中国に古くから伝わる環境保護の手法、その活用法とは―専門家が課題も含め紹介

中国新聞社    2022年12月25日(日) 22時0分

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自然と向き合うための古くからの「しきたり」が、生物多様性を守るために有効だと注目されるようになった。写真は雲南省大理の様子。雲南省では古くから、人々が豊かな自然と共存してきた。

「古くからの知恵」をあなどることはできない。一時は「不合理だ」と思われていたことが、「大きな目で見れば実に合理的だった」と判明した事例は枚挙にいとまがないほどだ。古くからの住民コミュニティーが守り続けてきた、自然資源の利用についての「しきたり」も、生態系や生物多様性を維持するために極めて有効な場合が多いと立証されつつある。国家林業・草原局西南生態文明研究センターの尹侖研究員は、生態保護に関する伝統的知識などについての専門家だ。尹研究員はこのたび、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、中国に残る伝統的な生態系保護の状況や、それを現代社会に活用する道筋、中国としてさらに前進させるべき部分などを紹介した。以下は尹研究員の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■昔からのしきたりで事実上の「遺伝子バンク」が形成

生物多様性条約は、生物多様性についての伝統的な知識を、「長期の経験に基づいて形成された、地方の文化や環境に適応した知識、イノベーション、実践」と定義している。そのような知識は、書き物として受け継がれてきた場合もあれば、歌や伝説、ことわざ、信仰、慣習法などで示されていることもある。

中国政府・生態環境部が2014年に発表した「生物多様性に関する伝統的知識の分類・調査・目録作成技術規定(試行)」は、生物多様性の維持に役立つ伝統的知識を5つに分類した。「伝統的な農業遺伝資源の選択育成に関する知識」「伝統的な医薬に関する知識」「生物資源の持続可能な利用に関係する伝統的な技術及び生産・生活様式」「生物多様性に関する伝統文化」「伝統的な生物地理的表示製品に関する知識」だ。

例えば雲南省迪慶チベット族自治州徳欽県ではチベット族の人々の間で、雲南最高峰のカワガルボを含め300以上の山を神山と見なす伝統的な信仰体系が形成された。住人は神山の動植物などすべてを神聖な存在として、勝手に狩ったり伐採したりすれば神山は怒り、豪雨や土石流で村に報復すると考えてきた。地元のチベット族の人々は、神山での樹木伐採、薬材の採取、湧水、河川、湖の汚染などに関する慣習法を持つようになった。この慣習法は地域の生態系と生物多様性の資源を保護することに役立ち、同地域は事実上の自然保護区になった。

雲南省シーサンパンナ・タイ族自治州のキノ山に暮らすキノ族は、陸稲栽培を中心とした輪作農業に従事してきた。キノ族の輪作農業では、早生、中生、晩生、もちなど、計96の陸稲品種が保存されている。彼らは毎年、品種を取り換えて栽培することで、食糧生産量の最大化を追求してきた。蓄積されてきた認識や経験によって、陸稲品種の遺伝上の多様性が保たれることになった。

中国の各民族の伝統的知識は現地の生物遺伝資源の多様性を保護することにつながった。遺伝資源を保存・利用する「伝統式の遺伝子バンク」がもたらされたのだ。この「遺伝子バンク」は現在も動的変化を続けている。今も発展中と言ってよい。

■COP15でも自然保護における伝統的知識の価値と役割を重視

自然保護における伝統的知識の価値と役割は、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)でも重視されている。21年10月に雲南省昆明で開催されたCOP15第一部で採択された昆明宣言は、「先住民と地域社会の権利を尊重し、その完全かつ効果的な参加を確保する」などとする文章が盛り込まれた。

自然保護に役立つ慣習法は、動植物を直接に保護する伝統的な信仰と行動規則だけではなく、生態系と生物多様性を分類し、貯蔵、有効利用、総合管理、利益共有と発展促進を行う伝統的な知識や技術に関連するものもある。すなわち、生態に関する慣習法は、総合的な管理体系の側面を持つ。

例えば雲南省迪慶チベット族自治州瀾滄江大峡谷に位置する佳碧村では、長い歴史を持つ伝統的な女性組織の「姐妹会(姉妹会)」が機能している。「姉妹会」は山林への立ち入りを制限して、樹木の伐採を規制して森林植生の破壊を食い止めてきた。「姉妹会」は植林も行い、森林生態系全体の安定を守って来た。

生物多様性の保全において、関連する行動計画と地方的な法規は伝統的な知識に言及している。10年9月に発表された「中国生物多様性保護戦略・行動計画」(11-30年)は、「関連する伝統的知識の緊急的保護と伝承」「生物遺伝資源及び伝統的知識の獲得と利益共有制度の構築」「生物遺伝資源及び関連する伝統的知識の保護」「開発と利用の利益関係の調整」などが必要だとして、試行モデルの実施を求めている。少数民族地区では生物遺伝資源と関連する伝統的な知識や革新、実践を調査して、データベースを構築する方針が定められた。

■法体系の整備で伝統的な自然保護に「制度の裏付け」を

雲南省は18年9月に、他の地域に先駆けて生物多様性保護の地方条例である「雲南省生物多様性保護条例」を制定し公布した。この条例は伝統的知識に言及しているが、個々の条項の原則を定めたにすぎず、実行するために必要な細則や具体的措置は定められなかった。

インド、ブラジル、南アフリカ、マレーシアなどの国はすでに生物種資源と関連する伝統知識の法律と制度を定め、先住民族や何世代も前からの住人が持つ地方コミュニティーなどの伝統的な民族社会の生態習慣法と制度を徐々に認め、現代的な環境法律体系に取り入れている。

中国は生物多様性資源と伝統的な生態文化が豊富な雲南省で、関連する伝統的知識に基づき、生物多様性を管理する地方メカニズムを形成し、それを「雲南省生物多様性保護条例」と組み合わせることで、制度面を完備させることができる。伝統的な知識が国としての生物多様性保護の法治体系に組み込まれれば、遺伝資源の獲得と利益の共有に法律上の根拠ができ、生物種資源の減少を根本的に防ぐことができる。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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