中国ドラマが日本で大人気、その「秘密」をあれこれ考えた

anomado    2022年12月7日(水) 23時0分

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日本で今、中国ドラマの人気が高まっている。そこで、その理由をあれこれ考えてみた。写真は人気作品の「陳情令」の主役を務めたシャオ・ジャン(左)とワン・イーボー(右)。

日本で今、中国ドラマの人気が高まっている。ファンによるSNSへの投稿も多い。テレビ番組情報サイトのWEBザテレビは2日付で「【2022年】中国ドラマ 人気作品まとめ【地上波・BS】」と題する記事を配信した。そこで、中国ドラマの何が日本人を魅了するのか、その理由をあれこれ考えてみた。

■ドラマの質の向上、巨大予算の投入

中国ドラマでよく言われるのが、巨大な予算を投入した豪華なセットだ。特に時代劇では顕著で、画面を見つめているだけでも「眼福」を感じさせてくれる。「女性セブン」2019年10月17日号によると、日本ではNHKの大河ドラマのように巨額の制作費を投じる番組は別として、民放キー局のドラマ制作費は1話当たり2000万-3000万円が相場で、しかも「抑え気味」の傾向だったという。

中国では、政府が2020年に発表したテレビ放送やネット配信用ドラマについての通達で、作品1話当たりの製作予算を400万元(約8000万円)以下に抑えることを推奨した。

ただ考えてみれば、「制作予算を400万元以下に」とする政府推奨があったということは、それ以上の制作費を投じる作品も多かったことを意味する。ドラマ制作費の「相場」は、すでに中国の方が日本より圧倒的に高い。その分、中国ドラマでは日本製ドラマではめったにお目にかかれない「ゴージャスな世界」をふんだんに堪能できるわけだ。

■中国の伝統、シャオ・ジャンワン・イーボーなどアイドル系俳優にも求められる高い演技力

ドラマに出演する俳優、特に主役を演じる場合には美男美女が多い。ただ、現実問題としては「あの俳優はイケメンだけど、演技の方はちょっとねえ」という場合もあるのではないか。

一昔前のことだが、日本ではテレビ局の女性アナウンサーについて「かわいいのだが、アナウンス技術が伴っていない」との批判が出たことがあった。そこで中国の放送局関係者に、「中国ではそういう問題はないのか」と尋ねてみたことがある。「ありえない」との回答だった。テレビアナウンサーを目指す場合に、容姿がよい方が有利であるのは事実だが、それ以前に、アナウンス技術が基準を満たしていないと「問題外」という。中国は人口が多いので、まずアナウンス技術で選抜してから、次に外見という要素を考えても、人材不足になる恐れはないとのことだった。

中国ドラマの日本人ファンの投稿を見ると、出演者の演技力を評価する声が珍しくない。では、中国では俳優をどのように育成し、選抜しているのだろうか。そのことを理解するには、中華人民共和国建国初期の状況を知っておいた方がよい。

中国は国の運営について、社会主義国の先輩だったソ連の方式を多く取り入れた。芸能関連も同様で、人民に健全で良質な娯楽を提供することは国家の責務と考えられた。そのため、国の力により中央戯劇学院などの俳優を養成する大学が各地に設立された。俳優だけでなく、監督や脚本制作、技術スタッフに至るまで、テレビや映画、舞台関連の人材を育成する大学が数多く設立された。

しかし中国は、ソ連式の芸能育成システムをそのまま導入したわけではない。「中国の伝統」という要素も見逃せない。中国は京劇をはじめとして、伝統劇が高度に発達した国でもある。そのような劇の「伝統的表現法」の中には、テレビや映画、ドラマに生かせる部分も多い。例えばSNSで、日本人の中国ドラマファンからの「女性の手の動きが美しい」と評価する投稿が見られた。実際に中国ドラマ、特に時代劇に登場する女性の手の動きについては、「伝統劇の方法を参考にしたのではないか」と思える場合がある。その他のしぐさについても、特に時代劇の場合には、伝統的な演技の方法を活用して「時代の雰囲気」を演出することが可能だ。

このように、俳優の「技術力」を高度に高める手法が確立され、実際に俳優の演技力が高められた中国では、「見た目がよい」だけでは、大型ドラマの主役に抜てきされることは、なかなかおぼつかない。そのような “国ぐるみ”のシステムが構築されたわけだ。

ただし、改革開放に伴い、俳優育成のための“正統的”な教育機関の出身者でない俳優も増えてきた。代表例としては、例えばシャオ・ジャン(肖戦)やワン・イーボー(王一博)がいる。シャオ・ジャンの場合には、重慶工商大学でデザインを学んだ。学生時代には大学の合唱団で活躍して、市の学生歌手コンクールで2等賞を獲得したこともある。卒業後は歌手や俳優として活躍するようになった。ワン・イーボーは13歳の時に参加したコンクールでヒップホップ部門の「全国16強」に入った。それがきっかけで、北京に本社を置く芸能事務所にスカウトされた。その後、中韓混成のアイドルユニットに入った。その関係で、韓国でも本格的な訓練を受けたという。

シャオ・ジャン

シャオ・ジャンにしてもワン・イーボーにしても、以前とは異なる“スター街道”を前進しているが、「アイドルであれば演技は二の次」という状況ではない。俳優としての活動については、演技力が常々話題になっている。人気を維持してさらに多くのファンを獲得するために、本人も「本気」で演技力を高めねばならないと自覚しているはずだ。つまり中国では「俳優であれば高い演技力を持っていて当然」という認識が確立しているだけに、これまでとは異なる経緯で俳優になった者も、相当に意識して演技力を高めていかねばならない、という状況が存在すると考えてよい。

■ドラマの質を評価できた日本人の鑑賞眼も特筆もの

もう一つ欠かせないことがある。日本人側の鑑賞眼だ。芸術や芸能については、いくら素晴らしい作品に接しても、鑑賞する側が理解できねば意味がない。

日本における中国ドラマについての少し前の状況は、例えば1995年から96年にかけてNHK-BSが「三国志」を放送した際には、やや注目を集めた。2013年にBSフジが放送した「宮廷の諍い女」も、「中国版大奥」とのキャッチフレーズも奏功したのだろうか、やはり一定の注目を集めた。

当初は散発的だったが、中国ドラマの良さに気付いた洞察力のある日本人は存在した。おりしもSNSが急速に発達する時期が到来し、彼ら・彼女らが、自分が好きになった中国ドラマについて投稿したことが、より多くの人々に関心を持たせることにつながったと考えられる。

このあたりの経緯は韓国で制作されたドラマ、いわゆる韓ドラとは状況が異なるようだ。韓ドラに大きな人気が出たきっかけは、何と言ってもNHKが2004年に地上波総合で「冬のソナタ」を放送したことだった。極めてよくできたドラマであり、主演したペ・ヨンジュンがきわめて魅力的だったことは事実だが、テレビ局としては別格であるNHKが地上波で放送した影響が何と言っても大きかった。

そう考えてみれば、韓ドラ人気は「よい作品を見出した大手メディアが仕掛けた」側面が強かったのに対し、中国ドラマの場合には「その良さを理解した日本人が、ネットを利用して草の根的に浸透させていった」傾向が強かったと考えることができる。

ワン・イーボー

■中国ドラマの日本での認知は、中国にとっても日本にとっても有益

中国は2000年ごろから、それまでにも増して海外への情報発信を重視するようになった。中国では「わが国の真の姿が、海外ではしっかりと理解されていない」との考えが強い。だとすれば、中国ドラマがきっかけで、中国のことに関心を持つ人が増えることは歓迎すべきことだ。特に、歴史的にも地理的にも関係が密接な日本で中国に対する関心が高まることは、中国にとって望ましいことだ。

また当然ながら、海外でドラマが売れれば、より大きな利益を上げることができる。得た利益を次の作品につぎ込んで、さらに作品の質を高めることもしやすくなる。利益の増大と質の向上が結びつけば、ビジネスとしてのよい循環が発生することになる。

では、日本で中国ドラマの人気が高まることは、日本人にとってよいことなのか。中国は最近になり急速に台頭してきた国だ。そのような国と周囲のあつれきが発生することは珍しくない。その結果、周囲がその国を大した理由もなしに見下したり反発するようになることも、珍しくない。高度成長期の日本も「エコノミック・アニマル」などとさげすまれたものだ。

もちろん、中国当局が行っていることには、日本人として納得できないこともあるだろう。ただし、そのことで、中国を全否定してしまうことが、日本人にとってよいことなのか。

ある国を評価していなくても、その国が生み出すものの中に自分が大好きなものがあれば、人として全面否定はあまりしないものだ。どの国についても、もちろんどの人についても、よい面もあれば悪い面もある。そんな当たり前の感覚は失うべきでないだろう。

日本で中国ドラマの人気が高まれば、中国について客観的な見方ができる。言い方を変えれば、是々非々で判断できる人も増えるだろう。そういう状況に近づく助けになるならば、日本で中国ドラマの人気が高まることは、日本人にとっても悪いことではない。(構成/如月隼人

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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