藤井さんの終活―華字メディア

Record China    2022年11月20日(日) 9時0分

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華字メディアの日本華僑報網は11日、1人の日本人女性の終活についてつづった「藤井さんの終活」と題する文章を掲載した。資料写真。

華字メディアの日本華僑報網は11日、1人の日本人女性の終活についてつづった「藤井さんの終活」と題する文章を掲載した。以下はその概要。

10年前、私は一戸建て住宅に引っ越した。向かいに住んでいたのが藤井さんという70代の女性だ。もともと東京に住んでいたが高齢の両親の世話をしに戻り、両親が亡くなった後も住み続けていると自己紹介された。見たところ藤井さんは1人暮らしのようだった。

当時、娘はまだ4歳でよく声を張り上げて泣いていた。近所に申し訳ないと思いながらもわざわざ謝りに行くのも気が引け、ばったり出会った藤井さんに急いで「(泣き声が)聞こえましたか?」とおわびを伝えると藤井さんは笑いながら「そんなに聞こえなかったわよ。気にしないで」と答えてくれた。

数年が経ったある日、私が庭を掃除していると1台の赤い車が目の前に止まった。開いた窓から姿を見せたのは藤井さんだ。「新車ですね!」と言う私に、「そうそう、これは私の人生最後の1台」と笑顔を浮かべる藤井さん。それを聞いて切なくなったが、藤井さんはこの言葉を気にもとめないかのように満足そうに座席に座っていた。この時、私は「日本の老婦人は本当にあかぬけている。前の車はまだ大丈夫だったし、免許証の返納を考える時だろうに新車にするなんて」とひそかに感心したものだ。

月日はゆっくりと過ぎて行き、元気だった藤井さんはだんだん足が悪くなった。近所への徒歩での買い物で、「休み休み歩く」という様子ながらお化粧をして服にもこだわりを見せる藤井さんの姿に、私は藤井さんがなぜ新車を買ったのか少し理解できた。

ある日、藤井さんは私に「陶器、いる?」と声を掛け、陶器が好きと答えた私に立派な瓶を三つくれた。ちょっとした花瓶のようなものだと思っていた私は「高価なものですよね」と慌てたが、これらが藤井さんの作品だと聞いてまた驚いた。作品は陶芸の先生レベルの出来栄えだ。藤井さんは以前、陶芸教室に十数年通っていて、家にはまだたくさんあると話した。

コロナ下で近所の人、藤井さんの姿も見掛けなくなったある日、藤井さんの赤い車をしばらく見ていないことに気付いた。聞けば終活で忙しくしているところで、車は売ったそうだ。「終活」の意味が分からないと言う私に藤井さんは「健康なうちに身の回りの物を整理、断捨離し、人生の最後の部分の設計をしておくこと」と説明し、「介護施設に入ることを決めたから片付けが必要なの」と語った。大切にしてきた服については、ネットで寄付に関する情報を見つけたそうだ。

その後、早朝から深夜まで、藤井さんの家からよくテレビの音が聞こえてきた。そしてある日、2台の車が止まり、行ってみると藤井さんの家から運び出された物がごみ収集車に放り込まれていた。藤井さんの姿は家の中にも外にも見えない。数分後、2階の窓からは陶器が次々と下に止まるごみ運搬車に投げ込まれた。心血が注がれ、大切にされてきた作品が廃棄物の山と化しているのだ。私はそこに行って「私に下さい」と叫びたかった。

家は空っぽになり、テレビの音も聞こえることはなくなった。藤井さんは自身が育った家、大好きな物と別れたのだ。物の処分を業者に全て任せたのは、見るに忍びなかったからかもしれない。藤井さんが新しい環境で楽しい日々を送ることを願っている。(翻訳・編集/野谷

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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