米国の学校ではどのように「中国」を教えているのか―米大学の専門家が指摘

中国新聞社    2023年1月24日(火) 9時30分

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米国の学校では中国関連の教え方に、歴史関連を含めて問題があるという。どういうことなのだろう。

歴史を通じて中国文化になじんできた日本でも、中国のことがどこまで正しく理解されているかについては、いささか心もとない面がある。まして文化が大きく異なる国だったら、中国のことを理解するのは、さらに難しいだろう。そこで気になるのは、歴史も文化も思想も大きく異なり、世界に対する影響力が極めて大きな米国人がどのような状況で中国事情を知るようになるかだ。中国系米国人で教育学などを専門とするカリフォルニア州立大学のジャック・リウ(劉敬輝)教授はこのほど、中国メディア・中国新聞社の取材に応じて、米国の教育で中国がどのように扱われているかを紹介した。以下はリウ教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

西洋式の価値感に基づいて教えるために生じる弊害

米国では幼稚園最終年から高校3年生までの13年間の教育課程がK-12と呼ばれる。イリノイ州、ニュージャージー州、カリフォルニア州など7州では2022年、このK-12の期間にアジアの文化を教えることが義務付けられた。それ以前から社会科の授業では中国の歴史や文化を教えることが定められていたが、問題がある。

米国人青少年にとっては多くの場合、学校で使う教科書が中国の歴史や文化を学ぶ主要な手段になる。しかし、教科書が取り上げる中国は、ごく一部の中国文化だけで、中国の現状については記述がきわめて少ない。

また、例えば中国の古代文明を教える際にも、中国についての関連事項をしっかり教えるのではなく、米国人の価値感を中心に据えて他の文明と比較する文脈で教える。そのために奇妙な状況も発生している。

例えば、古代ギリシャではアカデメイアという、いわば私立大学が設立されて、多くの若者がそこで学んだ。米国の学校では、このアカデメイアで弁論の技術が磨かれたことを強調する。西洋人は弁論の発達を文明の進歩の重要な部分と考えるからだ。

そして古代ギリシャにおけるアカデメイアに匹敵する中国の出来事として、おおむね現在の山東省に地域を統治していた斉の宣王(在位:紀元前319年-同301年)が設立した稷下学宮について教える。稷下学宮は当時の諸学派が弁論を戦わせるための機関であり、当時の著名な学者が思想の火花を散らしたことは事実だ。

ただ、中国人の視点からすれば、子供らには稷下学宮についてよりももっと知っておいてほしいことが多いので、中国の歴史教科書に稷下学宮はあまり登場しない。つまり、米国では西側の価値感に基づいて教えており、中国人にとっては内容に偏りがあると思わざるを得ない状況だ。また、米国の教材は世界の全ての文明を「対比」というパターンで扱っているので、中国を含めてさまざまな文明が断片的に登場する。そのために生徒は混乱しがちだ。

そして、同一の事柄や人物を取り上げることについても、教育の各段階で「どこを見るか」が違っている。例えば小中学校で取り上げる孔子は、魯の国の「司寇」として活躍したことが取り上げられる。「司寇」とは、刑罰や警察を所管する高官だが、米国の教科書では現代風に「司法長官」と教える。また、儒家思想については「孔子主義」といった教え方をする。これでは、儒家思想の実情の一部だけを切り取って理解させることになってしまう。

ところが大学の段階になると、儒家思想を宗教、すなわち儒教として教えることになる。西洋では、多くの専門家が、マックス・ウェーバー(1864-1920年)などの社会学者が唱えた、「宗教がヨーロッパを変え、宗教が資本主義をもたらした」という主張に賛同しているために、中国についても宗教の影響を強調する。この教え方は、中国の歴史を理解させる上で、正確な道筋とは言えない。

米国社会の形成に影響及ぼした中国系移民については言及せず

米国の小中学校教科書では、近代以降の華人の米国移住について、ほとんど触れられていない。米国では教科書が州ごとに作られるので、中国系住民が多い西海岸では今後、中国系移民について教える内容が増えると思われるが、現状では華人移民について教えられている内容はとても少ない。

米国の日常生活にも、中国から移住した人々によってもたらされた状況が存在する。例えば米国人は、しばらく会わなかった知人などに再会した場合に、“ Long time no see ”(お久しぶりです)と普通に言う。これは実は、19世紀半ばに米国にやってきて、鉄道建設に従事した中国人労働者の間で広がった言い回しだ。彼らは英語を少し使えるようになると、中国語の「好久不見」(お久しぶりです)の漢字4文字を、そのままの順序で英単語に置き換えて、この言葉を作り出した。英文法上は間違っていると評するしかないのだが、非中国系の米国人も使う言い回しになった。

それから“ tea ”は広東語の「茶」の発音に由来し、“ silk ”は中国語の「絲(スー)」に由来する。

また、中国系米国人が米国社会の進歩に貢献した実例もある。例えば、ハリウッド女優として活躍したアンナ・メイ・ウォン(黄柳霜 1905-1961年)は、ハリウッドにおける人種差別、例えば同じ仕事をしても人種によって報酬が低く抑えられていることを初めて批判した人物だ。

現状ではまだ偏りがあると言わざるを得ない。だが、米国の教育界が中国系住民を意識する方向で変化しつつあるのは事実だ。具体的な統計はないが、例えば教科書で用いられるイラストに変化があった。以前は、描かれる人物はほとんどが白人だったが、例えば算数の教科書では中国系住民の親が子供を抱き寄せて勉強を教えるイラストが登場した。

中国についてきちんと教えるためには新たな教材が必要

米国では、大学に入学してからリベラルアーツ、すなわち教養課程の教育を受ける。さらに各種の報道に接することで、中国に対する印象を固めていく。ただし、彼らの中国観の土台は、基礎教育の課程ですでに形成されている。

そもそも、ある社会における「他国観」とは潜在意識の中に存在する。そして、各人が実際に発生した出来事を認知した結果、その人の「意見」が定まる。米国においては、長期間にわたって白人文化が主流だったので、米国人の中国観は現在も白人文化の影響を受けている。

私が主導するチームの研究によれば、米国人青少年が持つ中国の歴史や文化についての見方、中国観を理解するためには、教材中に出現する中国関連の用語を調べる作業が有効だ。

私は米国人青少年に、より全面的かつ正確な中国観を持ってもらうために、彼らに興味を持って読んでもらえる参考書を作成したいと考えている。現状における米国の教材に登場する「中国関連用語」を再検討した上で、必要と思われる用語を追加して説明するわけだ。これまでの教材のように、中国関連の出来事を断片的に取り上げて紹介するのではなく、「中国の物語」としてきちんと語れる教材を作りたいと希望している。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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