中国神話とギリシャ神話はどこが同じでどこが違うのか―従来の「誤解」指摘しつつ紹介

中国新聞社    2023年4月17日(月) 11時30分

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「現実的な中国人は創世神話をあまり残さなかった」などの主張もあるが、大いなる誤解だ。中国では多くの神話が伝えられており、神話の系譜づくりが始まったのも、西洋より極めて早い時期だった。

世界中のさまざまな民族が、それぞれの神話を伝えてきた。「神話は歴史上の事実ではないが、事実が何らかの形で反映されていている場合が多い」とよく言われる。神話はまた、伝えてきた民族の価値感を示し、自らの起原の認識を示すものでもある。西洋を中心に特に有名な神話としてはギリシャ神話がある。中国も古くからの歴史を持つ国だけに、多くの神話が伝えられてきた。上海社会科学院文学所民俗研究室の畢旭玲主任はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、中国神話とギリシャ神話の比較や中国神話の特徴や、これまでの中国神話に対する誤解について説明した。以下は畢主任の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

他民族の神話を知れば、その民族の本質を理解できる

私は著作の「文明起原の構築-中華創生神話の時間の系譜」を執筆する過程で、中国神話の系譜を整理した。中国神話の系譜は、中華の創世神話の全体性と、中華世界の多元的かつ一体的な大構造を具体的に示すものだ。世界各国の人々は、この系譜を通じて、中国文化の思想と精神の根底を理解し、さらに中国人が持つ平和を愛し、粘り強く、犠牲を恐れず、すばらしい生活を求めて努力するという優れた性質が形成された要因と、その思考パターンを理解することができるはずだ。

現代にあって人類運命共同体を構築するには、多方面の協力を展開する必要があり、さらに文化、精神、思考パターンについて深く意思疎通をして、真に相互理解する必要がある。中華民族の哲学と世界観を全体的に示すことができる中華創世神話の系譜は、人類運命共同体を構築する重要な文化的・精神的資源になりうる。

中国神話の系譜づくりはギリシャ神話よりはるかに早かった

これまでは「中華創世神話には系譜がない」、あるいは甚だしい場合には「中国には創世神話がない」といった主張があった。これらは「西洋文明中心論」の影響下で形成された、極めて誤った認識だ。多くの人は今でも、古代ギリシャ神話だけが系譜を持っていると思っている。オリンポス山のゼウスをはじめとする神々の、整理された物語群のことだ。しかし、中国神話については知識が少なすぎる。たまたま知っているのは、嫦娥の月に昇った話や、后羿が太陽を射た話ぐらいのものだ。

実はギリシャ神話の系譜は、かなり後の時代になって整理構築されたものだ。現在知られる古代ギリシャ神話のテキストは、ドイツの詩人のグスタフ・シュワブ(1792-1850年)が広く収集して編纂(へんさん)したものだ。古代ギリシャの時代に、整理された神話の系譜はなかった。

中華創世神話の系譜は古代ギリシャ神話の系譜よりはるかに早く形成された。遅くとも西周時代(紀元前1100年ごろ-同771年)には、中華創世神話の系譜の原型がすでに現れていた。司馬遷の「史記・五帝本紀」は、すでに存在した五帝神話の系譜を改めて整理したものだ。三国時代(220-280年)から西晋時代(256-316年)にかけて生きた江南出身の徐整(生没年不明)は、初の創世神話の専門書である「三五暦紀」を著した。

中華創世神話で極めて重要なのは、中華民族共同体の形成を説いた部分だ。大量の神話は原始社会後期の有名な部族連合の指導者と黄帝の間の親類関係を描写している。例えば炎帝は黄帝の兄弟であり、顓頊(せんぎょく)は黄帝の孫であるなどだ。禹は黄帝から4代目の子孫であり、禹を開祖とする夏、さらには商、周、秦の4王朝の天子はすべて黄帝の子孫とされる。

また、これらの先祖神と中原以外の民族群との親類関係も設定された。例えば北狄と犬戎は黄帝の子孫で、氐は炎帝の子孫だ。さらに匈奴の始祖は夏王の子孫だ。これらの神話は中華の大地に生活する各民族群の族源をすべて黄帝、炎帝に収束させ、いずれも炎黄の子孫であるという族源のアイデンティティーを確立した。

神話は歴史の各時期の事情が反映され変容していった

中国と西洋の創世神話の違いとしては、西洋では神話が長きにわたって韻文の形で伝えられたことがある。例えばホメロスの叙事詩だ。中国の創世神話は散文の形式で残されている。

中国でも早い時期には神話が詩歌の形式、つまり韻文で伝播した。例えば「詩経」に収録された「玄鳥」や「長髪」は神話叙事詩と見なすことができる。ただし、中国では文字の発達が早かったので、これらの叙事詩は、書き言葉として典雅表現で記録されるようになり、ホメロスのような吟遊詩人が覚えやすく聞きやすい韻文で歌い継ぐ必要は、早い時代に消失した。

神話は中国でも西洋でも、伝説と歴史を結び付け、さらにそれを現状に結びつける役割を果たした。中国では神話の伝承時間が長く、歴代にわたって神話には新しい政治、歴史、文化面の機能が追加された。神話の原初のストーリーと内容は、知らず知らずのうちに希釈されたので、後世の人は神話と歴史が混同されていると感じるようになった、しかしこの混然一体となった物語群は、それぞれの時代を生きた人々にとって、神話が語るはるか昔のことがらと、自分らの現状を実感をもって結びつけて認識することを促し、神話の物語が受け継がれていくことを確実にした。

西洋でも、古代ローマが勃興して古代ギリシャの諸都市を併合した後には、「ホメロス叙事詩」と古い伝説の「アエネーイス」の物語を利用して、改めて「アエネーイス」の物語が編まれた。これは、ギリシャがトロイアを滅ぼした際に、アエネーイスという英雄が脱出して、ローマを建設したという物語だ。ローマ人はこの物語により、ギリシャ侵略を正当化した。

ローマは共和制から帝政に移行してますます繁栄したが、紀元395年には西ローマ帝国と東ローマ帝国に分割された。そして西ローマ帝国は476年に、ゲルマン人の侵入により滅びた。ゲルマン人は、自らの先祖はアエネーイスの親族だったとする神話を作り出し、ローマ侵略と西欧の統治を正当化した。

話を中国の神話に戻せば、中華の創世神話は中華民族を世界の他の民族と区別する重要な文化遺産だ。そして、世界各国の民衆に中華文明に対する理解を全体的に深めてもらうための、非常に重要な文化ソフトパワーだ。その鮮明なイメージと生き生きとした情景には時空を超えた価値があり、他国の民衆に受け入れられやすい。

実際に、ここ数年は中国国外で、中国神話の素材を取り上げることが増えている。英国米国の合作ファンタジー映画である「ファンタスティック・ビースト」のシリーズにも、中国の神獣である麒麟(きりん)や帝江が登場した。麒麟は太平の世に現れる瑞獣で、歌や踊りを好む帝江も、やはり瑞獣だ。これらの神獣は中華民族が古くから平和を愛し、生命を大切にし、さらに前向きで楽観的でありつづけた象徴と言える。

ただし現在のところ、中国神話のイメージや物語が海外に伝播する状況は、極めて豊富な神話資源を考えれば、深さも広さも十分ではない。中国神話の「海外進出」には、広大な領域が残されている。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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