中国市場の落ち込みを世界戦略でカバーする現代自動車とGM、日本メーカーはどうする?

高野悠介    2023年6月28日(水) 8時0分

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中国市場でシェアを落としながら世界では健闘しているメーカーもあれば、見切りをつけて撤退するメーカーもある。日本メーカーはどうすべきだろうか。写真は現代自動車のラフェスタEV。

中国の自動車輸出量は2023年第1四半期に初めて日本を上回り世界一となった。この成果に中国自動車業界は沸き立っている。その一方、海外メーカーは中国市場の扱いに苦闘しでいる。テスラBYDを中心とした新エネルギー車攻勢により、販売競争は多層化、複雑化し、海外ブランドの力は希薄化した。しかし、中国市場でシェアを落としながら世界では健闘しているメーカーもあれば、見切りをつけて撤退するメーカーもある。日本メーカーはどうすべきだろうか。

■中国市場とJOEM…スケール感は等しい

自動車調査会社JATO Dynamicsによると、2022年の世界の新車販売台数は2%減の7940万台だった。2023年は半導体不足やコロナの影響で積みあがったバックオーダー(受注残)が解消され、前年を上回ると予想されている。

ドイツ自動車工業会(VDA)による2023年の3大市場販売予想は、欧州1180万台(5%増)、米国1430万台(4%増)、中国2370万台(3%増)となっている。

米格付け会社S&Pグローバルによる世界全体予想は5.6%増の8360万台だ。調査機関によって若干異なるが、中国市場はおおよそ世界の28%を占める。

また、モーターファンジャパンは2022年の世界の生産台数を8500万台と見積もり、日本の自動車メーカー(JOEM)は2380万6000台で、世界シェアは28.1%だとしている。中国市場の規模とJOEMのスケール感はほぼ重なる。

しかし昨年、JOEMは中国市場の売り上げ409万2000台、10.3%減と数字を落とす。さらに今年第1四半期は32%減で、マツダ66.1%減、三菱58%減、日産45.8%減、ホンダ38.2%減、トヨタレクサス14.5%減と全滅だ。通年でもシェアを落とすのは間違いなさそうだ。

■現代、GM…中国市場減を他市場でカバー

中国市場のJOEMは409万2000台で、昨年の日本市場規模438万5650台とやはり同じスケール感だ。

しかし、中国市場のシェアを落としながらも世界シェアを上昇させ、利益率も上げている企業がある。その1つ、現代自動車(起亜含む)の2023年第1四半期の中国での販売台数は前年同期比30%減の8万台で、市場シェアは1.5%にも満たない。これは世界シェア7.3%を大きく下回る。もうあってもなくてもいい水準だ。しかし世界全体では前年同期比12%増の135万7900万台で、利益率はトヨタを上回った。

もう1つはゼネラルモーターズ(GM)だ。第1四半期の中国での販売台数は前年同期比24.6%減の46万台だったが、世界全体では同11%増の86万4000台だった。利益率は9.5%を記録した。

■ステランティスと三菱…撤退、休業

一方で撤退、休業する企業もある。スズキは2018年9月に日中合弁の重慶長安鈴木汽車の持ち株を合弁相手の長安汽車に譲渡した。長安汽車は引き続きSUZUKIモデルをライセンス生産する。撤退の理由は、中国市場が大型車指向へ変化したこと、インド市場に集中することとされた。

ステランティスと広汽集団は2022年12月に合弁会社の広汽韮克を終了し、破産手続きを行った。人気車種のジープを生産し、ピークの2017年には20万2700台を販売した。それが2019年は7万3900台、2020年は4万500台と落ち込み、2021年には2万100台とかつての10分の1に減少した。MPV、SUVタイプの新車ラッシュの中でジープの魅力が埋没していった。

また、同じく広汽集団との合弁会社、広汽三菱は3月8日から5月まで休業したが、それを6月まで延長すると発表した。アウトランダー、RVR、エクリプスクロスの3車種で、最盛期の2018年には14万4000台を販売した。それが2020年は7万5000台、2021年は6万6000台と落ち込み、2022年には3万3000台と、ジープと同じような推移をたどっている。3車種ともモデル末期で、新車ラッシュへ対抗する魅力を欠いていた。

第1四半期に最も落ち込んだマツダは広島本社にあった中国戦略部門を上海に移し、パートナーの長安汽車との連携を強化するという諦めない姿勢を示したが、三菱はどうするのだろうか。

■合弁時代の終わり…新エネルギー車時代の始まり

中国メディアは、海外合弁企業のブランドは横になっているだけで金もうけできる時代が終わり、中国市場で稼ぐのは容易ではなくなったと指摘する。これは外資合弁の受け手として広州財界ぐるみで設立された広州汽車にも当てはまる。

この新たな状況をもたらしたのは新エネルギー車政策だ。完成車メーカー、電池メーカー、ユーザーのそれぞれに補助金を配りまくり、自動車業界のシフトチェンジを促した。2022年にそれが大きく実を結び、新エネルギー車の販売台数は93.4%増の688万7000台を記録した。そのうち79.9%の550万台がBYDを筆頭とする中国ブランドだ。この分がストレートに海外ブランドの従来型燃料車を圧迫した。

■中国市場…当面スルー

伝統的な巨大海外メーカーは、世界戦略に基づき、販売レイアウトの変更が可能だ。実際に、現代自動車とGM、それにスズキも、中国市場での停滞を他市場でカバーしている。

各社ともそれに追随するのがよさそうだ。中国市場ではブランド価値を毀損するようなことはせず、売り上げと利益は当面、他市場でカバーする。やがて中国市場にない洗練された新エネルギー車を作り、順次投入すればよい。

トヨタは2027年に急速充電、長航続距離の全固体電池車を投入すると発表した。ゲームチェンジまでにはしばらく時間はかかりそうだが、対応は可能だろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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