国間の封じ込めネットワークと防衛メカニズムにより頼る傾向にある」とし、「フィリピンに適用されたOSAは今後他の国家へも加速して拡大するだろう。まさに先に述べた戦略転換の具体的な反映だ」と述べた。

OSAに潜むマイナス要因

しかしながら、笪氏は日本政府がフィリピンに適用した初の「OSAの見本」は、間違いなくマイナスの影響をもたらすと予測する。「まず新たな地政学的緊張を高めることになる。フィリピンに対するOSAを通じた軍事援助は、フィリピンの海上における挑発的活動に対して火に油を注ぐことになる」と主張し、今後OSAの適用対象と規模の拡大に伴い、新たな地政学的緊張を誘い対立が激化する可能性もあると述べた。また笪氏は「東南アジアとアジア太平洋地域には域内に二国間・多国間の矛盾が存在する上、域外勢力の関心も高い地域であるため、OSAがさらなる潜在的危険性を植え付けてしまう可能性がある」とも指摘した。

さらには、「域内の軍拡競争を引き起こす可能性もある」とし、「OSAの枠組みは軍事装備の殺傷性や機密性のあるインフラ建設を行う対民間支援の定義を曖昧にしているが、本質的には軍備輸出の変形だ。ある国家が安全保障能力を強化すると同時に、別のある国家の安全保障に懸念が生じるという事態は、地域内の国家がバランスをとるため軍拡競争を引き起こす恐れがある」と憂慮を示した。(翻訳・編集/榊原)

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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