石油危機50年、再エネ拡大を=高まる中東石油依存度―太陽熱と断熱リフォームで支出半減の実例も

長田浩一    2023年10月12日(木) 7時0分

拡大

日本の中東産石油への依存度が石油危機当時よりも高くなっている現実に愕然とする。そして、エネルギーについて考えれば考えるほど、二酸化炭素や核のゴミを出さない再生可能エネルギー拡大の必要性を痛感する。

今年10月は、第一次石油危機のきっかけとなった第四次中東戦争(1973年10月)から50年になる。当時、私は高校生。あれからもう半世紀も経ったのかという感慨とともに、現在の日本の中東産石油への依存度が、石油危機当時よりも高くなっている現実に愕然とする。そして、エネルギーについて考えれば考えるほど、二酸化炭素(CO2)や核のゴミを出さない再生可能エネルギー拡大の必要性を痛感する。太陽熱温水器の設置などで光熱費が半減した実例も紹介したい。

石油の供給先の多角化進展せず

第一次石油危機は、イスラエルと戦争状態に入ったエジプトとシリアを支援するため、アラブ産油国が石油価格の大幅値上げに動いたことで勃発したが、日本への影響で有名なのがトイレットペーパー騒動。個人的には「紙がない!」と騒いだ覚えはないが、トイレットペーパーを求めて主婦らがスーパーの雑貨売り場に殺到する映像は脳裏に焼き付いている。翌年にかけての狂乱物価の記憶も鮮烈だ。自ら体験した歴史的な出来事を改めて検証したいという思いから、先日日本記者クラブで開かれた石油危機50年をテーマにした記者会見に出席した。

登壇した日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長の保坂修司氏によると、石油危機当時の日本政府には中東の専門家が不足していたほか、外務省を中心とした対米関係重視派と、通産省などの石油重視派の対立があり、対応が迷走したという。また、トイレットペーパー騒動にはメディアがパニックを助長した側面があったとの指摘は、長年メディア業界の片隅で禄を食んできた者にとっては耳が痛かった。

同氏によると、石油危機当時、日本の一次エネルギー全体に占める石油の割合は75.5%で、そのうち中東産のシェアは77.5%。つまり一次エネルギーの4分の3を石油に頼り、その8割近くが中東産だったわけで、石油価格大幅値上げのインパクトは絶大だった。

日本はその後、政情が不安定な中東に依存しすぎるのはリスキーだとして、石油の供給先の多角化に動いたはずだった。ところが保坂氏によると、2021年の石油輸入量に占める中東産の割合は92.5%に達し、石油危機当時を大きく上回る。もちろん、原子力や天然ガス、ソーラーなどエネルギーの多様化は進んだため、一次エネルギー全体に占める石油の割合は36%に低下しており、当時に比べエネルギー供給の脆弱度が増したとは言えない。それにしても、石油に限って言えば中東依存の状況はさらに進んでいるわけで、50年前の反省は何だったのかという思いは残る。

核のゴミ、10万年安全に保管?

保坂氏とともに会見した日本エネルギー経済研究所専務理事の小山堅氏は、ウクライナ危機なども踏まえてエネルギー安全保障を強化するためには「安定的なベースロード電源の価値の再確認」が必要として、原子力の積極活用の重要性を力説した。しかし私は、使用済み核燃料などいわゆる核のゴミへの不安が強く、どうしても積極的にはなれない。

この問題については、昨年5月29日付当欄でも触れたので、詳しくは論じない。ただ、政府は核のゴミを地底深く埋める地層処分を行う方針だが、世界有数の地震国・火山国であり、地殻変動も激しい日本で、放射能レベルがほぼ自然界並みになる10万年後まで安全に保管できるのか、疑問が残る。

万一処分場から核のゴミが漏れ出した場合、福島の事故を上回る環境破壊が発生し、将来世代に大変な負担をかける可能性がある。「事故が起きるとしても数百年後か数千年後、あるいはもっと先。われわれは生きていないし、そもそも人類(ホモ・サピエンス)はそれまでに絶滅しているかもしれない」と無責任に開き直ることができれば気が楽なのだが…。

酷暑の今夏でも電気代半減

原子力には事故への不安や核のゴミの問題、化石燃料には気候変動をもたらすCO2の問題がある。それらの使用をただちに停止することはできないが、環境への悪影響を極力抑えつつエネルギー需要を満たすには、やはり再エネの利用を最大化するほかない。私は昨年1月19日付当欄で、「レトロな太陽熱給湯・暖房、再評価を!」と題したコラムを執筆し、太陽光発電だけでなく、太陽熱をそのまま給湯や暖房に利用するシステムの活用を訴えた。その有効性を裏付ける実例があるので紹介したい。

首都圏に居住するAさんは、昨年に持ち家のリフォームを実施。具体的には、壁面などの断熱材を増強するとともに窓ガラスを二重化するという断熱リフォームを行い、冷暖房効果の改善を目指した。同時に屋根に太陽熱温水器を設置し、入浴や洗面の際の給湯に太陽の恵みを最大限活用することにした。発電用の太陽光パネルではなく太陽熱温水器を導入したのは、太陽のエネルギーを電気に転換するよりも、熱としてそのまま利用する方が有利だからだ(エネルギー効率は、太陽光発電の15~20%に対し、太陽熱温水器は約50%)。

その効果はてきめん。リフォーム後の今年1~9月の光熱費を、リフォーム前の前年同期と比べてみたところ、電気代は50%、ガス代は55%の大幅な減少だった。さらに冬場の暖房に使用する灯油についても、「レシートを保管していないので正確ではないが、購入頻度は半分かそれ以下になった」(Aさん)。ウクライナ侵攻の影響などでエネルギー価格が軒並み上昇する中、電気、ガス、灯油への支出をいずれも半減できたわけだ。

ガス代の減少は太陽熱温水器の効果だろう。電気と灯油の需要減少は、断熱リフォームの影響が大きいと思われる。特に酷暑だった今夏、連日冷房を使用したにもかかわらず電気代がほぼ半減したのは予想外の驚きだったという。

アジア諸国への拡大にも期待

エネルギー価格が高止まりする中、太陽エネルギーと住居の断熱化でその半分を置き換えることができれば、家計には大きなプラスだ。もちろん一定の費用は掛かるが、断熱リフォームには国や自治体の補助があるので、それを利用すれば負担を抑えられる。

一方、かつては多くの自治体が実施していた太陽熱温水器への補助はその多くが廃止され、太陽光発電への補助に変更されてしまったようだ。もちろんそれも選択肢になるが、前述のように太陽の熱をそのまま利用する温水器の省エネ性能は無視できない。補助の復活を望む。

大規模太陽光発電(メガソーラー)による山林破壊や、風力発電のブレード(羽)に鳥類が衝突するバードストライクへの懸念から、再エネが必ずしも環境にやさしくないという指摘もある。風力発電をめぐる汚職事件の発覚もあり、ここにきて再エネに逆風が吹いている観がある。しかし、再エネ拡大の流れは変わらないし、家屋の屋根に集熱器を設置する太陽熱温水器なら、山林破壊やバードストライクとは無縁だ。

太陽熱温水器は日本だけでなく、中国や韓国など温帯に属する他のアジア諸国にとっても効率的で安価な太陽エネルギーの利用手段となるだろう。諸外国での利用拡大にも期待したい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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