独特に見える「タイの美」は、「中国の美」を多く吸収してきた―タイ人研究者が紹介

中国新聞社    2023年1月3日(火) 22時50分

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タイの伝統美術というと、中国美術とは雰囲気がずいぶん違うように思える。しかし実際には、自らの美の体系に沿って「中国の美」を取り入れた歴史があるという。写真はタイの寺院。

タイの伝統美術というと、中国美術とは雰囲気がずいぶん違うように思える。しかし実際には、タイの建築家や彫刻家、あるいは職人は「中国の美」を拒絶したのではなく、自らの美の体系に沿って「中国の美」を取り入れてきた歴史があるという。そのことで、「タイの美」は奥行きを増し、さらに豊富になった。タイ芸術大学のアチラト・チャイヤポトパニト助教授の専門は中国と東南アジアの美術の関係で、中国の北京大学で博士号を取得するなど、タイと中国の双方の事情に詳しい。チャイヤポトパニト助教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、仏教関係を中心にタイ美術に及ぼした中国の影響について説明した。以下は、チャイヤポトパニト助教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■紀元前から続いた中国美術の影響は、19世紀半ばに頂点に

タイ国内では考古学調査により、中国漢代(紀元前202年-紀元220年)の陶磁器が発見されている。つまりタイと中国の芸術交流はその時代にさかのぼることができる。しかし長期にわたって、美術を含めて中国文化がタイに与えた影響はさほど大きくなかった。中国美術によるタイの仏教美術への大きな影響は、タイ現王朝であるバンコク王朝のラーマ2世(在位:1809-1824年)の時期に始まり、ラーマ3世の時代(在位:1824-1951年)に最盛期を迎えた。

その背景には、当時のタイ貴族がそれまでの貴族よりも開放的になり、世俗化・現実化した宗教観や世界観を持ったなどの価値観の変化があった。当時の貴族は中国を「偉大な兄貴分」のようにあがめた。

歴史を整理すると、中国美術がタイの仏教美術に与えた影響は大きく4つの段階を経た。第一段階は中国の漢代ごろで、初歩的な交流だった。第2段階はタイのスコータイ朝(1257年-1436年)とアユタヤ朝(1351-1767年)時代だ。この時期には、中国の陶磁器工芸がタイに伝来した。当時作られた磁器には、模様や図案が中国の特徴を持つものがある。第3段階はラーマ2世、ラーマ3世の時代で、この時期にタイの仏教寺院に中国美術の要素が大量に入った。第4段階では、ラーマ4世の時代以降で、タイの仏教美術に対する中国美術の影響が薄れていく。しかし、その後も中国美術がタイ仏教美術に与える影響が消えたわけではない。また、多くの中国人移民がもたらした中国美術や審美眼は民間で定着し、タイの仏教美術にも影響を与えた。

中国美術がタイに伝わる主な経路は、1つは朝貢貿易であり、もう1つは中国移民による伝播だった。

タイと中国の朝貢往来は、タイのスコータイ朝時代よりも前に始まっていた。バンコク王朝時代になり、タイから中国への献上は安定し、中国からタイにもたらされるものも増えた。朝貢貿易が盛んになるにつれ、タイの仏教美術に対する中国美術の影響も大きくなっていった。ラーマ2世、ラーマ3世の時代には、寺院建築の基本はタイの伝統を踏襲していたが、装飾面では大きな変化があった。職人は中国美術のスタイルも多く借用するようになった。その時代の寺院に足を踏みいれると、中国美術が重要な位置を占めていることに気付く。

■「タイの美」は「中国の美」を多く取り入れることで、本質を保ってさらに完成

またタイ寺院の建築そのものにも、中国南部沿岸の潮汕建築様式の妻側や、中国風の八角形や円形の壁に開けられた出入り口や窓が見られるようになった。受戒殿と仏殿には、中国の吉祥文様や「門神二将軍図」、「三国志演義図」、「福禄寿三星図」などの中国の題材が登場するようになった。彫刻の面では、寺院内の仏像、弟子像などの主要な彫像はタイの伝統を踏襲したが、副次的な彫像では、中国美術の影響を強く受ける場合が増えた。

中国美術はタイの仏教芸術に「新たなインスピレーション」を注入した。タイの仏教美術は中国美術の要素を吸収することで、その特徴をさらに完成させた。中国美術の要素は民間の交流によっても多くもたらされたが、それらの中国美術は主として、中国南東部の沿海地方のものだ。当時のタイにとっての中国側の貿易相手は広東、福建、海南の3地域に集中していたからだ。タイに移住することになった華人も、主にこれらの地域の出身者だった。

タイと中国は地理的に近く、人と人も親近感を持っている。両国は歴史を通じて密接な交流と連絡を保ち、深い文化交流の基礎が築かれてきた。中国美術がタイ美術に対する影響は今も続いている。例えば、バンコクのチャイナタウン入口の道路には牌坊(パイファン)という中国式のゲートがある。一部の現代建築は明らかに中国美術の特徴を持っている。現代中国の一部の芸術家の創作理念は、タイの現代芸術にも一定の影響を与えている。

歴史文献の研究と考古学調査は、両国の文化交流の歴史に重要な証拠を提供することができる。芸術史を研究する者として、私はタイと中国の双方がこの分野の交流と協力を強化することを望んでいる。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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