<ウクライナ戦争膠着>対ロ基地攻撃で戦線拡大―双方、態勢立て直しに総力挙げる

村上直久    2022年12月31日(土) 10時20分

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ウクライナに本格的な冬がやって来た。降雪や凍り付くような寒さの戦況への影響については専門家の間で意見が分かれている。

ウクライナに本格的な冬がやって来た。降雪や凍り付くような寒さの戦況への影響については専門家の間で意見が分かれている。12月5日にはウクライナ軍はロシア本土の奥深く入った、ウクライナ空爆の拠点となっている2カ所の空軍基地をドローンで攻撃。ロシア国防省の危機感を募らせた。ロシア領も巻き込んで、戦線が拡大する恐れも出てきた。ウクライナが対ロ反攻作戦でどこまで欧米と調整しているのか不透明感もある。こうした中で、西側の対ロ経済制裁は徐々に効果を表しているようだ。

◆エスカレーションを回避できるか 

ウクライナでの戦いは最近、東部や南部での塹壕を活用した砲撃戦とロシア軍によるウクライナのエネルギー施設への空爆とそれに対するウクライナ軍の応戦が中心となっている。前者では欧米から高性能の兵器を供与されたウクライナ軍が優勢との見方もあるが、戦況はおおむね膠着状態のようだ。

こうした中でロシアの防空網をくぐり抜けモスクワまで200キロの地点まで攻撃できることをウクライナ側は見せつけた。ただ、戦いをウクライナ領内にとどめたい意向を持つとされる米国とウクライナの間で事前のすり合わせはなかったようだ。破壊力は小さいものの、こうしたドローン攻撃が繰り返されるようであれば、戦線の拡大につながりかねない。戦争のエスカレーションを防ぎたい米国にとって頭の痛いところだ。

米国のシンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、冬の到来で地面が凍結し、軍事車両の移動が容易になるとみている。一方、米国のヘインズ情報長官は冬の到来で移動は制限されて戦況は停滞し、双方は春に向けて軍隊の態勢立て直しに注力するだろうとみている。

米国が懸念するのはロシアが追い込まれた場合の核の使用だ。米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、スティーブン・ワーザイム(Stephen Wertheim)氏はプーチン大統領が核兵器の使用に踏み切る可能性があるシナリオを三通り想定している。それらは、1:米軍もしくは北大西洋条約機構(NATO)軍が直接介入する場合、2:プーチン氏の統治が脅やかされていると彼が信じるようになった場合、3:ウクライナ軍が、ロシアが一方的に併合したクリミア半島を奪還しようとしている場合、だ。ただ、何がロシアを核兵器の使用に踏み切らせるのかだれもはっきりしたことは分からない。

米国のバイデン大統領は最近、ハルマゲドン(最終戦争)のリスクは1962年のキューバ・ミサイル危機以来、最大となっているとの見方を示した。同大統領はウクライナ防衛のための米軍投入の可能性を排除している。バイデン政権は、戦場におけるウクライナのポジションを強化し、和平協議が再開される場合、ウクライナに有利な状況を作り出すことを狙っているとされる。

◆遠のく経済の近代化

西側のウクライナ支援は武器・弾薬の供与と人道援助、そして対ロ経済制裁が三本柱だ。このうち経済制裁は徐々に効き目を表しているようだ。同国経済は崩壊するには至っていないものの、1991年の旧ソ連崩壊後、西欧型の経済を目指す近代化プロセスは停滞している。言い換えれば、豊かで近代化され、欧州並みの生活水準を目指すという目標の達成は遠のいた。現代史ではかつてみられなかった、西側による広範で最高度に調整された経済制裁の影響はロシア全土に及んでおり、拡大する一途だとニューヨーク・タイムズは伝えた。

ロシアで西側の経済制裁の打撃を最も受けているのは製造業部門だ。1000万人を雇用し、エネルギー部門への過度の依存から脱却するための切り札と位置付けられてきた。特に不調が目立つのが、関連産業を含めて400万人近くを雇用する自動車産業だ。ロシアにおける自動車生産は、制裁により西側からの部品供給が途絶したことにより、9月までに年間の生産ペースは前年比77%減、販売は60%減となった。

国際通貨基金(IMF)は22年のロシアの国内総生産(GDP)は3.5%減少すると予測している。西側の指導者たちはロシア経済への打撃はより深刻になることを期待していたが、西欧以外への石油輸出収入の高水準や潤沢な外貨準備の存在が制裁のロシア経済への打撃を和らげたとみられている。ただ、西側からの投資や技術移転が止まったことは今後、ロシア経済にボディブローのようにじわりと効いてくるとみる向きもある。

ロシアのウクライナへ侵攻が長期化の様相を呈している中で、ロシア経済の苦境も徐々に深刻化しつつあるようだ。

■筆者プロフィール:村上直久

1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、退職。現在、時事総合研究所客員研究員。学術博士。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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