宇宙技術を利用した考古学とは何か―中国人専門家がチュニジアとの協力を交えて紹介

中国新聞社    2022年12月13日(火) 0時0分

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人工衛星などから地表を撮影し、画像解析により地表の状態を知ることをリモートセンシングという。このリモートセンシングは、考古学の分野でも威力を発揮している。

人工衛星などから撮影した地表の画像に基づき、土地の状態を解析する手法をリモートセンシングという。国土の広い中国では、早い時期からリモートセンシングが重視され、技術力が向上した。1990年代には中国人研究者がその技術力や経験を買われて、日本の大学や研究所の特別研究員に就任したこともあった。当時の中国はまだ、自前の衛星をリモートセンシングに利用することはできなかったので、米国の衛星が撮影した画像を譲り受け、利用した。その画像分析の技術が大いに向上したという。

中国では現在、考古学調査にもリモートセンシングが大いに活用されている。実情はどのようなものなのだろうか。中国科学院空天信息創新研究院(航空宇宙情報イノベーション研究院)でリモートセンシング考古学調査に携わってきた王心源氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の要請に応じて、リモートセンシング考古学調査やチュニジアとの国際協力を紹介した。以下は王氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■チュニジアは古代ローマの辺境の地、中国北西部とは共通点が多い

私のチームは宇宙リモートセンシングの観点から考古学と文化遺産の研究をしている。広大で人が行くことの困難な土地の場合には、リモートセンシングに高い位置から地上を探査することが有効だ。多くの場合に新たな発見がある。

私は2012年から13年にかけて、甘粛省の瓜州-沙州区間でリモートセンシング考古学を行った。対象とした場所には漢代の長城があり、唐の武則天(中国史で唯一、皇帝に即位した女性。日本では「則天武后」と呼ばれることが多い)の在位期間(690-705年)に建設された駅伝システムもあった。駅伝システムは道路や宿泊施設を伴うが、1000年の歳月を経て識別しにくくなってしまった。しかし宿場は一辺数十メートル、大きいものでは100メートル近くあるので上空から撮影すれば見つけやすい場合もある。我々はリモートセンシング考古学技術を利用して新たにいくつかの遺構と思える場所を特定した。

私はその時、中国の博士課程で学んでいたチュニジア人のナビル・バチャガ君を作業チームに採用した。チュニジアはかつて、古代ローマ帝国の国境地帯だった。古代ローマにも古代中国と同様に長城があった。私は彼に、中国と西洋の長城の比較研究をしてもらいたいと思っていた。ただし可能かどうか分からなかったので、まずは彼を作業に参加させたのだ。

瓜州から敦煌までは古代の街道に沿って200キロ近くある。リモートセンシングによる新たな発見は、必ず地上で確認せねばならない。われわれは漢代の長城との唐代の駅伝路線に沿って、リモートセンシングによる新たな発見を確認した。バチャガ君は、環境が故郷のチュニジアと似ていることに驚いた。いずれも乾燥地帯で砂漠が広がりオアシスが点在する。さらには、裸果木属の植物が生えていることにも強い興味を示した。この植物は生きた化石とされ、存在するのは北アフリカと西アジア、中国北西部ぐらいのものだ。

彼は私に自分の故郷について研究したいと言った。私はチュニジアでの研究エリアを決めて、彼にリモートセンシングの手法による分析をしてもらった。画像処理や解釈や分析などの室内での作業はかなりつらいものだが、我々は、遺構の可能性がある場所を、いくつか見つけた。

■チュニジアに行った当初は、現地住民に「日本人ですか?」と言われた

そして私はバチャガ君を介して、チュニジアのディア・ハリド大使を訪ねた。さらに、チュニジア国家文化遺産研究院院長のファウジ・マフフド教授とチュニジア干ばつ地域研究所所長のフセイン・ハッテリ教授と協議して、互いに協力することを決めた。宇宙考古学研究チームは3回にわたって現地に検証に行くことができた。3回目にはチュニジア、イタリア、パキスタンの科学者と共同で野外調査と検証を行った。我々は宇宙考古学技術の手法を使って、チュニジアで古代ローマ時代の考古学遺構10カ所を発見した。

この成果の影響はかなり大きかった。2018年4月19日にはチュニジア文化省でリモートセンシング考古学発見に関する記者会見が開かれ、チュニジア文化相も出席した。その後、チュニジアの農業省と観光省と協力協定を結んだ。科学技術の研究も両国の民間交流を促進する良い役割を果たしている。

チュニジアで野外調査を行った際に、私は現地住民に「日本人ですか?」と尋ねられた。当時のチュニジアでは中国のことが知られておらず、中国関連で目にするものと言えば、ファーウェイの広告ぐらいだった。しかしその後、チュニジアのテレビや新聞が広く紹介したことで、中国はよく知られるようになった。中国でもチュニジアのことが知られるようになった。全国統一大学入試の地理の科目で、われわれとチュニジアの共同研究に関連する出題があったこともある。

バチャガ君は、リモートセンシング分野で最高に権威のある雑誌に論文を発表しただけでなく中国のメディアでも紹介された。博士論文の最終発表会にはチュニジア大使のハリド大使も出席し、両国の協力を高く評価した。バチャガ君はとは今も連絡を取り合って協力し合っている。

■文明の起原を探るのは、川の源を探すのと違って「永遠の作業」だ

文明の起原を探るのは、川の源を探すこととは違う。河川の水源には明確な定義がある。川の長さをリモートセンシング画像上で計測し、はっきりと見ることもできる。しかし文明の場合は違う。特に中国のように多元的であり、かつ一体的な文明の場合には、一つの考古学チームが山西省である文明の存在の証拠を見つけ、別のチームは浙江省で、さらに古い証拠を見つけるかもしれない。その後、別の場所でさらに古い証拠が見つかるかもしれない。つまり文明の起原の探求は永遠に終わらない作業だ。

文明の起原に言及する際には、考古学上の証拠が不可欠だ。かつて中国が、シルクロードの世界遺産登録を申請した際には、海外から「シルクロードはどこにあるのか」との声が出た。つまり「実際の道」は存在するのかという疑問だ。われわれは高解像度リモートセンシング映像データを利用して、ソフトによるデータ処理や各種分析を行った。そして史料との比較確認により、古代駅伝システムの遺構や古代のオアシス、さらに耕地を発見し、シルクロードのデジタル化再現を行った。

広大かつ荒涼たる土地の上で遺構を探しあてることは、とても難しい。科学技術は、そうした知られざる証拠を見つけるのに役立つ。考古学でリモートセンシング技術は、「切り込み隊」の役割りを果たす。遺構の可能性がある場所を特定し、次に地上の研究チームが現地に足を運んで確認するわけだ。

■世界には複数の文明が存在することを知り、相互理解に努めねばならない

文明とは、人類が歴史の発展の中で創造してきた物質と精神と富の総和だ。民族によっては文化の特徴が異なる場合もある。だから文明間の対話は重要だ。共通の話題を見つけて互いに語り、研究し、検討する。見解が対立しており、すぐに合意を形成することが難しいこともある。しかし、互いに検討する過程があるからこそ、少しずつでもわだかまりを解消し、誤解を解くことができるのではないか。

中国には古くから「和して同ぜず」という考え方がある。これは偉大な考え方だと思う。他者に対して、自分と同じになることを強要はしない。地球から西洋という地域、あるいは東洋という地域をはぎとることはできない。仮にそんなことをしたら、地球は安定を失い自滅する。誰も生き残れない。文明についても同じだ。この世界には多様な文明が存在してこそ、人類は栄えることができる。

全世界規模の文明間の対話と交流について、今後はデジタル技術も重要になるはずだ。仮想空間を利用しての理解と交流が盛んになる。仮想空間に新しい文明形態が出現するかもしれない。文明の対話と交流については、このように新たな技術も考慮に入れねばならない。(構成 / 如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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