中国が自動運転用チップの国産化に注力、エヌビディアの独走を止められるか

高野悠介    2023年8月22日(火) 6時0分

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中国には自動車用チップの関連企業が約100社ある。写真は黒芝麻智能の自動運転用チップ「A1000Pro」。

中国は2015年に発表した「中国製造2025」計画に基づき、自動車産業の低炭素化、情報化、智能(インテリジェント)化を目標に掲げた。多額の補助金を新エネルギー車(EV車、燃料電池車、PHEV)に注ぎ込んで普及を図り、思いのほか順調に進んだ。今後の重点は情報化、智能化、つまり自動運転化へ移る。中国メディアの報道からその現状を見ていこう。

■EV車の成功、自動車輸出が世界一に

中国の2023年上半期の新エネルギー車販売は前年同期比44.1%増の374万7000台で、うち輸出は同160%増の53万4000台だった。この結果、中国は日本を抜き、世界最大の自動車輸出国となった。これは新エネルギー車政策の成功証明でもある。経済指標が冴えない中、中国メディアはこの“戦果”に沸き立っている。

次の課題の自動運転はL2+αの段階にとどまっている。テスライーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は毎年のように「来年には実現する」と繰り返し、オオカミ少年になってしまった。また、BYD創業者の王伝福(ワン・チュワンフー)氏は、「自動運転はナンセンス」とこきおろす発言をした。その一方、この2トップ以外のメーカーは余計な発言をせず、独自技術を研究開発してきた。新興EV車メーカーはすべて自動運転の商業化を見据えて事業を開始したといってよい。成功の見返りは大きいとみているからだ。

半導体自給率の目標達せず

中国メディア、テンセント・ニュースは自動運転用チップの自給率に関する記事を掲載した。自動運転の実現にはセンサーや高精度マップなどさまざまな技術的課題があるが、半導体の自給こそ重要だとしている。

2015年発表の「中国製造2025」では、半導体自給率の目標を2020年に49%、2030年に75%としていた。しかし米調査会社ICインサイツによると、2021年の時点で16.7%にすぎない。

自動運転用SoC(システム・オン・チップ)の自給率はさらに低く、10%にも満たない。海外製、それもただ1社、エヌビディアに大きく依存している。同社の2022年の中国市場シェアは81.6%に達する。2位は北京地平線機器人技術研発(6.7%)、3位は黒芝麻智能科技(5.2%)で、4位以下は1%以下にすぎない。記事はこの圧倒的な差に追い付くためには中央計算アーキテクチャに注力すべきだと指摘している。

■自動運転用チップのシステム融合でビジネスチャンス

中央計算アーキテクチャとは、駐車、智能制御、コックピット、ドライバーの状態など複数システムの情報を1つのSoCに融合させるものだ。2025年に実現するとみられ、自動運転用チップの根本変革になるという。現在はテスラだけがこの中央計算アーキテクチャと地図データの実装を完了している。中国の小鵬汽車と理想汽車も実装しつつある。これらは異なるチップを組み合わせるため、大きなビジネスチャンスを秘めている。

中国汽車芯片産業創新戦略聯盟によると、中国には自動車用チップの関連企業が約100社ある。うち50社が上場企業で、実装レベルの製品を量産できると主張している。アナリストは中国には巨大な「自動車チップ軍団」が形成されたと指摘している。

■黒芝麻智能にIT大手も出資

新しい動きも盛んになっている。その1つはシェア3位の黒芝麻智能の上場だ。

黒芝麻智能は2016年に武漢で設立され、香港、マカオ、台湾資本でスタートした。2018年にボッシュと提携。2019年に上海汽車が出資、第一汽車と提携。2020年にL2自動運転用チップA1000シリーズが販売開始。2021年にテンセント(騰訊)、東風汽車、シャオミ(小米)が出資。2022年に吉利汽車がA1000のSoCを採用。A1000は2022年までに2万5000セットを出荷した。2023年に百度と提携し、SoCの共同開発を発表。第一汽車の国産高級車「紅旗」に採用される。

順調に事業を拡大してきたが、今回の上場でさらに巨額の開発資金を得た。自社量産チップによるソリューションを提供していく。

■エヌビディアが小鵬汽車から引き抜き

一方、逆の動きもある。小鵬汽車の自動運転の担当副社長、呉新宙(ウー・シンジョウ)氏が退社した。同氏は1993年に清華大学電子系に入学後、米国留学し、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)で修士号と博士号を取得した。その後、クアルコムで自動運転開発を担当し、2019年に小鵬汽車に入社した。クアルコムなどから人材を集め、小鵬の自動運転開発チームを主導し、駐車メモリー機能や高速道路での自動運転支援システム「NGP」を発表、北京から広州までの長距離テストを行った。さらに都市型の「XNGP」を発表し、中国で業界をリードする存在となった。

その中心人物が絶好調の半導体巨頭エヌビディアに、しかもグローバル副社長ポストに迎えられるというのだ。小鵬汽車にとっては当面痛手だろうが、独走するエヌビディアとの関係強化になり、これは悪いことではなさそうだ。

■量から質への転換を

中国の「自動車チップ軍団」は自動運転チップの分野で多くのポジションを占めているが、それらは量においてであり、質を伴っていない。エヌビディア、クアルコム、テスラと競争するレベルにはないと記事は冷静に認めている。しかし、システム融合はチャンスとみて、黒芝麻智能の上場など、業界では大規模投資が続いている。それに最先端のロジック半導体でTSMCを追いかけるより、自動車に注力した方がより現実的だ。中国企業の強みは、ジャッジが速く、どんどん実装していくパワーにある。この突破力は局面を一新させる可能性を秘めている。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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