“八角形のジャングル”に立ち続けた男、総合格闘技「UFG279」出場の李景亮選手

中国新聞社    2022年12月3日(土) 0時0分

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中国では、さまざまな格闘技の選手が増えた。海外で開催される重要な大会に出場する選手も出るようになった。その中の一人が李景亮選手(写真)だ。

中国では、さまざまな格闘技の選手が増えた。海外で開催される重要な大会に出場する選手も出るようになった。その中の一人が李景亮選手だ。米国のラスベガスで現地時間9月10日に開催された「究極の格闘技大会」とも言われるUFC279にも出場した。試合は金属製の八角形のケージの中で行われた。李選手は微妙な判定で敗れはしたが、メインカード5試合の敗者の中で、最後までKOされず、あるいは試合を放棄しないで戦い続けたのは李選手だけだった。中国メディアの中国新聞社はこのほど、李選手に取材して、UFC279および格闘技全般への取り組み、さらに今後について紹介する記事を発表した。以下は、中国新聞社の記事を再構成したものだ。

■「間違った判定」の犠牲になっても「私は全てを受け入れる」と表明

李選手がUFC279で対戦したのは、米国人のラニー・ロドリゲス選手だった。判定は微妙だった。大会のSNS公式アカウントには、「李選手は勝利を盗まれた」と主張するファンからのコメントが並んだ。アルティメット ファイティング チャンピオンシップ(UFC)のデーナ・ホワイト会長も「李景亮の勝ちだったと思う。審判の採点は間違っている」と述べた。

しかし李選手はしばらくして、「そもそも世の中には不公平なことがたくさんある。自分がやりたければ、やればいいんだ。私は全てを受け入れる」と表明する動画を投稿した。そしてUFCは、UFC279の大会が終了してからしばらくして発表した世界ランキングで、李選手をロドリゲス選手と同じ14位とした。

UFC279では、試合前に混乱があった。ある選手の体重が階級別体重制限の上限を7.5パウンド上回っていることを理由に、相手選手が対戦を拒否したのだ。そのため対戦の組み合わせが大きく変更されることになった。その結果、李選手は自分より体重が8.5パウンド重いロドリゲス選手と対戦することになった。格闘技の専門家からも、ある選手が自分より重い選手との対戦を拒否したことで、李選手に体重差がある選手を押し付けるのは不公平だとの声が出た。

実は、出場した選手はいずれも、対戦相手の変更について主催者側と交渉して、自分を可能な限り有利にしていた。自分より体重のある選手との対戦を認めた場合には、報酬を上積みさせていた。李選手側だけが、そのような交渉を知らなかった。

李選手のコーチを務める張鉄泉氏は、同件についていろいろ反省したと述べた。張氏によると、中国の選手の物事の処理の仕方と西洋の選手には違いがある。李選手も中国人選手であり、「主催者側に協調」しようとする傾向が強い。西洋の選手は自分の利益を優先する。プロの格闘家である以上、自分がやっていることはビジネスと考え、自分自身の利益を最大化しようと動く。こちらが対人関係や全体の調和を考えているのに、周囲がすべて「ビジネスパーソン」として振る舞っていたら、どうしても損をするという。

■中国と縁があるUFCに、安定感ある中国人選手が初めて出現

李選手は1988年に新疆ウイグル自治区のタルバガタイ地区で生まれた。13歳の時にレスリングを学び始め、最初は社会人チームに所属したがプロに転向した。自治区の大会ではフリースタイルレスリング69キロ級で3位に入賞した。そして、中国式キックボクシングである散打のトップ選手だった内モンゴル出身のボラグ(宝力高)氏に付いて散打を学んだ。

ボラグ氏は、タイのムエタイ選手と対戦するなど、国際的にも活躍していた。李選手はボラグ氏の導きで、国際的な総合格闘技の道に入った。総合格闘技の世界で、最大の舞台とされるのが1993年に始まったUFCだ。李選手のコーチである張鉄泉氏は、中国人として初めて、2010年にUFCと契約した。張氏の協力を得て、李選手はUFCとの最初の契約をした。

UFCは選手にとって過酷だ。3連敗すれば再契約ができない可能性が出てくる。張氏は2勝4敗の成績でUFCを去った。UFCと契約した2人目の中国人選手は李選手と同郷の新疆出身だったが、わずか3試合にしか出場できなかった。李選手は、UFCの八角形のケージの中に何回立てるか、自分の実力をどれだけ高められるかは、自分自身のみにかかっていると覚悟を決めたという。

李選手は苦しい試合を何度も経験したが、“ギブアップ”したことは一度もない。相手に数十秒にわたって締め上げられてもマットをたたかずに、そのまま意識を失ったことが何度かある。

李選手はUFCの中でも、安定した選手になった。まだ「前座」だった時代からメインイベントを務める現在までの成績は19勝8敗で、うち10回はKO勝ちだ。

映画スターとして知られるブルース・リー(1940-1973年)は、実力ある格闘家であり、截拳道(ジークンドー)という武術を創設した。リーは総合武術競技、すなわち無制限の全能格闘理論を提唱した。リーが提唱した武術は、現在の総合格闘技の原型と見なせる。現在のリング形式のプロ総合格闘技は1970年代前半に始まった。主要な創設者だったジョー・ルイス氏は、ジークンドーを学ぶブルース・リーの高弟の一人だった。

■「来年に引退」の衝撃発言、その後の人生で目指すものとは

李選手は今回の取材に対して、35歳になる来年(2023年)に現役引退する考えであることを、初めて明かした。その後は、中国に総合格闘技を広める仕事をするつもりだ。まずは、プロ選手のマネージャーから始めるかもしれない。

というのは、中国ではこの職業分野が、まだほとんど「空白地帯」だからだ。李選手は自分が歩んできた道の後方で、優秀な選手が成長しつつあることを見ている。いかにして彼らの利益を守り、いかにして露出度を増やすか。彼らはきちんとしたマネージャーを必要としている。

総合格闘技は暴力的に見えるかもしれない。しかし、実際にはきちんとしたスポーツである点で、バスケットボールやサッカーと変わりはない。他のスポーツと同様に、合理的な方法で盛り上げねばならない。それにはしっかりとしたマネージメントが必要だし、UFCなどの興行とのパッケージ化が必要だ。

そのような将来の夢を実現する前に、李選手はUFCのチャンピオンベルトを手にせねばならないと考えている。本当に難しいことだ。しかも李選手にとってチャンスはあと1年しかない。中国の総合格闘技界にとっての李選手のこれまでの最大の貢献は、中国人選手として最も長くUFCという晴れ舞台の「八角形のジャングル」に立ち続けてきたことだ。そのことで後進のために道を切り開き、中国人の観衆に、中国人選手は世界に通じる実力があると信じさせた。後進選手と中国人観衆にさらに大きな勇気を与えるためにも、李選手は、夢のチャンピオンベルトを是非、手に入れたいと考えている。(構成 / 如月隼人


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