中国企業がボリビア・リチウム開発を落札=世界最大埋蔵量、10億ドル超投資、反対論も

山崎真二    2023年3月24日(金) 6時0分

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ボリビア有力メディアの報道によれば、同国のリチウム鉱床開発事業をめぐる国際入札でこのほど、中国の世界的EVバッテリーメーカー「寧徳時代新能源科技」率いる企業連合が落札した。写真はウユニ塩湖。

ボリビア有力メディアの報道によれば、同国のリチウム鉱床開発事業をめぐる国際入札でこのほど、中国の世界的EV(電気自動車)バッテリーメーカー「寧徳時代新能源科技」(CATL)率いる企業連合が落札した。落札を受け、同企業連合がボリビア・リチウム公社(YLB)との間で「直接リチウム抽出(DLE)」技術を使用するプラントを建設する協力協定を結んだという。

同協定によれば、中国企業連合は、世界的観光地ウユニ塩湖のあるボリビア西部のポトシ県と、もう一つの塩湖が存在する同国中部のオルロ県の2カ所で当初段階として10億ドル以上を投じて複数のプラントを立ち上げるほか、道路や電力供給などのインフラ強化、炭酸リチウムの開発と製品化を行う計画とされている。同企業連合にはCATLのほか、同社子会社でバッテリー原材料などを生産する「広東邦普循環科技」(BRUNP)とモリブデン生産大手「洛陽欒川鉬業集団」(CMOC)が参加している。

このニュースが注目を集めるのは、中国の南米進出という面だけでなく、世界最大のリチウム埋蔵量を誇りながら、技術・資金不足などから開発が遅れていたボリビアでいよいよ、その資源が商業化され、EVはじめ世界中のさまざまな産業分野に大きな影響が出る可能性があるからだ。

「外国企業の参加は違法」との声も

YLBによると、ポトシとオルロ両県で中国企業連合のプラントが完成すれば、純度99.5%の電池用炭酸リチウムをそれぞれ年間最大2万5000トン生産することが可能になり、生産量が飛躍的に増加するという。アルセ・ボリビア大統領は「2025年第1四半期に国産原料を使用したリチウム電池の輸出を開始することが目標」と強い期待感を示す。

だが、ボリビアのリチウム資源開発が中国企業の進出によってこのまま順調に行くかというと、必ずしもそうとは限らない。現地メディアの間では早くも反対論や批判が飛び交っている。例えば、ボリビアの有力紙「ロス・ティンポス」は「ボリビア・リチウム公社に関する法律では、いかなる外国企業もリチウムの抽出事業には参加できないと定められている」との識者の意見などを引用し、今回の中国企業による落札は「違法」と厳しく批判した。

アルセ政権がこれまでのところ、落札の経緯やYLBと中国企業連合との協定内容の詳細を公表していないため、野党勢力は協定の透明性が疑わしいとし、全容を明らかにするよう要求、反政府攻勢を一気に強める構えと伝えられる。

保守派は親中路線の政府を非難

ボリビアのマスメディアや野党勢力だけでなく、中国企業のプラント建設予定の地元でもリチウム開発に反対の動きが表面化しつつある。ポトシ県では先住民を中心とする市民団体が「伝統的生活が破壊される恐れがある」と反対、さらに開発による環境への悪影響を指摘する声も聞かれる。中国企業が使用する直接リチウム抽出技術は抽出過程を迅速化することで環境への影響が少なくなるとされているが、地元の環境保護団体の懸念は払しょくされていないようだ。

ボリビアでは2019年に当時のモラレス大統領がドイツ企業との間でリチウム開発協定で合意したものの、地元住民や環境保護団体の反対運動の高まりなどから、協定破棄を余儀なくされた例もある。リチウム開発に中国が進出することへの警戒感がボリビア国内にあることも見逃せない。これは、アルセ現政権が親中派とみられているからだ。同政権は2020年発足以来、親中外交路線に傾き、中国からの大型の経済支援を受け入れて関係を強めてきた。

ボリビアの保守派を代表する有力紙「エル・ディアリオ」は「アルセ大統領はわが国の貴重な天然資源を簡単な契約だけで中国に譲渡した」と非難している。ボリビアのリチウム開発が今後どうなるかは中国企業の動きとも併せ、国際的な関心を呼ぶことになりそうだ。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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