多民族国家のシンガポールで中国系住民はどのような状況なのか―現地専門家が紹介

中国新聞社    2023年1月15日(日) 23時10分

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多民族国家のシンガポールで、民族の構成比が最も大きいのは中国系住民だ。しかし同国は中華中心主義を採用していない。では同国における中国系住民はどのような状態なのだろう。写真はシンガポール人少女。

シンガポール政府は建国当初から、中国系住民の華人、マレー人、さらにインド人など、どの民族からも不満がでない多民族国家を目指してきた。シンガポールの南洋理工大学の劉宏教授は、このほど中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、シンガポールにおける華人の状況やその変化を紹介した。以下は劉教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■中国とシンガポールで同じ面も異なる面もある「多元的一体」

シンガポールの民族政策は「多元的一体」を目指していると考えてよい。「多元的一体」とは、中国人社会学者である費孝通氏が1980年代に提唱した、中国の民族構造を示す概念で、中国で認められている56の民族は民族構造の「基層部分」として、その上位に「中華民族」という中国の各民族すべてを含む概念を導入した。そして、中国の各民族が多元的状態を保ちながら中華民族として一体化する上で、漢族は中核として凝縮させる作用をもたらしたと論じた。

シンガポールは、複数の民族が一体化されたシンガポール社会を形成している点では「多元的一体」の状況だが、中国とは異なる面がある。シンガポールは中国以外では唯一、華人が人口の多数を占める社会だが、シンガポールの華人あるいは華人文化は、国を一体化する役割を担ったわけではない。例えば、シンガポールでは異なる民族の人同士が意思疎通のために用いる言語は基本的に英語であり、中国語ではない。シンガポールにおける「一体的」とは、一体的な国家アイデンティティーを指す。これは多元的な民族コミュニティー融合の基礎であり、さらには新たな移民のコミュニティーに対する国家の全体的な政策枠組みでもある。

シンガポールの移民政策には2つの面がある。まずは経済と人口によるものだ。新たな移民は新たな経済発展戦略に不可欠な人的資本を補完することができ、少子化問題の緩和に有効だ。次に、政治とアイデンティティーに関連するものだ。シンガポールでは新たな移民が、多様な人種的特徴を持つシンガポールの社会文化環境に緊密に溶け込むことが求められる。シンガポールに新たにやってくる華人移民に対しては、多民族社会への融合を全力で進めると同時に、シンガポール華人というアイディンティーを強め、同時にシンガポール国外の華人コミュニティーと連携し、国境を越えたビジネスネットワークを構築することが奨励されている。

シンガポールのマーライオン公園

■海外に移住した人が直面する「現地化」と「多国籍性」の両立問題

一般に、出身国から海外に移住した人は、「現地化」と「多国籍性」の両立問題に直面する。シンガポールの新しい華人移民も、まずはシンガポール社会に適応せねばならない。彼らは同時に、親族、生活、仕事、文化などで中国との密接な関係を保つ。「現地化」と「多国籍性」は矛盾するものではなく、両立させることができる。ただ、新来の華人移民はやはり、シンガポール社会に溶け込むことを第一の目標にしている。

シンガポールと中国の移民政策は、比較的開放的であり、さらに改善されつつある。シンガポール政府は、新たな移民の自国社会への統合を推進する動きを加速させている。そして両国には、近隣しているという地理上の要因があり、経済協力が強まりつつある状況だ。シンガポール政府は開放型の経済政策を実行し、中国との経済協力を重視しており、新来の華人移民と中国国内との経済面での連携・相互作用に対して積極的な態度をとっている。中国政府は、海外の華人による投資と起業に対していくつかの支援策を設けており、彼らが中国の経済発展に参与することを奨励している。

中国国外で華人が集中している地域では、華人が自己管理する方式が自発的に形成されてきた。すなわち、華僑華人連合会、華商会、同郷会などの団体が形成されてきた。従来型の華人団体の多くは出身地や縁故に基づいて設立されたが、新たな移民は中国のさまざまな地域から来ており、社会的背景がより多様化し、包容性も高まった。新たな移民が居住国に溶け込み、同時に中国との縁を継続することについて、華人団体は自らの役割を果たしている。

シンガポール最大の華人新移民団体である華源会は2001年に設立された。同会は会員がシンガポールの多種多様な人種社会によりよく溶け込むよう協力し、シンガポールと中国の商業貿易協力を後押しすることなどを使命としている。私が、設立当初から19年までに華源会が開催した263件のイベントを分析したところ、シンガポール社会への融和と中国に関連するイベントが増加傾向にあり、とりわけ前者が目立つことが分かった。2000年に設立されたシンガポール天府会も同様だ。天府とは四川省の別称だが、天府会の会員には四川だけでなく中国各地から来た者がいる。天府会も会員がシンガポールという国に溶け込むのを助けることと、会員と中国との結びつきを強める活動を重視している。

■シンガポールでは200年の歴史を通じて独特な華人文化が形成された

そもそも、社会におけるアイデンティティーとは、共通する信仰や価値観や行動の指向性により形成される。シンガポールの華人コミュニティーが21世紀に入ってから直面している重要な問題はアイデンティティーの問題だ。すなわちグローバル化の時代、この多人種と多文化の国で、どのようにシンガポール人としてもアイデンティティーと結束力を形成し、育成し、強化するかという問題だ。シンガポールでは、これまでの多元性という特徴を継承するのと同時に、シンガポール人としてのアイデンティティーが強化される方向で推移している。とはいえ、出身地とのつながりや世界的なネットワークは依然として、無視できない役割を果たしている。こうした変化は自然な現象だ。シンガポール華人の多くはシンガポール生まれで、中国にある故郷との連絡はかつてに比べれば弱まっている。しかし文化面のきずなは依然として強い。

例えば「籍貫」、すなわち一族としての出身地について問題が発生した。シンガポール移民局は22年5月に、それまで新生児の出生証明に記載されていた、父母の「籍貫」の表示を撤廃した。ところが華人や華人団体の強い反対意見があったために、同年月に「籍貫」の表示を復活させた。「籍貫」、すなわち自分の「ルーツの地」を強く意識するのは、中国の長い歴史で育まれた文化だ。シンガポール華人も、この文化の強い影響を受け続けている。

シンガポールの華人社会は200年の発展を経て、その文化はシンガポールや東南アジアの要素を溶け込ませ、シンガポール独特の華人文化が形成された。例えばシンガポール華人は依然として中国の伝統的な祝日である春節(旧正月)の習慣を維持しているが、シンガポールやマレーシアでは春節の際には、魚の生肉を使う魚生(ユーシェン)と呼ばれる独特な料理を食べる習慣が普及した。

言語についても、シンガポール華人は日常会話で使う中国語に、英語やマレー語の単語を混ぜている。このように、多種多様な人種社会に根づいた活気あふれるシンガポール華人文化が形成されつつある。同時に、シンガポール政府も華人文化が社会の重要な構成部分であることを認めており、さまざまな方式を通じて中華文化の保存、伝承、普及を重視している。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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