わが国も人件費高騰と高齢化が進む、夕張メロンの「精密農業」に学べ!―中国で論説

Record China    2023年4月9日(日) 21時0分

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独立系シンクタンクの安邦智庫の創設者である陳功氏が、中国の農業は今後、人件費の高騰や高齢化に直面するとして、夕張メロン(写真)などで成功した日本の「精密農業」に学ぶべきと主張する論説を発表した。

独立系シンクタンクの安邦智庫(ANBOUND)の創設者であり、情報分析についての執筆や中国の体制改革についての活動を続けている陳功氏はこのほど、中国の農業は今後、人件費の高騰や高齢化に直面するとして、夕張メロンなどで成功した日本の「精密農業」に学ぶべきと主張する論説を発表した。以下は、陳氏の論説の主要部分だ。

求められる「精密農業」は従来型農業と様相がまるで異なる

日本は工業大国であり、日本の農業は生産規模がさらに縮小していくかもしれない。しかし、日本では農業の「再生」が着手され、成功していることには注目する必要がある。日本国外で、日本産の極めて高価な果物が販売されている。例えば、台湾の高級スーパーでは、6000台湾ドル(約2万6000円)の日本産メロンを販売した。台湾では8000台湾ドル(約3万5000円)の日本産スイカが販売されたこともある。

日本の最高級果物は、精密農業のたまものだ。精密農業とは生産量を追求するのではなく、農産品の品質を追求し、高付加価値を確保する農業だ。その他の方式の農業とは生産方式も大きく異なり、生産文化も違う。異なる「魂」を持つ農業と言ってもよい。精密農業を目指すことが、中国の典型的な第一次産業政策になるべきだ。

私は何年も前に、「精密製造」の推進を提唱したことがある。ところがその後、「精密製造」の概念は研究者や役人により「匠の精神」の問題にすり替えられてしまった。精密農業について、同じ轍は踏まないつもりだ。注目すべきは、精密農業とは本来の意味での精密製造と同様に、職人など個人レベルの概念ではなく、行き詰まりがちな産業を改めて発展させるための概念であることだ。

よい例がある。日本の夕張で行われたオークションで、メロン1箱が500万円で落札された。1箱と言ってもメロン2個入りなので、メロン1個に250万円の値がついたことになる。

かつて落ちこぼれ産業だった夕張の農業が地域の救い主に

夕張ではかつて、石炭産業が盛んだった。日本各地から多くの労働者が流入し、都市が形成された。しかし、見るべき農業はなかった。土壌には大量の火山灰が含まれ、農業には不利だった。地元の農業協同組合は夕張に適した作物を模索した。1950年になり、ある研究者が、地元の多くの農家が、主要な農作物とは別にメロンを栽培していることに注目した。

当時の夕張のメロンは甘味が少なかった。果肉の色も、当時の日本のメロンで一般的な黄緑色ではなくてオレンジ色だった。だから、地元の農家は、そんな品質の悪いメロンは「恥ずかしくて市場には出せない」と考えて、自家消費用に栽培していた。しかし研究者は、夕張のメロンには独特の香りがあることに気付き、甘味を増すことができれば特産品になる可能性があると考えた。

夕張では1959年に、農家17世帯が「メロンの会」を結成して、メロンの品種改良に取り組んだ。日本各地の種苗市場に行って買い付けも行った。種苗には競争の問題があるため、夕張の農家は大変な苦労したが、なんとか夕張に適した品種を作り出すことに成功した。

特産として成功するには、日本一の大都会である東京の市場を開拓することが不可欠だ。しかし夕張は遠い。最初はトラックによる輸送を試みたが、東京近くまで南下すると気温が高いので、メロンの甘さや香りが変化した。列車に積んで氷で保冷しながら輸送する方法も試した。氷は途中で融けた。水に浸ったメロンは見栄えが悪かった。売れたものではなかった。

結局は空輸という選択肢だけ残った。輸送費は陸送の何倍もかかる。夕張の農家にとっては、大きな挑戦だった。しかし、なんとしても東京の人に夕張メロンを受け入れてもらおうと考えた。

この賭けは裏目に出た。東京の人は、夕張メロンの果肉の色を見て「カボチャ」と呼んだ。夕張の農民はあきらめなかった。甘さ不足、重量不足、見た目が悪いメロンは絶対に出荷しないなどの、厳格な品質管理を徹底した。夕張農協は野球のチームや大手百貨店と提携するなど、夕張メロンの認知度を高めるためにさまざまな工夫をした。

1980年ごろになると、夕張メロンはついに、北海道の特産品として広く認知されるに至った。夕張では石炭産業が没落し、地元の財政が行き詰まった。そんなときに、メロンが夕張の命綱になった。

中国には日本と「共通点があるが全く同じではない精密農業」が必要

夕張の事例で分かるように、精密農業では農家の努力による高品質の農産品に加えて、組織的なマーケティングと戦略が非常に重要だ。日本では夕張以外にも、青森のリンゴ、山形のさくらんぼなどの高付加価値の果物が出現した。日本の農林水産省による2022年リポートは、日本における果物の生産量は第二次世界大戦後に大幅に増加したが、1979年にはピークに達してその後は減少したと紹介した。しかし日本の果物の輸出貿易額は急増しつづけている。日本の果物は、新時代の日本のものづくりの象徴にもなった。

日本は精密農業の分野で、しっかりとした組織を活用して、出荷品の厳格な等級管理を行っている。夕張メロンの場合には、価格を1個4000円から1万円までの4段階に分けており、地元の農業組合が厳しくチェックしている。他のブランドのメロンと比べて極めて高価だが、価格の違いを納得できるメロンを出荷している。

私は、「精密農業」の実現が容易でないことは分かっている。日本と中国では条件が違うことも承知している。例えば夕張では農協がメロンの生産量を抑えている。価格の安定を維持するためで、夕張メロンをギフトやぜいたく品として位置づけようとの考えだ。土地の少ない日本では、このような戦略が現実的だが、日本以外では別の努力が必要だ。

中国では生産コストが上昇しつづけており、生産者の高齢化も進行している。一方で、中国には巨大な消費市場があり、購買力は強まりつつある。つまり日本と中国は、精密農業を取り巻く環境の「一部」だけが合致していると考えられる。

だから中国は、自らの精密農業の発展の道を選ばなければならない。中国の政策部門は資本や知的労働者の誘致を基礎にして、新たな一次産業の布石を図るべきだ。(翻訳・編集/如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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