<日韓関係>半世紀前の「無関心」から様変わり=文化・人的交流が追い風に

長田浩一    2023年6月15日(木) 6時0分

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約10年間にわたり凍り付いていた政府レベルの日韓関係は、首脳同士のシャトル外交が再開されるなど、今年に入って大きく改善に向かっている。写真は韓国の屋台。

約10年間にわたり凍り付いていた政府レベルの日韓関係は、首脳同士のシャトル外交が再開されるなど、今年に入って大きく改善に向かっている。両国にはそれぞれ反発する向きもあるが、北朝鮮への対応など政治的な要請に加え、ここ数十年で大幅に拡大・深化した民間レベルでの文化・人的交流が追い風となりそうだ。

「韓国に興味を持つ日本人は初めて」

先日、学生時代に手帳代わりに使用していたノートを整理していて、奇妙な書き込みを見つけた。私とは異なる筆跡で、漢字で書かれた何人かの韓国人の名前と、その発音を表すアルファベット、東京・小金井市のアドレス。そして私には分からないハングル文字。これはいったい何だったのだろうとしばらく記憶の糸を手繰っているうちに、半世紀近く前の1979年1月または2月、当時通っていた大学の喫茶室で、1人の韓国人留学生と話し合った際に書いてもらったものであり、アドレスは彼の下宿先であることがよみがえってきた。

書き込みによると、留学生の名前は李さん。流ちょうな日本語を話す彼と、最初は当たり障りのない世間話をしていたと思う。ところが、サッカーファンの私が、何人かの韓国代表チームの選手の名前を挙げてそのプレーぶりを称賛したところ、彼が突然目を輝かし、「こんなに韓国のことに興味を持ってくれる日本人と会ったのは初めてだ」と語ったのには驚かされた。

1993年のJリーグ発足後は日韓のサッカー代表チームの戦いはほぼ互角だが、70年代は韓国が圧倒的に優勢。私たち日本のファンにとって韓国は憎らしい敵であるとともに、リスペクトの対象でもあった。この時、私が車範根や李栄武といった当時のスター選手の名前を韓国語読みで口にしたところ(この頃、日本では「金大中=きん・だいちゅう」というように、韓国人の名前を日本語読みするのが一般的だった)、彼の表情が一変。それをきっかけに、サッカーに限らず両国の文化や食べ物など、様々なテーマについて話が弾んだと記憶する。

70年代、ネガティブイメージが横溢

それにしても、彼はなぜ「こんなに韓国に興味を持つ日本人は初めて」と言ったのだろうか。推測だが、来日以来、彼は当時の日本人が母国についてほとんど無関心であることに苦々しい思いを抱いていたのではないか。そうしたときに、サッカーという限られたジャンルながら、韓国に興味を持つ学生と出会ったことで思わずオーバーに反応してしまったのではないだろうか。

この時代、韓国から伝えられるニュースは暗く、深刻なものばかり。72年に朴正熙大統領が戒厳令を施行して独裁体制を強化。73年には、東京のホテルに滞在していた野党の大物政治家を韓国中央情報部(KCIA)が拉致してソウルに連れ帰るという「金大中事件」が発生。74年にはソウルで朴大統領が銃撃され、本人は無事だったものの夫人が死亡。犯人が在日韓国人だったことなどから、金大中事件で悪化していた日韓関係は一段と冷え込んだ。そして79年には、ついに朴大統領が側近に暗殺された。文化交流がないに等しかった中、このようにネガティブイメージが強かったため、多くの日本人にとって韓国は積極的にかかわりたい国ではなかった。

ただ、一部の日本人男性にとって韓国は人気の旅行先だった。70年代は女性による接待目当ての訪韓(いわゆるキーセン観光)の全盛期。韓国紙「中央日報」によると、韓国を訪れる日本人観光客数は71年の10万人弱から79年には65万人余りに増え、その85%以上が男性。韓国政府も外貨獲得手段としてキーセン観光を奨励していたという。性の商品化の典型例で、当時でも眉をしかめる人は少なくなかったが、今だったら日韓両国は世界中からひんしゅくを買っていただろう。

ひと月で47万人が来日

あれからほぼ半世紀。両国間の交流は、韓国による日本の大衆文化の解禁(1998年)、サッカーワールドカップ(W杯)の共同開催(2002年)などを経て、大幅に拡大・深化した。日本では昨年10月の個人旅行再開後、外国人観光客が急増しているが、その中でもトップは韓国人(4月の訪日外国人195万人のうち、47万人で最多)だし、今年に入り日本のアニメ映画2本が韓国で大ヒット。一方で、日本での韓流ドラマやK-POPの人気は相変わらず高いし、韓国グルメの店には行列ができる。民間レベルでの人的交流や相互理解は、70年代とは比較にならないほど進んだと言えるだろう。

4月の訪日韓国人47万人は年率換算では564万人(韓国の総人口5163万人の1割強)となるが、コロナ禍前の2018年には753万人が来日しており、これでも回復途上と言える。これまで来日した韓国人の中には悪い印象を抱いて帰国した人もいたかもしれない。しかし、失望した人が多ければ、口コミで日本旅行の人気は下がっているはずなので、全体としてはプラスの印象を持って帰った人が多いはずだ。このことは、韓国社会における日本(人)への見方に無視できない影響を与えているのではないだろうか。

日本人訪韓者数はそこまで回復していないが、もはや韓国旅行にかつてのようなマイナスイメージはない。そして韓流ドラマやK-POP人気などを背景に、韓国に親しみを持つ日本人は半世紀前とは比較にならない。

最近の政府レベルでの関係改善は、直接的には、昨年就任した尹錫悦大統領の外交姿勢によるところが大きい。ただ、民間レベルでの文化・人的交流は既に大きく先に進んでおり、それが同大統領の背中を押した側面もあったと考える。

問題発生時にクッションの役割?

とはいえ、日韓関係がこれからも順調に進むと考えるのは楽天的すぎる。歴史問題への日本の対応に不満を持つ韓国人は依然として多いし、それに反発する日本人も少なくない。歴史問題を別にしても、隣り合う二国間には何かとトラブルが起きやすいものだ。今後も政府レベルの関係に緊張が走ることは十分考えられる。

ただ、半世紀前と違うのは、民間レベルの文化・人的交流と相互理解が大きく進んでいることだ。これは、両国間に何らかの問題が発生した場合、世論の一層の悪化を食い止めるクッションの役割を果たすのではないだろうか。

それにしても、始めに紹介した李さんはどうしているのだろうか。今にして思えば、あの時の会話は、ささやかな人的交流の一例だったと言えるかもしれない。もし再会が叶うならば、この半世紀の日韓関係の歩みについて語り合いたいと思う今日この頃だ。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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