レクサス神話崩壊か?EV化する中国の高級車市場、テスラや蔚来の台頭で混戦へ

高野悠介    2023年4月26日(水) 7時30分

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中国の高級車市場が変化している。EV車が急速に普及する中、新たな市場構造が構築されつつある。写真はテスラ。

中国の高級車市場が変化している。高級車といえば、紅旗、BBA(ベンツ、BMW、アウディ)、レクサスだった。しかし、EV車が急速に普及する中、新たな市場構造が構築されつつある。テスラや新勢力の理想汽車、蔚来汽車がシェアを上げる一方、レクサスの凋落が目立つという。高級車市場の今後を展望してみよう。

■紅旗からBBA、レクサスへ

国産高級車の代表は「紅旗」だ。毛沢東時代からの老舗の第一汽車(以下、一汽)の看板商品として1958年に登場し、国家の重要行事に活躍した。解説には「中国人にとって深い情感と神聖な記憶を呼び起こす車」とある。1960~70年代のシンボル車だった。しかし、外国人の目には、とても洗練された高級車には映らなかった。その後、外資のノウハウを学んだ一汽は2018年にブランド戦略を転換し、新設計の高級車を次々と発表した。現在では輸出にも注力し、2021年12月には大阪に販売店を開設、今春には東京にもオープンする。日本在住の中国人富裕層が購入しているという。

改革開放政策の発動から6年後の1984年、フォルクスワーゲン合弁の「上汽大衆」が誕生した。同社は初の外資合弁のアドバンテージを生かし、大成功を収める。街中にフォルクスワーゲン・サンタナが溢れかえった。BBAも続いていく。

BMWは1994年に北京事務所を開設し、2003年には合弁企業「華晨宝馬汽車」を設立した。4億5000万ユーロを投じて瀋陽に年産3万台の工場を建設し、現地生産を開始した。

ベンツは2001年にダイムラー大中華区投資有限公司を設立。2005年に「北京汽車」と合弁企業「北京奔地汽車」を立ち上げ、北京経済技術開発区に年産10万台の工場を設立した。

アウディは1987年に一汽と提携した。高級車生産の革新を目指す一汽と利害が一致した。そして1988年からAudi100のライセンス生産を始める。1995年にアウディの親会社フォルクスワーゲンと一汽の合弁会社「一汽大衆」の株主構成を、一汽60%、フォルクスワーゲン30%、アウディ10%に改め、正式なアウディ車の生産を始めた。

■レクサス…2022年に初のマイナス成長

レクサスは1990年代から中国に輸入されていたが、これは代理業者による非公式ルートだった。正式進出は2005年で、北京、上海広州深センに販売店を設立し、GS300とGS430を発売した。現在は50都市に66社のディ-ラー網と4つのショールームがある。トヨタもフォルクスワーゲン同様、一汽との合弁企業「一汽豊田」を持つ。しかし、アウディとは異なり、レクサスは日本生産車の輸入を維持した。

レクサス中国は進出以来17年、毎年プラス成長を続けたが、2022年に初めてマイナスに沈んだ。中国での販売台数は22%減の17万6071台だった。日本では19%減の4万1253台。世界全体では18%減の62万5365台だった。中国市場だけが悪いわけではない。

■値上げ王レクサス…EV新勢力に敗退

ところが、中国メディア・訊網騰は「傲慢なレクサス、蔚来や理想にリードされ、これまでの代償を支払わされる」という記事を掲載した。過激な見出しだが、内容は以下の通り。

高級車市場は紅旗、BBA、レクサスに支えられていたが、EV車時代を迎え、新ブランドが台頭した。テスラと高級EV車専門の蔚来汽車、理想汽車だ。

レクサスは2005年の本格展開以来、中国では「値上げ王」だった。数万元、数十万元、ものによっては100万元近く値上げをしてきた。優越的地位を利用し、本体価格以外のサービス料、部品代も値上げした。2019年には、再販価格の拘束など、独占禁止法違反で8761万元(約15億1540万円)の罰金を科せられた。さらに、米国との価格差も問題となっている。レクサスES300hは37万9900元(約744万円)からだが、米国では28万3000元(約554万円)と中国人に高値を強いた。それでもレクサスは成長を続け、2021年には年間販売台数が22万7000台に達し、ピークを迎えた。しかし、2022年は大幅減となり、2023年に入っても苦戦が続いている。2023年2月の高級車ブランド、自動車保険契約数の資料によると、

1位 ベンツ 5万7397台 42.3%増

2位 BMW 5万5323台 41.8%増

3位 アウディ 4万0221台 1.8%増

4位 テスラ 3万4064台 40.9%増

5位 紅旗 1万7112台 19.6%増

6位 理想汽車 1万7003台 109.3%増

7位 蔚来汽車 1万1904台 109.9%増

8位 ボルボ 1万0852台 37.8%増

9位 レクサス 1万0154台 21.5%減

10位 キャデラック 8832台 7.9%減

となっていて、マイナスはレクサスとキャデラックだけだ。新興の理想と蔚来にも抜かれた。これらの結果は、上に挙げた「悪行の代償」だったというのだ。

■中国生産…EV車を優先

中国メディアは国内生産を行う高級ブランドには友好的で、輸入オンリーのレクサスには辛辣だ。テスラは高級EV車の上海生産で地歩を築き、昨年末からは値下げによるシェア拡大にまい進している。ベンツは2025年以降の新型車はEVのみとし、2030年には完全EV化するという。トヨタはその気になれば一汽豊田でレクサスを生産できるはずだ。しかし、EV車、bZ4X、bZ3Xを優先するようだ。4月の上海モーターショーでは新型bZシリーズ2車種を発表した。これらbZシリーズを起爆剤としつつ、レクサスを国内生産へ移行させるのがよさそうだが、かなり時間がかかりそうだ。正念場が続くのは間違いない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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