北朝鮮サッカー、かつての栄光はどこへ…=アジア大会でラフプレー、41年前にも“前科”

長田浩一    2023年10月3日(火) 14時40分

拡大

中国・杭州で開かれているアジア大会の男子サッカー準々決勝・日本対北朝鮮戦(2-1)で、北朝鮮チームがラフプレーを連発するとともに、主審や日本チームスタッフを威嚇する行為があった。

(1 / 2 枚)

中国・杭州で開かれているアジア大会の男子サッカー準々決勝・日本対北朝鮮戦(2-1)で、北朝鮮チームがラフプレーを連発するとともに、主審や日本チームスタッフを威嚇する行為があった。トラブルの映像はSNSなどで世界中に拡散され、波紋を広げている。実は北朝鮮のサッカーチームは、1982年のアジア大会でも審判への暴行を働いた”前科”がある。1966年のワールドカップ(W杯)で大活躍したという栄光の歴史も持つ同国のサッカーは、どこへ向かうのか…。

その他の写真

日本チームスタッフ、主審を威嚇

この試合では、若手中心の日本に対し、北朝鮮にはラフプレーが目立ち、後方からの危険なタックルなどで合計6枚のイエローカードが出された(日本には2枚)。これだけならまだしも、負傷者に対応するためピッチに入った日本チームのスタッフから水のボトルを受け取った北朝鮮の選手が、拳を振り上げて殴るような態度を見せたのには唖然とさせられた。主審の目の前での出来事だったので即座にイエローカードが出されたが、この選手は謝るそぶりも見せずぶぜんとした表情で水を飲み、その挙句ボトルをピッチ内に捨てていた。長年サッカーを見てきた私だが、このような場面は記憶にない。

試合終了直後には、北朝鮮の選手たちが殴り掛からんばかりの勢いで主審に詰め寄るシーンも。決勝点となったPKの判定に不満があり、それへの抗議と見られる。北朝鮮または中国の関係者が押しとどめたため、主審が暴力を振るわれる事態は避けられたようだが、決してあってはならない行為だった。

もう一つ気になったのが、ラフプレーで日本の選手を倒した場合でも、相手をいたわるようなそぶりを全く見せなかったこと。これは日本が相手だからなのか、国際試合のマナーを知らないのか、それとも普段からの習慣なのか分からないが、残念としか言いようがない。


82年には暴行事件で出場停止処分

私のようなオールドファンにとっては、今回の騒ぎは既視感を伴う出来事だ。1982年にインドで開かれたアジア大会の準決勝でクウェートと対戦した北朝鮮は、延長の末2-3で敗れた。しかしタイムアップ直後、判定に不満を募らせた北朝鮮の選手たち(確かチームスタッフも)が審判を取り囲み、暴行を加えるという事件があったのだ。この事件は当時大きな問題となり、北朝鮮は2年間の国際試合出場停止の処分を受けたと記憶する。

41年後に再びアジア大会で起きた不祥事。勝利への強い執着心は一概に否定されるべきものではないが、主審や相手チームスタッフへの威嚇は絶対に許されない。「北朝鮮は負けて帰ったら国内でひどい目にあわされるので、どの国より勝負にこだわる」という見方は都市伝説の類だと思うが、北朝鮮のサッカー界には再発防止を強く望みたい。

66年W杯、8強進出で称賛の的

北朝鮮サッカーについてネガティブなことを書き連ねてきたが、一方で栄光の歴史を持っている事実も忘れてはならない。私など、同国のサッカーに羨望の念を抱いた時期もあったほどだ。

1966年にサッカーの母国イングランドで開催されたW杯に、北朝鮮はアジア・アフリカからただ1カ国参加した(当時は全部で16カ国が参加)。北朝鮮は、グループリーグ初戦でソ連に敗れたが、次の試合ではチリと引き分け。そしてグループ最終戦で強豪イタリアを1-0で破り、ベスト8に進出したのだ。ちなみにイタリア選手団が帰国した際、空港でトマトを投げつけられたという逸話が残っている。

準々決勝では、この大会の得点王となったエウゼビオ擁するポルトガルに対し素早い攻撃を仕掛け、前半半ばまでに3-0とリード。しかしその後は実力に勝る相手の猛反撃にあい、結局3-5で敗れた。しかし、参加国中最弱と見られていたチームが見事にベスト8に進出し、当時全盛期のポルトガルを慌てさせたプレーぶりは称賛の的になった。

日本との関係では、1974年に事実上の代表チームであるピョンヤン4.25というチームが来日。国立競技場で日本代表と対戦し、4-0で圧勝した。私はこの試合をスタンド観戦したが、試合でも応援でも圧倒され(約4万人の観衆の8割方は在日朝鮮人だった)、情けない思いをしたことを記憶している。

ただ、80年代に入るとかつての威光は薄れ、90年代からは日本との対戦成績でも劣勢に。2010年のW杯にはアジア予選を勝ち抜いて44年ぶりに出場したが、ポルトガルに0-7で敗れるなど3戦全敗に終わった。

来年3月、ピョンヤンで日朝戦?

ところで、日本代表はW杯北中米大会(2026年に米国、カナダ、メキシコが共同開催)の予選で、北朝鮮と対戦することが決まっている。来年3月21日にホームで、5日後にアウェーで試合する予定だ。北朝鮮でのゲームとなると、グラウンド内外で様々な困難が予想されるため、日本としてはできれば中国など中立地で対戦したいところだ。ただ、コロナで外国人の入国を原則禁止していた北朝鮮が、ここにきて規制を緩和し始めたことから、ピョンヤン開催となる可能性がある。

日朝関係が緊張を続ける中での対戦であり、今回のアジア大会の騒動が北朝鮮側にとって新たな遺恨となるかもしれない。もしピョンヤンで試合が行われることになれば、日本チームには大きなトラブルなく帰国してほしいと願うばかりだ。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携