とりわけ人気が高い顔真卿の書の魅力とは―専門家が日本との関わり含めて紹介

中国新聞社    2023年6月25日(日) 22時30分

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長い歴史を通じて「書の大家」を多く輩出した中国でも、顔真卿の作品はとりわけ多くの人を魅了してきた。なぜなのだろう。写真は顔真卿が残した「西亭記残碑」。

顔真卿(709-85年)は中国の書の歴史を代表する人物の一人だ。東京国立博物館が2019年に開催した特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」も大きな話題になった。顔真卿の書はなぜ、多くの人を魅了してきたのか。瀋陽師範大学書道教育研究所の楊宝林元所長はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて顔真卿の書の特徴を説明した。以下は楊所長の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

書き手の高潔な人格を感じさせる顔真卿の書

顔真卿は唐代の有名な書家だ。楷書の筆画は肥沃で、造形は飾り気がなく、豊かさと雄渾さを備えている。書家としても名をなした文人の蘇軾(1036-1101年)や朱長文(1039-98年)も顔真卿の書を絶賛している。歴史を通じて顔真卿に匹敵するのは「二王」と呼ばれる王羲之(303-61年)と王献之(344-86年)の父子ぐらいとも言われるほどだ。

中国の歴史上、書の流派の開祖になったと言えるのは王羲之と顔真卿の二人だけだ。王羲之を孔子に例えるならば、顔真卿は孟子に相当する存在と言える。顔真卿に欧陽詢(557-641年)、柳公権(778-865年)、趙孟頫(1254-1322年)を加えて「楷書四大家」と称するが、顔真卿は行書も実にすばらしく、例えば「祭侄文稿」は極めて高く評価されている。

顔真卿は儒教文化を体現した人物であり、その楷書は規範や秩序を重視している。一方で、個性を強調することない楷書は「老子」の「大巧若拙」、すなわち「極めて巧みなものは、少し見ただけでは稚拙に思える」の境地でもある。行書の「祭侄文稿」や「争座位帖」は極めて素直で無邪気であり、道教が尊ぶ「自然」を思わせる。

古人が書を論じる際には「人柄」をきわめて重視した。歴史的な書家の中で、顔真卿は書の品格を通じて書き手の人格のすばらしさを感じさせる典型だ。顔真卿は公明正大な人生を貫いた。剛直でもあり、最期は国のために命を捧げた。

日本に顔真卿の書を紹介したのは空海

顔真卿の書が中国国外に与えた影響は唐代にまでさかのぼる。日本人の中でも最初に顔真卿の書を学び伝えたのは空海(774-835年)だ。空海は804年に遣唐使の一員として唐に渡り、仏法を学んだ。空海は中国の書に興味を持ち、特に顔真卿の書を好んだ。空海は日本を代表する書家の一人ともされるようになったが、その「灌頂歴名」には顔真卿の影響が明らかに見て取れる。

朝鮮半島出身者で顔真卿の書道を最初に学んだのは新羅の崔致遠だ。崔致遠は868年に留学生として唐に派遣され、帰国後には書を含めて中国文化を広めた。

日本では2019年開催された特別展の「顔真卿 王羲之を超えた名筆」が話題を呼んだ。漢文化圏の日本と韓国では顔真卿の書が好まれてきた。その人気が衰えない主な理由は、一つは顔真卿の書が日本と韓国で「書の規範」になり、顔真卿の書を学ぶ伝統が形成されたからだ。日本では井上有一(1916-85年)のように、近現代になっても顔真卿を心から崇拝した書家がいる。二つ目は顔真卿の人間的魅力だ。顔真卿は唐の忠臣であり、多くの人に尊敬された。

顔真卿の「西亭記残碑」

中国国外ではこのところ、顔真卿の書の人気が大いに高まった。このことは中国の書そのものに対する注目の度合いが高まったことを示す。中国の国力が強まるにつれ海外で中国語を学ぶ人が増え、書道を学ぶ人も増えている。

書は中国のものであり、世界のものでもある

もちろん、アジアの漢字文化圏は、長い歴史を通じて中国から伝わった書が重視されてきた。日本では書道を学ぶ人が多く、全国規模の品評会も行われている。また、小学校から大学に至るまで書道の授業があり。書道を専攻する大学の学科もある。韓国では小中学校で書道の授業が行われており、書を好む人はやはり多い。私は発展途上国を対象とした教員養成コースで、中国の書を教えている。生徒はインドネシアとマレーシアから来た高校の教師だ。彼らは皆、中国の書が大好きになった。

中国の書道が西洋に伝わったのは比較的遅かった。英国やフランスに「書の文化」を持ち込んだのは中国人留学生で、20世紀初頭のことだった。ただし、西洋にも中国の書に特化したコレクターが出現して、1971年には米国のフィラデルフィアで中国書展が開催された。その後、欧米では中国の書がさらに認められるようになり、多くの大学が書を学ぶ授業を開設した。欧州のかつての印象画派は中国の書の要素を参考にしていたが、西洋芸術は将来、中国の書からより多くのインスピレーションを得ることになるかもしれない。

書は中国文化の重要な構成部分であり、世界が中国文化を理解する窓口の一つだ。中国の書に触れたことがきっかけで、中国語を学び始める外国人もいる。

書は中国のものであり、世界のものでもある。書は視覚芸術だ。「美しい線で心を表現する」ことが好きなのは中国人だけではない。素晴らしい書の作品は、世界の人々の審美基準に合致する。

近年では、中国の書の研究に力を入れる外国人研究者も増えている。多くの学術著作が出版されており、中国の書は世界が注目する研究分野の一つになった。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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