金融市場のゆがみや放漫財政が招く「日本の壁」=持続的発展を阻害―田村彰元日銀システム情報局長

田村彰    2023年2月3日(金) 6時0分

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国連が主導する国際目標であるSDGsが世界に浸透。日本では債務残高がGDPの2倍を超え、金融市場のゆがみや円安が招くインフレ、さらに資産の海外逃避など多くの「壁」に直面している。

国連が主導する国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)が世界に浸透してきている。SDGsは17の目標と169のターゲットにより構成される極めて多面的な目標であるが、その中核となる概念は、地球、国家、企業、個人が短期的な持続ばかりではなく、中長期的に見てもサスティナブル(持続的)に発展し続けられるよう求めるものである。

まずは、それぞれの国家のサスティナビリティ(持続的発展)が不可欠である。ウクライナ戦争にみられるような国家間の消耗戦は、関係諸国の経済力や政治的安定性を損なうばかりである。戦争による人命、財力、資源の費消やこれに伴って起こる国家間の体力の不均衡拡大、そして石油、ガス、食料をはじめとするさまざまな物資の交易へ及ぼす悪影響が、国際社会のさらなる不安定を招いている。

これに加えて、新型コロナに代表されるパンデミックとそれへの対応が不安定に追い打ちをかけており、その克服がサスティナビリティ確保の見地からも求められている。

英国の国力を大きく棄損した歴史的事実

日本についてみると、長期にわたる経済不振やインフレ昂進などのためとはいえ、短期的な視野に立って財政支出の拡大をいたずらに進めるのは危険である。目先の人気取りのために不要不急な案件も含まれるとみられるばらまきが財政の規律を緩めかねない。すでに普通国債の発行残高が1000兆円を上回り、債務残高がGDPの2倍を超える中で、国債発行残高のさらなる累増をもたらし将来の世代の負担を加重させているのには強い警戒を要する。金融市場のゆがみや円安が招くインフレ、さらに資産の海外逃避、外資による国内資源の買い占めなど多くの「壁」に直面している。

それに勝るとも劣らず、少子高齢化の進行はさらに大きな問題である。将来の税収減に加え、公的年金など高齢者向け社会保障支出や子育て支援支出の増加から、財政収支のさらなる悪化が懸念される中で、医療関係者、自衛官、警察官、教員、介護職員など社会のキーとなる人員の確保もおぼつかなくなりかねない。外国人労働者も円安化に伴う実質手取り減からわが国を忌避しかねない。入管政策の弾力化や外国人労働者のスキリングの充実などの対策に注力すべきである。

それらを可能にするためにも、無駄な財政支出の圧縮が肝要であり、そのためにも一段の行財政改革や会計検査院検査の機能の強化が必要であろう。東アジア情勢の緊迫化を背景とした防衛費の増加分を国民負担なしで実施すべきなどという虫のよい議論は戦前の歴史の教訓に学んでいないといわざるをえない。そもそも財政破綻の危機に見舞われたら、安全保障上も危うい。正しい理解を深めるうえでは、ジャーナリズムの毅然とした姿勢と分かりやすく、説得力ある説明を強く求めたい。

必要な「幅広いセンス」と「目配り」

SDGsの重要要素につながるものとして、コーポレートガバナンスの充実が叫ばれているが、あまりにも欧米からの受け売りで、わが国の企業経営の実相から離れた論議がみられるのは残念である。従業員、顧客や株主を抱えるわが国企業の経営は、極めて責任が重く、経営者は全知、全能、気力、体力を込めて、短期的な売上・利益の拡大や資本・キャッシュの蓄積はもとより、中長期的なビジネスの発展に血眼になって取り組んでいるのである。そのうえでは、経験や過去の苦労に裏付けられた広範な見識のほか、時代を先取りしたニーズの把握、社員の適切な管理、財務状況の的確な把握、リスクの許容範囲内への抑制、不祥事の防止、といった幅広いセンスと目配りが求められる。

会社経営のアクセルともいうべき事業の執行が会社運営の中核であることは間違いないが、過大なリスクの抑制など暴走を防ぐブレーキ役であり、かつ経営常識に支えられたモニタリングを果たす存在が重要である。これを担うのが社外取締役や監査役であるが、それが十全に機能するうえでは、経営者の耳を傾かせるだけの経営経験や知見、論理展開の蓄積(さらには人間性)が必要である。

近年、女性や外国人の取締役などへの登用が求められているが、日本では欧米と違って、多くの会社において女性の管理職、役員は残念ながらまだ少ないのが実情である。各企業において女性幹部さらには女性経営者を増やしていくことが何よりも肝要であるが、現状では株主の期待に真に応えられるような女性人材は、その人数も含めてまだ十分に育成されていないのが実情である。

形を整えるだけのガバナンス体制よりも、真にエクセレントでサスティナビリティな企業の育成につながる対応(会社の実相をよくみたうえでの取締役会議論の活性化)こそが重要である。こうした対応は、単に取締役会の場でのみなされるのではなく、企業にとって最も大切な現場および経営者やその予備軍をできるかぎりの機会を設けてよく観察していくとの絶え間ない努力があってこそ築かれるものである。

前途に立ちはだかる「日本の壁」を乗り越え、持続的発展を図るためには、官民が総力を挙げた改革が必要不可欠である。

■筆者プロフィール:田村彰

東京大法学部卒、元日本銀行システム情報局長、元綜合警備保障(株)(ALSOK)代表取締役専務執行役員、現加賀電子(株)社外取締役等。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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