ナショナリズムはなぜ、「コロナとの戦い」に有害なのか―民族社会学の専門家が説明

中国新聞社    2023年1月22日(日) 23時0分

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コロナとの戦いで重要なのは、自国の利益だけを追求するのではなく、国と国が助け合う行為だ。写真は中国が支援物資を供給したことに謝意を示すために、物資が到着した空港に足を運んだセルビアのブチッチ大統領。

どの国の為政者も、自国の国益を重視するのは当然だ。しかしそれも行き過ぎれば、国際社会での衝突が発生して、巡り巡って自国にも害をもたらすことになる。民族社会学や民族政治学を専門とする貴州民族大学のカク亜明(「カク」はへん部分が「赤」で、つくりはおおざと)特別招待教授は、自国の利益を重視しすぎる極端なナショナリズムは、新型コロナウイルス感染症への対策にも弊害をもたらして、人類全体に悪い結果をもたらすと主張する。以下はカク教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

自国の利益だけを優先すれば、人類全体のコロナとの戦いに悪影響

新型コロナウイルス感染症については、一部の西側諸国で、極端なナショナリズムあるいは人種差別主義の言動が見られた。まず第一の問題は、事実を歪曲する発言があったことだ。そのような主張は、世界各国が科学の力によって感染症に対応することに悪影響を及ぼす。

例えば感染症が発生した早い時期には、この感染症に「人種のレッテル」を貼り、「新型コロナウイルスはアジア系人種の免疫システムだけを攻撃する」といった言説があった。ある研究者の分析によると、西側の一部国家が初期段階で対策に力を入れなかったことには、「西洋人は大丈夫」という考え方の影響が、ある程度あった。

次の問題は、極端なナショナリズムや人種差別主義が、世界各国の相互信頼を破壊し、一致団結して感染症に対応することに悪影響をもたらすことだ。西側の一部国家の政治家は、国際的な競争あるいは国内政治を有利に進めようとして、感染源や対応策、感染症発生の責任を恣意的に政治問題化し、全人類が手を携えて感染症に立ち向かう雰囲気を大きく破壊した。その結果として、失われる命も増えることになった。

そして自らの利益のみを考えて他者が不幸になってもよいとする姿勢は、世界が全体として感染症に対応することを阻害する。感染症が発生して早い時期に、西側諸国間では感染症対策物資の激しい争奪戦が繰り広げられた。例として、スイスが入手できるはずだった対策物資は何度も、隣国にかすめ取られた。ドイツ、イタリア、フランスは対策物資の国境通過を差し止めて、国同士の対立局面が出現した。

米国は自国外で対策物資を高額で買い占めたり、他国関係者が売買契約を成立させた物資が買い手に渡ることを強引に阻止した。欧米諸国は大量のワクチンを買い占めた。その結果、先進国では大量のワクチンが期限切れで使えなくなり、一方で多くの発展途上国は深刻なワクチン不足に陥った。

ナショナリズムの功罪、「度合い」によって大きな違い

ナショナリズムとは何なのか。大きくは二つの特徴がある。まず自民族に至上の地位を与えることだ。次に自民族の利益獲得を究極の目的にすることだ。ナショナリズムは民族主義と訳される場合があるが、より正確には国民全体で構成される政治共同体を最上位に置くことを意味する。ナショナリズムは英語の“ nation (ネーション)”に由来するが、この場合のネーションは国を意味するからだ。

現在までに、人種差別主義については「悪」という評価が確定したと言えるが、ナショナリズムについての評価には、今でも微妙な面がある。

と言うのは、今日の世界において、国民国家は人々がさまざまな危機に直面した際の最も堅実な守護者であり、国民にとって最も信頼できる政治的構築物であるからだ。新型コロナウイルス感染症という世界的な公衆衛生上の突発事件の中で、各国が自国民の生命と健康の保障を第一にする原則に基づき、力を結集し、資源を集め、ウイルスとの戦いを展開していることは、ある意味でナショナリズムのプラス面を示している。

ここで考えねばならないのは、穏健あるいは健全なナショナリズムと極端なナショナリズムの区別だ。要するに、ナショナリズムでは「度合い」が問題になる。穏健なナショナリズムとは「自国の利益を優先する過程で、他国の利益を害する主観的悪意がないもの」と定義できる。

極端なナショナリズムは、「自国の利益を守るためには、他国の対等な権利を損ねることもあえてする」ようなやり方だ。新型コロナウイルス感染症では、自国民の生命と健康を守るためならば、他国民の生命と健康を犠牲にしてもかまわないと考えることだ。

新型コロナウイルス感染症については、先ほど述べたように必要な物資の奪い合いという状況が出現した。そして、一部の政治家やメディア、組織は悪意をもって自国での感染症の爆発的増加を中国のせいにして責任転嫁した。この現象の背後には、人種差別主義やイデオロギーによる排斥、政治目的の動きなどの特徴があり、極端なナショナリズムの悪性の膨張が出現したと言える。

この極端なナショナリズムの膨張を憂慮する動きもあった。2020年3月24日には、国連条約機関の高官10人が各国指導者に向けて、政府が新型コロナウイルスの大流行の脅威に対応する際に、人種差別主義や外国人嫌悪を防ぐために積極的な措置を講じ、ナショナリズムの高まりを放置しないよう求めた。

現在に至っても、感染症がきっかけで高まった人種差別主義やナショナリズム、外国敵視主義は残っており、改めて増幅される場合もある。つまりグローバリゼーションと反グローバリゼーションがぶつかり合う状況になった。これは極めて危険だ。


今の世界にとって「人類運命共同体」の発想がなぜ必要なのか

世界では過去数十年に渡りグローバリゼーションが浸透してきた。このことで、世界の国や地域は互いに、経済における相互依存の度合いを高めた。しかし一方で、グローバル化を拒む勢力も現れ、新型コロナの出現が、反グローバル化にある程度の勢いをもたらした。

偏狭さと排斥性を克服するためには、人類運命共同体の理念が唯一の回答と考える。人種差別主義や極端なナショナリズム、外国敵視主義の出発点にあるのは自らと他者を「全くの別物」と見なすことであり、人類運命共同体とは、人類全体が共通の利益を追求することを強調する考え方だからだ。

人類すべての運命が密接な関係にあることは明らかだ。各国における国民の幸せの実現は、互いに依存し合っている。未知のウイルスの猛威も、全人類が人類運命共同体のメンバーであることを証明した。ウイルスとの闘いは全人類が展開する生死を共にする戦いだ。もし人類運命共同体の理念を認めなければ、この感染症の中で世界各国はより大きな生命と健康の代償を支払うことになるかもしれない。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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